Lefschetz fixed-point theorem レフシェッツの不動点定理
Lefschetz fixed-point theorem(レフシェッツの不動点定理)は、Solomon Lefschetz(1884-1972)によって一般化された不動点定理です。「空間の形(トポロジー)」と「その空間上の連続写像が持つ不動点の存在」を結びつける定理です。ブラウワーの不動点定理をより一般化させたものと言えます。
1.定理
ある図形(空間) X があり、空間操作の写像 f: X →X を考えます。このとき、「空間の穴の数や次元(ホモロジー)」から計算される特定の数値が 0 でなければ、その写像には必ず不動点(動かしたあとも元の位置から変わらない点 x = f(x))が存在する、ということを示します。
2. 数学的な定義
コンパクトな向き付け可能多様体(またはより一般に有限なCW複体) X と、連続写像 f: X → X に対して、レフシェッツ数 L(f) を以下のように定義します。
$$L(f) = \sum_{k \ge 0} (-1)^k \text{Tr}(f_{*,k})$$
ここで:
- f*,k は、k 次有理係数ホモロジー群 H_k(X, \mathbb{Q}) 上に誘起された線形写像です。
- Tr はその写像の行列式におけるトレース(対角成分の和)です。
CW複体(CW complex)は、現代の代数トポロジーにおいて「もっとも扱いやすい図形のクラス」として定義される空間の構成方法です。
一言で言えば、「細胞(セル)と呼ばれる基本的なパーツを、次元の低い順にペタペタと貼り合わせて作った空間」のことです。
J.H.C. Whiteheadによって導入されたCW complexは、2つの重要な性質の頭文字を取っています。
- C (Closure-finiteness): 各セルの閉包(境界を含む範囲)が、有限個のセルとしか交わらないこと。
- W (Weak topology): 空間全体の連続性が、それぞれのセルとの関係性によって決まること。
定理の核心
L(f) ≠ 0 ならば、写像 fは少なくとも1つの不動点を持つ。
球面(S^2)の場合
球面のホモロジーは H0≅Q, H1 = 0, H2≅Q です。
もし f が恒等写像(何もしない)なら、各トレースは次元と一致し、L(f) = 1 – 0 + 1 = 2となります。
- 恒等写像ではない場合: 例えば、球を回転させる写像を考えます。対蹠点(真裏)に飛ばすような写像でない限り、基本的には L(f) ≠0 となり、回転の軸となる点(北極と南極など)が不動点として残ります。
ドーナツ(トーラス T^2)の場合
トーラスには L(f) = 0になるような写像(例えば、円周方向に少しだけずらす「回転」)が存在します。この場合、不動点が一つもなくても矛盾しません。ドーナツの上で全ての点が等しく移動できるのは、穴が開いているというトポロジー的特性のおかげです。
ただし、レフシェッツの不動点定理において、トーラスのレフシェッツ数が 0 になるのは「各次元の不変量(ホモロジーのトレース)が打ち消し合っているから」であり、情報が消えているわけではありません。
4. 定理の機能
- 「不動点があるか?」という難しい問題を「行列のトレースの計算」という線形代数の問題に落とし込める点。
- ブラウワーの不動点定理の証明: 例えば「球体(穴のない空間)」では L(f) が常に 1 になるため、どんな連続写像も必ず不動点を持つことが即座に導かれます。
- 数論への応用: この定理の数論版(代数幾何版)は「レフシェッツ・トレース公式」と呼ばれ、ヴェイユ予想の解決など、現代数学の極めて重要な局面で登場します。

