Kelly criterion|ケリー基準

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Kelly criterion|ケリー基準

前提条件として、破産確率が0%であることを公理のスタート地点とし、手元貨幣ポテンシャルを最大化するという問題を設定すると、ケリー基準が役に立ちます。

長期的な資産形成における「黄金則」を数学的に突き詰めると、「期待値が最も太いSPYのような資産をメインに据え、破産を避けるためのクッション(数%〜数十%の現金・債券)を添える」という形に収束し、期待値(リターン*ボラティリティ)がSPYよりも高いアセットを見つけた場合には順次そのポートフォリオを入れ替えするという公式となります。

「ケリー基準(Kelly Criterion)」を考案したのは、アメリカの物理学者であり数学者のジョン・ラリー・ケリー・ジュニア(John Larry Kelly Jr.)です。1956年に発表された論文『情報レートの新しい解釈(A New Interpretation of Information Rate)』の中で提唱されました。

「情報の価値」を数学にした

当時、ベル研究所の同僚だったクロード・シャノンが「情報理論」を確立し、情報量を「ビット」という単位で測れるようにしました。

ケリーはこれを受け、「情報を持っている(エッジがある)ことは、ギャンブラーにとってどれほどの経済的価値があるのか?」を考えました。

  • 予測したもの: 「情報の正確性(ノイズの少なさ)」と「資産の成長率」の直接的な相関関係。
  • 導き出した結論: 情報を正しく受け取れる確率が高いほど、指数関数的に資産を増やすことができる。

通信エラーを避ける

通信の世界では、信号がノイズで消えてしまうのは「エラー」です。ギャンブルの世界では、それが「破産」にあたります。

ケリーは、「一回限りの勝ち負け(期待値)」を最大化するのではなく、「何度も繰り返した後の最終的な結果(幾何平均)」を最大化する公式を作りました。

  • 期待値だけを追うと、どこかで全財産を賭ける(オールインする)のが正解になってしまいますが、それは一回でも負ければゼロになり、ゲームから退場(エラー終了)することを意味します。
  • ケリー基準は、「通信を永遠に維持しながら、情報のメリットを最も効率よく蓄積する方法」を予測したものなのです。
  • ケリーがこの理論を完成させたとき、彼はある種の「予言」をしました。それは、「もし未来について平均的な人より少しでも正しい情報(エッジ)を持っているなら、この数式に従うだけで、時間の経過とともに必然的にあなたは富豪になる」ということです。

1. ベル研究所と「情報理論」

ケリーは、ベル研究所に勤めていました。当時、彼の同僚には「情報理論の父」として知られるクロード・シャノンがいました。ケリーはシャノンが編み出した情報理論を、「通信(電波)」の枠を超えて「ギャンブルや投資」に適用できないかと考えたのです。

2. きっかけは「クイズ番組」

ケリーがこの理論を思いついたヒントは、当時テレビで流行していたクイズ番組でした。

  • 当時の通信システム(電報など)には、わずかな「ノイズ(情報の誤り)」が混じることがありました。
  • 「もしクイズ番組の正解を、ノイズ混じりの裏情報として知ることができたら、手元の資金をどう賭ければ破産せずに最大効率で増やせるか?」
  • この問いに対する答えが、「ケリー基準」です。

ケリー自身はこの理論をあくまで数学的な理論として発表しましたが、それを実践の場に持ち込んだのが、後に「クオンツ運用の父」と呼ばれるエドワード・オークリーソープ(Edward Oakley Thorp)です。

  • ブラックジャック: ソープはケリー基準を使い、カジノで勝つための「カードカウンティング」を確立しました。
  • ヘッジファンド: その後、ソープは株式市場に戦場を移し、ケリー基準を応用した世界初のクオンツ・ヘッジファンドを設立。驚異的な運用成績を収めました。
  • ウォーレン・バフェット: 投資の神様バフェットも、自身の投資スタイル(確信がある銘柄に大きく集中投資する手法)を説明する際に、しばしばケリー基準的な考え方に言及しています。

1. カジノを「攻略」し、出入り禁止に

1960年代、ソープはケリー基準と初期のコンピュータを駆使して、ブラックジャックの「カードカウンティング」を編み出しました。

  • 結果: 週末ごとにカジノへ繰り出し、当時の数千ドル(現在の数万ドル相当)を次々と稼ぎ出しました。
  • その後: あまりに勝ちすぎるため、多くのカジノから出入り禁止を食らいました。これがきっかけで、彼は戦場をカジノから「より巨大なカジノ」である株式市場へと移します。

2. ヘッジファンドでの驚異的な運用実績

1969年、彼はヘッジファンド(プリンストン・ニューポート・パートナーズ)を設立しました。ここでの実績は、投資のプロでも目を疑うレベルです。

  • 運用期間: 19年間
  • 平均年利: 約19.1%
  • 負けた年: 一度もなし(全19年間、年単位でプラス)

彼は「現代ポートフォリオ理論」が世に浸透する前に、市場の歪みを利用する「デルタ・ヘッジ」や「転換社債の裁定取引(アービトラージ)」を先駆的に行い、ほぼ無敗のまま運用を続けました。

3. ウォーレン・バフェットとの接点

実はソープは、若き日のウォーレン・バフェットとも面識があります。バフェットが初期に運営していた投資組合の出資者の一人が、ソープに「このバフェットという若者は信用できるか?」と相談した際、ソープは数時間の対談でバフェットの天才性を見抜き、「彼はいつかアメリカで一番の金持ちになるだろう」と予言したと言われています。

4. 彼が残した最大の「成功」

ソープの成功が特別なのは、「破産せずに無敗のまま勝ち逃げした」点にあります。 多くの天才数学者が市場で大損をして消えていく中(1998年のLTCM破綻など)、彼はケリー基準を厳格に守り、リスクをコントロールし続けました。

  • 現在: 90代を超えてもなお健在で、莫大な資産を築き上げた後、数学の研究や執筆、慈善活動を楽しんでいます。

「確率は我々に味方する」 彼は、投資を「ギャンブル(確率)」から「期待値のゲーム(数学)」に変えた先駆者でした。つまり、回数の問題を幾何の問題に還元したと言えます。

エドワード・ソープがカジノや株式市場で実際に運用し、その有効性を証明したケリー基準の基本公式は、非常にシンプルです。

1. ケリー基準の基本公式(離散的な場合)

勝てば b 倍の利益が得られ、負ければ賭け金を失うという「二者択一」のギャンブルにおいて、資産の何割(f^*)を投じるべきかを示す式は以下の通りです。

$$f^* = \frac{bp – q}{b}$$

  • f^*: 投資すべき資産の割合(最適な賭け率)
  • b: オッズ(利益 ÷ 損失)。※1ドル賭けて1ドル儲かるなら $b=1$
  • p: 勝つ確率
  • q: 負ける確率(1 – p)

2. 公式の読み解き方

この式を言葉で表現すると、(期待される純利益の比率)÷(勝った時の利益率)となります。

具体例:51%で勝つことのできる有利な賭け

  • 勝率p = 51%(0.51)
  • 敗率q = 49%(0.49)
  • 配当b = 1(1:1の配当)

f = 0.51 – 0.49/1 = 0.02

この場合、「資産の2%を賭けるのが、破産を避けつつ長期的に資産を最大化する」という答えになります。

3. 株式投資への応用(ソープの拡張)

ソープが市場で用いたのは、より複雑な「連続的な価格変動」に対応したモデルです。前述した以下の式がそれにあたります。

$$f^* = \frac{\mu – r}{\sigma^2}$$

  • μ(ミュー): 期待リターン
  • r: 無リスク金利(現金で持っていた場合の金利)
  • σ(シグマ): ボラティリティ(価格変動の標準偏差)

4. ソープが重視した「エッジ」

ソープはこの公式を盲目的に信じるのではなく、常に「エッジ(優位性)」があるかどうかを計算しました。

  • カジノでは: カードをカウンティングすることで、残りのデッキが自分に有利(p > 0.5)になった瞬間を見計らって f^* を計算し、賭け金を跳ね上げました。
  • 市場では: 転換社債と株式の価格差(裁定取引)から、数学的に確実にプラスになる「期待値」を算出し、そこにケリー基準で算出した適切なレバレッジをかけました。

成功のポイント:過信しないこと

ソープの著書『すべての市場に勝つ男(A Man for All Markets)』の中でも触れられていますが、彼は「現実の確率は正確には分からない」という前提に立っていました。そのため、公式が導き出した f^* の半分程度しか賭けない「ハーフ・ケリー」を推奨し、理論上のリスクをさらに抑えることで、19年間無敗という金字塔を打ち立てたのです。

SPYの最適投資割合

SPY(S&P 500 ETF)を対象に、ケリー基準で「理論上の最適投資割合」を計算してみましょう。

計算には、株式投資のような連続的な価格変動に適した公式を用います。

1. 前提条件の整理

歴史的なデータに基づき、一般的な数値を設定します。

  • 期待リターン (μ): 10% (0.1)(インフレ調整後の長期平均に近い数値)
  • 無リスク金利 (r): 4% (0.04)(米ドルの短期金利などの目安)
  • ボラティリティ (σ): 20% (0.20)(S&P 500の収益標準偏差)

2. 計算の実行

公式に当てはめます。

f^* = {0.1 – 0.04}{0.20^2} = {0.06}{0.04} = 1.5

この計算結果は 1.5 、つまり 「資産の150%」 を投資するのが理論上の最適解となります。実際にはリターン、ベンチマーク、リスクフリーレート、資本コスト、oppotunity cost、optionなどがあるので公式は複雑化します。

3. この「150%」をどう解釈すべきか?

数学的な「150%」という数字は、**「手元の資金だけでなく、50%の借金(レバレッジ)をして投資するのが最も効率的に資産が増える」**という意味になります。

しかし、現実には以下のリスクを考慮する必要があります。

  • 最大ドローダウンの恐怖: 150%(レバレッジ1.5倍)で運用しているときに、リーマンショックのような50%の暴落が来ると、資産の75%を失います。精神的に耐えられず、底値で売却してしまうリスク(強制退場)が非常に高いです。
  • 期待値の不確実性: 将来のリターンが本当に8%になる保証はありません。もし期待値が低く見積もられていたら、レバレッジは破綻を早めます。

4. 現実的な投資割合:ハーフ・ケリー

エドワード・ソープが推奨するのは、理論値の半分を割り当てる 「ハーフ・ケリー」 です。

  • 理論値 150% ÷ 2 = 75%

つまり、「資産の75%をSPYに、残りの25%を現金(または安全資産)で持つ」という状態です。これなら、暴落時にも現金を投入してリバランス(買い増し)ができ、精神的な余裕も保てます。

前提条件として、破産確率が0%であることを公理のスタート地点とし、手元貨幣ポテンシャルを最大化するという問題を設定すると、ケリー基準が役に立ちます。

長期的な資産形成における「黄金則」を数学的に突き詰めると、「期待値が最も太いSPYのような資産をメインに据え、破産を避けるためのクッション(数%〜数十%の現金・債券)を添える」という形に収束し、期待値(リターン*ボラティリティ)がSPYよりも高いアセットを見つけた場合には順次そのポートフォリオを入れ替えするという公式となります。