E11カッツ・ムーディ代数(E11 Kac-Moody algebra)

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E11カッツ・ムーディ代数(E11 Kac-Moody algebra)

カッツとムーディ

「カッツ・ムーディ代数(Kac-Moody algebra)」の名を冠するヴィクトル・カッツ(Victor Kac)ロバート・ムーディ(Robert Moody)は、1960年代後半に、それまで「有限」であったリー代数を合成拡張しました。

1. 二人の独立した発見(1968年)

ソ連のカッツとカナダのムーディは、1968年に全く独立して同じ理論に到達しました。

  • ヴィクトル・カッツ: 当時ソ連の若き数学者。代数的なアプローチから、有限次元リー代数の分類に使われる「カルタン行列」の条件をわずかに緩めることで、新しい代数系が生まれることを示しました。
  • ロバート・ムーディ: カナダの数学者。幾何学的なルート系の観点から、無限次元に広がる対称性を探求しました。

この二人の成果を合わせて「カッツ・ムーディ代数」と呼びます。

2. 合成代数操作

それまでの数学(キリングやカルタンによる分類)では、対称性は「円」や「球」のように、どこかで閉じた有限次元の静的構造(An, Bn, Cn, Dn, E6, E7, E8 など)として理解されてきました。

カッツとムーディは、以下の動的操作を導入しました。

  • 有限型(Finite): ルート系が有限で閉じており、私たちが知る結晶構造や E8 などに対応。
  • アフィン型(Affine): ルート系が「ループ」状になり、無限に繰り返される構造。弦理論における「閉じた弦」の振動を記述するのに最適。
  • 双曲型(Hyperbolic): ルートが増殖する構造。E10 や E11 はこのカテゴリー(またはさらに広義の性質)に含まれます。

カッツとムーディが定義した「0」の周辺

彼らの理論において、無限次元代数は「中心電荷(Central Charge)」という特別な要素を持ちます。

「無限次元の代数は、その中心(原点)に『中心拡張』と呼ばれる数学的な『ひずみ』を抱えている。このひずみが、静的な幾何学に『動き(計算)』を与え、量子力学的なゆらぎを生み出す原因である。」

1. E9:アフィン型(Affine)

E8において「不動の参照点」であった (0,0,0,0,0,0,0,0) は、E9、E10、E11へと階層が上がるにつれて、「ただの原点」ではなくなり、動的な変数(パラメータ)へと変化します。


カッツ・ムーディ代数 g(A) の数学的構成

一般化カルタン行列 A = (a_ij) が与えられたとき、以下の3つの要素で構成されます。

1. 生成元 (Generators)

以下の 3n 個の生成元を用意します。

  • e_i : 正のルートに対応する昇格演算子
  • f_i : 負のルートに対応する降格演算子
  • h_i : カルタン部分環の基底(ウェイトを決定)(i = 1, 2, …, n)

2. 基本関係式 (Defining Relations)

これらは、リー環としてのブラケット積 [ , ] において以下の条件を満たします。

  • カルタン部分環の可換性: [h_i, h_j] = 0
  • ウェイトの決定:
    • [h_i, e_j] = a_ij * e_j
    • [h_i, f_j] = -a_ij * f_j
  • 昇降演算子の交換関係: [e_i, f_j] = δ_ij * h_i(i = j のときのみ h_i となり、それ以外は 0)

3. セール関係式 (Serre Relations)

べき零性を保証するための重要な制約です (i ≠ j のとき)。

  • (ad e_i)^(1 – a_ij) (e_j) = 0
  • (ad f_i)^(1 – a_ij) (f_j) = 0

E1からE11までの構成定義

E8の構成 (i, j = 1 to 8)

E8のカルタン行列 A_E8 の成分 a_ij は以下のように定義されます。

  • a_ii = 2
  • a_ij = -1 (ノード i と j が隣接している場合)
  • a_ij = 0 (それ以外)

隣接関係(ディンキン図形)は、1-2-3-4-5-6-7 という一本の線に、3番目のノードから8番目が枝分かれした構造です。

系列の拡張

各ステップ n における生成元 e_n の追加と、カルタン行列の拡張として記述します。

有限次元リー環 (Finite)

  • E1: A1代数に相当。[h_1, e_1] = 2e_1
  • E2: A1 × A1 または G2 の文脈。
  • E3: A2 × A1 に相当。
  • E4: A4 (SL(5)) に相当。
  • E5: D5 (SO(10)) に相当。
  • E6, E7, E8: 例外型単純リー環。

アフィン・リー環 (Affine)

  • E9 (E8^1): E8に「虚ルート」に対応するノード e_0 を追加。
    • 定義拡張: i ∈ {0, 1, …, 8}
    • 中心電荷: k = Σ (a_i^v * h_i)

双曲型・超拡張型 (Hyperbolic / Lorentzian)

  • E10: E9にさらにもう一つのノード e_-1 を追加。
    • 行列の性質: det(A_E10) < 0。これにより代数は無限次元かつ非アフィン(双曲型)となります。
    • 指標: i ∈ {-1, 0, 1, …, 8}
  • E11: E10にさらにノード e_-2 を追加。
    • 定義拡張: i ∈ {-2, -1, 0, …, 8}
    • 物理的関係: 11次元のM理論の対称性を記述すると予想されている。

随伴表現による一般化形式(まとめ)

カッツ・ムーディ生成元関係式 (En系列)

n = 1 から 11 に対して:

  • [h_i, h_j] = 0
  • [h_i, e_j] = A_ij * e_j
  • [h_i, f_j] = -A_ij * f_j
  • [e_i, f_j] = δ_ij * h_i
  • (ad e_i)^(1 – A_ij) (e_j) = 0 (i ≠ j)

カルタン行列 A_ij の連結条件:

A_ij = 0 : ノード i と j が未結合

A_ii = 2

A_ij = -1 : ノード i と j がディンキン図形上で結合