Competition Model|ナッシュ均衡、クールノー競争、シュタッケルベルグ競争

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Competition Model|ナッシュ均衡、クールノー競争、シュタッケルベルグ競争

ナッシュ均衡を基底に、クールノー競争とシュタッケルベルグ競争の構造差を整理する。生産量競争では先手が有利となり、価格競争では後手が有利となる。

1. 3つの概念の整理

  • ナッシュ均衡(Nash Equilibrium)相手の戦略を所与としたとき、自らの戦略だけを変えても利得が増えない状態を指す。ゲーム理論の基本概念であり、価格競争・生産量競争・広告戦略など、あらゆる戦略的状況の基底となる。
  • クールノー競争(Cournot Competition)複数企業が同時に生産量を決める寡占モデルである。各企業は他社の生産量を予測しつつ自社の最適生産量を選ぶ。クールノー均衡は、生産量を戦略変数としたナッシュ均衡に他ならない。
  • シュタッケルベルグ競争(Stackelberg Competition)リーダー(先手)とフォロワー(後手)が順番に生産量を決める寡占モデルである。先手は後手の反応を見越して生産量を決めるため、部分ゲーム完全ナッシュ均衡(後ろ向き帰納法)の具体例となる。

2. クールノー競争とシュタッケルベルグ競争の比較

同質財を生産し、同じ限界費用 \(c\) を持つ2社(企業1・企業2)の複占市場を前提とすると、両者の違いは次のとおりである。

比較項目 クールノー競争(同時手番) シュタッケルベルグ競争(逐次手番)
意思決定の順序 2社が同時に生産量を決定する(相手の生産量は見えない) 先手(リーダー)が決定したのち、それを見て後手(フォロワー)が決定する
ゲームの分類 静学ゲーム(同時手番ゲーム) 動学ゲーム(展開形ゲーム)
均衡の概念 ナッシュ均衡(クールノー・ナッシュ均衡) 部分ゲーム完全ナッシュ均衡
各社の生産量 対称費用なら \(q_1 = q_2\) 先手 > クールノー > 後手(\(q_L > q_C > q_F\))
各社の利潤 対称費用なら \(\pi_1 = \pi_2\) 先手 > クールノー > 後手(先手優位の利潤差が生じる)
市場全体の総生産量 独占より多く、完全競争より少ない クールノー競争より多い(結果として市場価格は低くなる)

クールノー:同時手番

互いに相手の生産量を推測する反応曲線の交点対称なナッシュ均衡

両社の生産量・利潤は対称となり、先手優位は発生しない。

シュタッケルベルグ:逐次手番

先手が大量生産へコミットする後手は残差需要に反応する先手シェア・先手利潤が拡大する

総生産量は増え、価格は下がり、利潤配分は先手に偏る。

3. なぜシュタッケルベルグ競争では先手が有利なのか

直感的には、相手の出方を見てから動ける後手の方が有利に思える。しかし生産量競争では、先手(リーダー)が圧倒的に有利となる。

  1. クールノー競争(同時)の場合各社は「相手がこれくらい作るだろう」と推測し合い、反応曲線(相手の生産量に対する最適反応)の交点、すなわちナッシュ均衡で生産する。
  2. シュタッケルベルグ競争(順番)の場合生産量競争には「相手が多く作れば市場価格が下がるため、自社は生産量を減らす」という戦略的代替関係がある。先手はこの性質を利用し、クールノー均衡を超える生産量へコミットして既成事実化する。後手は大量供給を所与とせざるを得ず、価格下落を抑えるために生産量を縮小する。結果として、先手が市場シェアと大きな利潤を奪う。

4. 反応曲線と均衡の比較

逆需要を \(P = a – (q_1 + q_2)\)、企業 \(i\) の限界費用を \(c_i\) とする複占モデルでは、反応曲線の交点がクールノー均衡となり、先手のコミット点がシュタッケルベルグ均衡となる。基準ケース(\(a=100,\ c_1=c_2=20\))は次図のとおりである。

反応曲線と均衡点。青が企業1の反応曲線、金が企業2の反応曲線。Cがクールノー均衡、Sがシュタッケルベルグ均衡(企業1=先手)。
図:反応曲線と均衡(\(a=100,\ c_1=c_2=20\))。先手均衡Sはクールノー均衡Cより右側に位置し、先手生産量が大きい。

パラメータを動かすと、下図の均衡位置と数値表が更新される。



補足:価格で競争する場合(ベルトラン競争)との違い
企業が生産量ではなく価格を決めて競争する場合、先手が提示した価格に対し、後手がわずかに安い価格を付ければ需要を奪える。したがって価格競争では逆に後手が有利となる。クールノーやシュタッケルベルグは、半導体・資源採掘・大規模製造業など、事前に設備と生産量を決める必要がある市場の分析に適する。

ただし、現実の経済では完全に同じスペックの財やサービスを複数の企業が同じ場所で提供することはありえず、常に資源は排他的である。たとえトヨタ自動車だとしても、愛知県に車両を展開するコストと、沖縄に車両を展開するコストは一律ではない。現実空間ではロカリティという物理原則が数理の上位で働く以上、ナッシュ均衡のはるか上のプライシングリーダーとしての正当性(信頼モデル)を先手で樹立した主体が、純利益としての市場牽引を担うこととなる。

ファッション業界に置き換えるとすれば、年間数十万点しか生産することのないルイ・ヴィトンが、年間十数億点を生産するファストファッションを純利益で凌駕するという現象が起きてしまう。これは限定資源ノードとしてのゲーム参加者が限定演算能力しか持っていないことが原因となり、ナッシュ均衡に至るまでの演算を終わらせることは決してないということの証左である。