computerの語源
「Computer」という言葉の語源や歴史を遡ると、その始まりは17世紀初頭(1600年代初頭)です。
1. 言葉の誕生:1613年(17世紀)
オックスフォード英語辞典(OED)によると、文献に「computer」という単語が最初に登場したのは1613年。イギリスの作家リチャード・ブライスウェイト(Richard Brathwait)が著した『The Yong Mans Gleanings』という本の中です。
「私は、時を最も正確に計算する人(truest computer of Times)であり、これまでで最高の算術家である人物について読んだことがある…」
この時代から、語源であるラテン語の computare(計算する、総計する)に、人を表す -er がつき、「計算を行う人(計算手)」という意味の単語として使われ始めました。
2. 人間の職業として定着:1700年代〜1800年代
18世紀から19世紀にかけて、天文学、航海術、測量などの分野で大量の計算が必要になると、「Computer」は立派な職業・役職名として定着しました。特に、何百人もの人間が分担して数表を作るようなプロジェクトにおいて、彼らはまさに「組織化された人間コンピュータ」でした。
3. 「機械」への意味の転換期:1897年
言葉が誕生してから約300年の間、「人間」を指していたこの言葉ですが、19世紀末の1897年ごろから、徐々に「計算を行う機械(Calculating machine)」を指す言葉としても使われ始めます。チャールズ・バベッジが構想した機械式計算機(階差機関や解析機関)などの発展に伴い、道具としての機械にもこの名前が応用されるようになりました。
4. 現代の定義への完全なシフト:1945年以降
世界初の汎用電子デジタルコンピュータ「ENIAC(エニアック)」が登場した1945年ごろを境に、現代私たちが知る「プログラム可能な電子計算機」という意味が定着しました。
💡 語源のまとめ
- 1613年(約410年前): 最初に使用される(意味:計算する人)
- 1897年(約130年前): 機械に対しても使われ始める
- 1945年(約80年前): 現代のデジタルコンピュータを指す言葉になる
アラン・チューリングが1936年の論文を執筆した当時、「Computing(計算すること)」や「Computer(計算機)」という言葉が指していた意味は、私たちが今日使っている意味とは異なっていました。当時の “Computer” とは機械ではなく、「計算を行う人間(計算手)」の役職名であり、”Computing” とは「人間が鉛筆と紙を使って、決められた手順通りにコツコツと計算する行為」そのものを指していました。紙、記号、そしてステップの記憶という3つの手続きをscanned simbol, tape, memory, machineと置き換えたのです。
ON COMPUTABLE NUMBERS, WITH AN APPLICATION TO THE ENTSCHEIDUNGSPROBLEM
1. “Computer” は「計算を職業とする人」だった
1930年代当時、天文学の軌道計算、弾道計算、人口統計、銀行の利息計算などの膨大な計算は、すべて人間(主に数学の素養がある女性たち)のチームによって行われていました。この計算作業に従事する人々の職種名が “Computer”(計算手) でした。チューリングは論文の中で、機械について語る前に、まずこの「人間の計算手」の行動を観察することからスタートしています。
チューリングの着眼点:
「人間の計算手が計算するとき、一体何を行っているのだろうか?」
2. 当時の “Computing”(計算)の定義
チューリングの時代、”Computing” とは以下の3つの要素で行われる行為とみなされていました。
- 紙(ノート): 計算手が数字を書き込み、読み取るための媒体。
- 記号: 紙に書かれる数字や文字。
- 状態(心の状態): 計算手が「今、計算のどのステップにいるか」という記憶。
人間の計算手は、「ノートに書かれた数字を見て」「ルールブック(手順書)に従い」「次の数字を書き込み、ステップを進める」という作業を繰り返していました。
3. チューリングは何をしたのか?
チューリングの功績は、この「人間の計算手が頭と手を使って行う『Computing』という行為」を、機械的なプロセスに置き換え(モデリング)したことにあります。彼が考案した a-machine(自動機械、のちのチューリングマシン)の各パーツは、当時の人間の計算作業と1対1で対応しています。
- 無限に長いテープ tape= 計算手が使う「マス目のある紙(ノート)」
- Square= tapeの区画
- 読み書き= 計算手の「目」と「手(鉛筆)」
- 内部状態(m-configuration) = 計算手の「頭の中の記憶(今どのステップか)」
- 状態遷移表(プログラム) = 計算手に与えられた「計算手順書(ルールブック)」
4. 語彙の意味の転換点
チューリングの論文(1936年)や、その後のフォン・ノイマンらによる概念の具現化を経て、1940年代後半から1950年代にかけて、”Computer” の意味は「計算する人」から「計算する電子機械」へと完全にシフトしていきました。チューリングは「人間が行う『Computing』という行為を抽象化・記号化することで、逆説的に『人間でなくても(機械でも)計算は可能である』ことを証明した」のです。これが、現代のデジタル・コンピュータが誕生する哲学的な土台となりました。

