Steve Smale スティーブスメール
“P versus N P — a gift to mathematics from computer science”
–Steve Smale
Stephen Smale ステファンスメール (July 15, 1930-)はフィールズ賞(1966年)、ウルフ賞(2007年)を受賞しており、その業績は純粋数学から計算機科学にわたります。
1. 高次元ポアンカレ予想の解決
- 内容: 「n 次元の図形が n 次元球面と同じような性質(単連結など)を持っていれば、それは n 次元球面である」という予想を、n ≧ 5 の場合について証明しました。
- 衝撃: 当時、3次元や4次元の解決が非常に難しいとされていた中、彼はあえて高次元(5次元以上)から攻めるという逆転の発想で成功しました。この際に開発された「h-コボルディズム定理」は、現代のトポロジー(位相幾何学)の基礎となっています。
2. 「スメールの馬蹄形」とカオス理論(動学系)
それまで、微分方程式の解は安定した秩序あるものと考えられがちでしたが、スメールはカオス(混沌)が普遍的に存在することを数学的に示しました。
- スメールの馬蹄形(Smale Horseshoe): 図形を引き伸ばして折りたたむ操作を繰り返すと、極めて複雑で予測不能な動き(カオス)が生じることを示す幾何学的なモデルを考案しました。
- 影響: これにより、「力学系」という分野が大きく発展し、気象予測や物理現象の複雑さを理解するための道筋を作りました。
3. 球面の裏返し(Sphere Eversion)
- 内容: 「球面に穴を開けず、自分自身を通り抜けてもよい(ただし折り目はつけない)」という条件下で、「球を裏返すことは可能である」ことを数学的に証明しました。
- 意義: 直感的には不可能に見えることが、数学的には可能であることを示しました。
4. 計算の計算理論(数値解析・計算機科学)
スメールは「連続的な数値を扱う計算機」の限界と可能性についても洞察を与えました。
- BSSモデル: 従来の計算理論(チューリングマシン)は「0と1」の離散的な世界を扱いますが、スメールは実数や複素数を直接扱うための計算モデル(Blum-Shub-Smaleモデル)を提唱しました。
- 経済学: 数理経済学においても、一般均衡理論の存在証明にトポロジーの手法を導入するなど、大きな足跡を残しています。
スメールの21世紀の問題
1998年、彼はヒルベルトにならって「21世紀に解決すべき18の問題(スメールの問題)」を発表しました。このリストには、前述の「P対NP問題」や「リーマン予想」、「ナビエ・ストークス方程式の解の存在」などが含まれており、現代数学の羅針盤となっています。

