Tetralemma テトラレンマ

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Tetralemma テトラレンマ

「テトラレンマ(Tetralemma)」は、西洋哲学の文脈では比較的新しい用語ですが、その根源となる「四句分別(しくふんべつ)」という論理構造は、紀元前のインドにまで遡ります。

数学的なオブジェクトの「境界」や「存在性」を定義しようとする現代の試みにも通じます。

1. 起源:古代インドの不可知論(紀元前6世紀〜5世紀頃)

テトラレンマの原型は、釈迦(ブッダ)と同時代のインドに存在した「六師外道(ろくしげどう)」の一人、サンジャヤ・ベーラッティプッタにまで遡ると言われています。

  • 提唱者: サンジャヤ・ベーラッティプッタ
  • 時代: 紀元前6世紀〜5世紀頃
  • 思想: 彼は「あるか?」「ないか?」といった形而上学的な問いに対し、以下の4つの回答をすべて検討し、最終的に判断を停止(不可知論)しました。
    1. Aである
    2. Aではない
    3. Aであり、かつAではない
    4. Aでもなく、かつAでもない

2. 確立:龍樹(ナーガールジュナ)と「空」の論理(2世紀頃)

この4つの選択肢を「論理的な道具」として完成させたのが、大乗仏教の父と呼ばれる龍樹(ナーガールジュナ)です。

  • 提唱者: 龍樹 (Nagarjuna)
  • 著書: 『中論(ちゅうろん、Mulamadhyamakakarika)』
  • 時代: 紀元2世紀〜3世紀頃
  • 目的: 龍樹は「四句分別」を用い、**あらゆる執着(固定観念)を打ち破る(破邪)**ためにこれを使いました。
    • 彼は「Aでも、非Aでも、両方でも、両方否定でもない」とすべての選択肢を否定し尽くすことで、物事には固定的な実体がない(空:Sunyata)ことを示しました。

数学的接点: 龍樹の論理は、現代の「圏論」における「対象(Object)はそれ自体の属性ではなく、他の対象との関係性(Morphism)によってのみ定義される」という考え方に驚くほど似ています。

3. 近代:西洋への導入と「テトラレンマ」の命名

「テトラレンマ」という言葉自体は、西洋の論理学者がギリシャ語の “Tetra”(4つ)“Lemma”(補助定理/前提) を組み合わせて作った造語です。

  • 背景: 19世紀から20世紀にかけて、東洋哲学が西洋に紹介される中で、アリストテレス的な「排中律(Aか非Aのどちらかしかない)」を超える論理体系として注目されました。
  • 現代の応用: 20世紀後半、ドイツの心理療法家マティアス・ヴァルガ・フォン・キベドらが、意思決定のフレームワークとして「テトラレンマ」を再定義しました。