Inerasables 先行者優位 vs 後発者優位 vs 残存者利益|スタートアップの勝ち方の基本

スタートアップの勝ち方の基本形
スタートアップが解くべき問題はPLの最大化問題ではない。他者が山に登ろうとする失敗からランドスケープ(地形)を予測するトポロジー問題である。後発者でも簡単に勝てるスコープ(谷)の特定と、スコープ内におけるBS, PL, CFのトポロジカルな最適化問題を解く必要がある。
局所的に言えば、増収問題はスタートアップにとって無意味である。増収 and 限界利益率の最適化問題でないと回答がでない。さらに広域にすれば、限界利益率が高くても、資本効率が低くては成長は加速しない。限界利益率が高くても設備投資が重く、フリーキャッシュフローが常にマイナスでは成長しない。
山を狙うのではなく、谷を狙う位置ポテンシャルの停留特定問題がスタートアップ問題解決の基本である。谷は極大、極小、鞍点のいずれかの状態を取り、谷を抜ける高エネルギーがかかるまでは停留状態を抜けることはない。これがエネルギーとして参入障壁を捉えた際の実態である。
熱をかけるハイプはスタートアップの成功を約束せず、熱が冷めた後の谷にたまった湖がビオトープを作るオアシスとなるのだ。
資本効率(ROIC)、FCFマージン、トップライングロースのトレードオフ問題
一般的に資本効率 or 増収 or 増益 or 営業CF にはトレードオフがあり、資本効率(ROIC)、FCFマージン、トップライングロースのトレードオフをコントロールできるのが成功するスタートアップ経営者の特徴である。企業会計は複雑なので、誤魔化そうと思えば意外とテクニック的に誤魔化すことができる。そしてそのごまかしがバレるまで5年から数十年かかることもある。しかし、見た目を誤魔化すことに根本的なメリットはなく、ごまかしをせずに成長させた方が富が積み上がり、楽に成功することができる。
先行者優位 vs 後発者優位 vs 残存者利益
先発優位性: First-mover’s Advantage
後発優位性:Latecomer’s / Second-mover Advantage
残存者利益:Survivor’s Premium/ Residual Benefit / Last Man Standing Inerasables
スタートアップで資金調達をする経営者は常に先行者優位性を意識するだろうが、真に意識すべきは「後発者優位性」であり、「残存者利益」である。
先行者優位性は常に国家、大企業、財閥が莫大な紙幣発行権(シニョレッジ)を根拠として行う赤字掘りゲームである。巨額を動かし、赤字を出せば出すほど注目され、喜ばれる。
一方スタートアップが取り組むべきは赤字掘りではなく、キャッシュの回収である。スタートアップの基本は債権回収であり、借金取りの代行のようなものである。スタートアップにとって、売上に紐づいた変動費とならないような研究開発は全くもって不要であり、先行者利益を求めて戦った大組織のエネルギーの残穢を集めるリベロであるべきだ。
スタートアップは産業設立の投資者ではなく、産業廃棄物の回収者なのである。銅の精錬で生まれるゴミであるアノードスライムからゴールドやプラチナを取り出すのと同様、大組織がゴミとして捨てているものの中からゴールドやプラチナを取り出すのがアウトサイダーとしてのスタートアップの基本的な役割である。
スタートアップの基本ステートメント
従って、スタートアップ成功の基本ステートメントは「後発者優位性を前提として、先行者が大資本でかき乱した市場の残穢の中から、事業特性に最適化された限界利益率モデルを発見することにより、フリーキャッシュフローの損益分岐点(ブレイクイーブン)を発見し、次の後発者が入ってくるまでオペレーティングレバレッジを伴う残存者利益を享受し続ける参入障壁を構築することである。」売上の増収はフリーキャッシュフローによって純資産が太っていくことに従属するインジケーターのほんの一つでしかなく、ARRマルチプルという言葉はゴミとゴールドを一緒くたに扱ってしまう間違った流行語である。
フリーキャッシュフローの成長可能性に競争優位性があるかどうかについて、将来CFを現在価値に割り引くために必要な計算根拠は株式市場にはないと考えた方がよい。
財閥の真似をすると負ける|財閥は時間の力で膨張した一般人である
スタートアップがシニョレッジを持つ大企業に巻き込まれて赤字を垂れ流すのは悪い親の真似をしてさらに落ちぶれてしまう子供のようである。賢い子供は親の失敗を再現せず、その中にあるごく一握りの金塊だけを抽出する。
スタートアップの投資家はほとんどが財閥なので、資本力のある財閥は正しいと鵜呑みにしてしまう可能性は高い。財閥は、何か正解を持っているわけではない。財閥は時間の力で膨張した一般人である。大企業と資本業務提携しても学べるものは一つもないし、サプライチェーンですら競争優位性を構築するためのバリューチェーンとしては全く価値がない。もし価値があるとしたらROICが世界首位になっているはずであるが、ROICが30%を超える1兆円級の純利益事業は日本には存在していない点で、何も参考にすることができないのだ。
Inerasables
残存者利益は英語ではSurvivor’s Premiumだが、TANAAKKではInerasablesと定義したい。ゴミや残骸、残穢の中にも消すことのできない一握りの高付加価値元素が眠っているのである。潰し切ったとしても、「消すことができない」ものこそが価値であるという意味で、残存者利益はInerasablesである。
コンペティティブROICとフリーキャッシュフロー創出の流れ
コンペティティブなROICを生み出すために、常に、先手でのモデル設計と先手行動が必須となる。大企業は常に後手でしか動けないが、スタートアップは論理、幾何、代数という数理でランドスケープを理解していく自然法に関するサイエンスである。
- 売上の急成長と大きな赤字が共存している業界を探す
- 他者が増収で大赤字の業界を特定
- 1000万円ほどの資本を準備する(このくらいはやろうとすれば誰でも集められるはず)
- 固定費の先行投資(土地、建物、設備、機械、ソフトウェア)※賃貸、リース、SaaSでOK
- 他者が増収で大赤字の業界を特定
- 売上に対する変動費のコントロール(限界利益率を30%以上にする)
- 価格パッケージの中に含めるべきバリューチェーンを特定する
- 絶対に損をしないコスト構造とプライシングを決定する
- 増収だが赤字の業界では、通常他者は過剰なコストと価格競争で倒れる。つまり、絶対に赤字にならない価格設定ラインを設定できた事業者は増収のスピードが遅くみえても利益が積み上がる。
- 追加3000万円調達する
- 固定費を限界利益が上回るポイントに向けて限界利益率をコントロールする
- ブレイクイーブンポイントの特定
- プライシングとコスト構造の確定
- グロース&オペレーティングレバレッジのモニタリング
- プライシング特性を見極める。価格を上げて限界利益率を上げたとしても価格弾力性が低いラグジュアリーや専門サービス業なのか、価格を下げて限界利益率をギリギリまでさげないといけない量産型ビジネスなのか。後者であれば勝ち筋は薄いので前者のビジネスモデルに寄せていく必要がある。
限界利益モデルの出口
| モデル | 戦略の方向性 | 限界利益率の目安 | オペレーティング・レバレッジの使い道 |
| デジタルバリューチェーン垂直統合/ 専門ソフトウェア | 高単価・ニッチ | 極めて高い(50%〜90%) | 少数の顧客で固定費を早期回収。レバレッジより「ブランド維持」に投資。 |
| 量産型ビジネス (Tier1等) | 低単価・高頻度 | 適正水準(20%〜30%) | 薄利多売。圧倒的な「量」で巨大な固定費をなぎ倒し、規模の経済で競合を排除。(ただし後発者は成功しにくい) |
大企業は肥大化した一般人になる
注意したいのは大企業に優秀な人がいないということではない。大病院の医者はどんなに優秀だとしても、法律の前提として運ばれてきた患者を選ぶことはできない(受け入れるしかない)のと同様に、大企業はどんなに優秀な個人がしたとしても顧客や仕事を選ぶことができない。つまり、優先順位がつけられない、スコープを変更できない、捨てる戦略が取れない以上、オペレーティングレバレッジを主体的に設計することはできない。どんなに優秀な個人がいたとしても大企業の中では海に溺れるのと同様キャパシティオーバーになってしまい、体格さや処理能力の違いが無力化される一般人、平均点に格下げされてしまうのである。そのような組織の評価関数は人気投票であり、人気投票は純資産の増加と排反する。もし仮に同じ職場に純資産が毎年2倍で金持ちになっていく同僚がいたとしたら、その人だけ楽をしていると攻撃されるだろう。村八分にされて当然である。つまり、大企業では突出した個人を育成することが不可能である。
先行者優位 vs 後発者優位 vs 残存者利益
スタートアップの勝ち方は、先行者として市場を切り拓くことではない。他者が資本力で山に登ろうとして失敗した軌跡から市場のランドスケープを読み解き、後発者でも確実に勝てるスコープ(谷)を特定し、その中で資本効率・限界利益率・キャッシュフローを最適化することにある。増収それ自体には意味はなく、増収・限界利益率・ROIC・FCFのトレードオフを同時に制御できて初めて成長は成立する。限界利益率が高くても資本効率が低ければ成長は加速せず、フリーキャッシュフローが恒常的にマイナスであれば企業は拡大できない。
先行者優位とは、国家・財閥・大企業がシニョレッジを背景に行う赤字掘りのゲームである。スタートアップが取るべき戦略はそれではなく、後発者優位を前提に、キャッシュを回収する構造を設計することである。スタートアップは産業設立の担い手ではない。大組織が赤字の末に捨てた非効率・過剰投資・歪みという「産業残骸」の中から、消すことのできない高付加価値だけを抽出する産業廃棄物回収者である。この、潰し切っても消えない価値こそが、TANAAKKの言う Inerasables(残存者利益) である。
スタートアップ成功において再現性のある本質は、後発者として入り、絶対に赤字にならない価格とコスト構造を先に確定し、フリーキャッシュフローのブレイクイーブンを早期に発見し、次の後発者が現れるまで、オペレーティングレバレッジを伴う残存者利益を享受し続ける参入障壁を構築することにある。売上成長やARRマルチプルは、フリーキャッシュフローによって純資産が増加した結果として現れる副次的な指標にすぎない。大企業や財閥は正解を持っている存在ではなく、時間の力で肥大化した一般人である。スコープとプライオリティを選べず、捨てる戦略を取れない組織では、主体的なオペレーティングレバレッジ設計も、突出した個人の育成も不可能である。
スタートアップとは、個人の人生の寿命という限られた時間を制約条件として、増収赤字の業界に後発者として入り、最後まで生き残る間の残存者利益を効率的に回収するための構造を数理的に設計するサイエンスを根拠としており、数理モデルを即座にマテリアライズするエンジニアリング組織である。
まとめ:スタートアップの勝ち方の基本
- スタートアップの問題は P&Lではなく、地形(他者の失敗)を読むこと
- 成長とは Revenue × Operating Leverage × Capital Efficiency の最適化問題
- First-mover gameはシニョレッジという反則技を持つ国家・巨大組織のゲーム
- スタートアップは Latecomer × Survivor’s Premium × Cash Rescue
- 本質的価値は「Inerasable(消えない残渣)」
- 成功とは FCFで純資産を厚くすること

