組織の認知アーキテクチャ|ゴール志向モデルか外部制御モデルか
幼児や後期高齢者に接すると、ゴールや未来を指定しても複雑性が高く、ゴール志向型では辿りつかない。ゴール志向は認知能力の高い主体向け。認知容量やソフトウェア的な処理方法が階層化されていない主体については、外部制御型で外部からのモニタリングと指示が必要である。シンプルで明示的な指示を一つずつ出して逐次実行型にする必要がある。特に 新しい場所にいくと今までできていたこともできないほど忘れっぽくなり、数日経つと慣れてきて行動範囲が拡張するなどの特徴がある。
構造的整理
後期高齢者は「ゴール志向型エージェント」ではなく、「逐次実行型・外部制御エージェント」として扱う必要がある。
① ゴール志向型が成立する条件
ゴール志向型(Goal-oriented agent)が機能するには、以下が前提になる。
- 十分な 認知容量(ワーキングメモリ)
- 目標 → 手段 → 手順 への 階層的分解能力
- 状況変化に応じた 再計画・自己修正能力
- 文脈を内部に保持し続ける 状態管理能力
👉これは 認知能力の高い主体向けの制御方式。
② ゴール志向型はなぜ破綻するのか
特に幼児や後期高齢者では、以下が構造的に弱くなる。
● 認知容量の縮小
- 同時に保持できる情報が極端に少ない
- ゴール+現在地+次の行動を同時に持てない
● ソフトウェア的処理の非階層性
- 抽象 → 具体への変換が困難
- 「目的から逆算する」処理ができない
● 状態の自己保持ができない
- 環境が変わると内部状態がリセットされる
👉そのため ゴールを与えても、経路探索が成立しない。
③ 外部制御型が必要になる理由
この状態の主体には、
- 内部にゴールを持たせる
- 自律的に判断させる
という設計は 負荷過多 になる。
そこで必要なのが:
外部制御型(Externally controlled agent)
- ゴール管理:外部
- 状態監視:外部
- 次の行動決定:外部
- 主体は「今この瞬間の一手」だけを実行
👉他者が外部CPUとして機能するモデル。
④ 指示は「逐次実行型」でなければならない
適切な指示設計は以下です。
- 指示は 必ず一つ
- 抽象語を使わない
- 未来を含めない
- 完了を確認してから次へ
❌「ここで待って、順番が来たら受付して、終わったら戻ってきてください」
⭕「ここに座ってください」
(完了確認)
「次は、この紙を出してください」
⑤ 環境依存メモリ
新しい場所にいくと今までできていたこともできないほど忘れっぽくなる
これは:
● 環境依存メモリ(Context-dependent memory)
- 行動は「環境」と強く結びついて記憶されている
- 環境が変わると、行動スキーマが呼び出せない
👉能力が落ちたのではなく、メモリを保持できないため参照先が消える。
数日で慣れて行動範囲が拡張する理由
- 新環境が「既知の文脈」として固定化される
- その環境専用の行動スクリプトが生成される
- 環境 × 行動の1対1対応ができると安定する
👉抽象的汎用性は低いが、環境特化では回復する。
⑦ モデル
特に経営やマネジメントにおいてはゴール志向型に訓練する必要がある。逐次実行型はエコであり、スケーラビリティがある点は有利であるが、予測可能性が低い現代社会では淘汰されていく処理方式である。これは電卓がiphoneに置き換わってしまっているのと同様である。ゴール志向はより高位な目的のために低位な機能を階層化し、格納する。逐次実行型は期間雇用、業務委託やアルバイトに外部化されていくため、幹部はゴール志向の階層化メモリを訓練により獲得する必要がある。
重要なのは「能力差というより役割要件としての認知アーキテクチャの違い」だという点です。整理します。
経営・マネジメントにおいて幹部とは、「ゴール志向型・階層化メモリを内在化した主体」であることが職務要件であり、それは先天ではなく、訓練によって獲得・維持される。
① なぜ逐次実行型は現場要員に位置づけられるのか
組織を制御アーキテクチャとして捉えると以下に分類される。
逐次実行型(Sequential Executor)
- 外部からの指示待ち
- 状態管理・優先順位づけをしない
- 1ステップずつ正確に実行
👉再現性・安定性は高いが、構造を変えられない
これは:
- 一般社員
- アルバイト
- オペレーター
に最適化された認知様式。
ゴール志向型(Goal-oriented Agent)
- ゴールを内部に保持
- 抽象 → 具体の階層分解
- 状況変化に応じた再計画
- 他者を逐次実行型として使える
👉組織の“外部制御装置”になれる
これが:
- 幹部
- 経営者
- プロジェクトオーナー
の役割。
② 幹部に求められる「階層化メモリ」とは何か
単なる記憶力ではありません。
幹部の階層化メモリの中身
- 最上位ゴール
- ROIC、IRR、企業価値、戦略意図、時間軸(3年・10年)
- 中間ゴール
- オペレーティングレバレッジ、資本調達、事業KPI、組織設計、資源配分
- 実行レイヤ
- 予算・制度・プロセス・採用
ゴール志向型はこれらを階層化することで同時に保持し、必要に応じてどの階層にも即座にフォーカスできる能力です。つまり、概念の整理整頓ができる人が組織の長たり得る。
③ なぜ訓練が必要なのか(先天では足りない理由)
人間の自然状態は「逐次実行型」
- 脳は本来、短期最適・即時報酬向け
- ゴールを長期保持するのは不自然
- 抽象化・階層化は高コスト
👉放っておくと誰でも逐次実行型に退化する
特に:
- 忙しい
- 割り込みが多い
- KPIに追われる
外部負荷がかかる環境では、幹部でも簡単に崩れる。外部負荷により逐次実行型にダウングレードしているマネジメントがいたら、ゴール志向型に戻すべきである。
④ 幹部が訓練で獲得すべき能力
① ゴールの長期保持訓練
- インターナショナルマーケットの暗黙の前提を理解しているか(ROIC, IRR)
- 10年,100年,1000年スパンで文明を捉えているか
- 数字ではなく構造で説明できるか(空間の曲率が運動や仕事量を生む)
- 少ない情報源から、幾何、代数、論理で数論的に極限、極小を語れるか
② 抽象↔具体の往復訓練
- 会議で抽象に逃げすぎない
- 現場で具体に溺れすぎない
③ メモリの外部化と再読込
- 個人としての設備投資(Property, plant, equipment)
- 見た目、装飾
- 戦略、原則、指示の明文化
④ 自分が「外部制御者」である自覚
- 指示を出す側
- 状態を見る側
- ゴールを持ち続ける側
⑤ 「格下げ」が起きるメカニズム
逐次実行型は一般社員やアルバイトに格下げ、外部化されていく
これは評価の問題ではなく:
- ゴールを持てない
- 全体を見ない
- 再設計しない
人材は、組織内で自動的にオペレーター化される。
👉これは「能力不足」ではなく認知アーキテクチャが役割要件を満たさなくなった結果です。
⑥ 重要な補足
- 幹部 = 常に高次認知、ではない
- 現場作業中は逐次実行型に落ちるのが正常
- 問題は「戻れなくなる」こと
- 抽象的なことだけを言っても説得力がない。具体的な実行もできる必要がある
- ゴール志向型は逐次実行型を内包する階層化された高次主体である。
👉抽象↔︎具体を行き来する社会パスポートを持っていることと、切り替え能力こそが経営幹部のコア能力
まとめ
- 組織は逐次実行型の層とゴール志向型の層で成り立つ
- 幹部とは階層化されたゴール志向型を構成できる人材
- それは訓練しないと維持できない認知構造
- 訓練をやめると誰でも逐次実行型に落ちる
「幹部とは何を“できる人”なのか」
認知構造と制御構造の問題として定義する
「ゴール志向は高認知主体向けの設計である」
「汎用主体には外部制御が必要である」
ただし、ゴール志向も汎用作業を階層化し、下層作業を内包化できる主体でないと現代社会では役に立たない。

