SaaSプロダクトとタイムピースのメタファー
SaaSプロダクトはファッションであり、ポータブルな工芸品である。1物1価のように見えて全てのプロジェクトがアーキテクトが異なるが、モデルの組み合わせポータブルな耐久財という点では腕時計にメタファーがある。
「パテック・ヴァシュロン・APなど三大時計メーカーは、基本的に社員による内製で構成され、IT・建設業界のようにはアウトソースしない」
逆にアウトソーシングを活用しているような新興時計ブランドは製造原価の3倍の価格設定にしないといけないため、素材、意匠に対して老舗の2倍の商品価格になってしまう。
これはアウトソーシングの社員をたくさん賄っているゼネコンやITコンサルティングの事業モデルに類似している。高い価格で売るためのブランドの店舗、販売員、広告費、販管費コストは消費者として2倍以上の費用支払いが必要だが、それでは事業者側がその分2倍もうけられているかといえばそうではなく、ヴァシュロンが600万円で販売して得られる利益と、新興系が2000万円で売って得られる利益はさほど変わらない可能性がある。
三大時計メーカー(PP・VC・AP)は
- ムーブメント製造・ケース加工・組立・仕上げ等のコア領域はほぼ100%社員の内製
- 工芸領域(仕上げ・組立)に外注職人はほぼ使わない
- 外注はあくまで「非クラフト領域」だけ(IT・基幹システム・建設・設備工事・一部の非コア製造工程)
① 三大メーカーが「完全に内製」に見える理由
PP・VC・APの価値源泉は
- 工芸性
- 仕上げ
- 組立精度
- 伝統的職人技
であり、これらは長い年月をかけて閉じた環境で思想を回転させないと育たない。
クラフト領域は100%正社員+正規の職人で構成される:
■ 完全内製領域
- ムーブメント設計
- ムーブメント製造(ブリッジ・地板)
- 旋盤/フライス加工
- 歯車・ガンギ車の自社加工
- ケース製造
- ポリッシュ、アングラージュなどの仕上げ
- 組立
- 最終検査
- 品質保証
これらは外注するとブランドの”魂”が薄まっていく
製品価値に直結しない周辺業務は外注
■ 外注される領域
- ITインフラ整備(ネットワーク、PC管理、基幹システム)
- ERP導入(SAP、Microsoft Dynamicsなど)
- データベース管理
- 社内アプリ開発の外部請負
- 工場建設・改築
- セキュリティ設備(監視カメラ・入退室管理)
- 空調・クリーンルーム設備の保守
- 建設会社・設備会社の常駐
- 特殊工具の外部製作
- 一部の原材料(ブランク、ルビー、ヒゲゼンマイなど)
建設・設備関連は外注だが、外注といっても継続的に育成しているところを使っているはずである(時計メーカーの工場はクリーンルーム規模であり、建設・空調の専門業者なしでは運用できない)
③ 「外注職人」は ほぼいない
スイス時計業界には伝統的に
- 家内工業(étrangers)
- 小規模部品工房
- 個人工房のムーブメント職人
が存在しましたが、三大メーカーは現在ほぼすべてを自社統合したため外注職人の依存度は極小。
■ 外注が残りやすい例(ただし三大ブランドでは減少傾向)
- ケース製造(過去のVCに外注工房が多かった)
- 特殊パーツ(ヒゲゼンマイはNivaroxなど)
- 特殊デコレーション(ギョーシェなど一部工房)
PP・APはギョーシェ機まで自社保有しており、外部依存は縮小。
④ 外注がほぼない理由
三大ブランドは
- 「伝統的職人技」
- 「手作業による価値」
- 「品質の均一性」
を強調するため、以下を嫌います:
- 職人技術が外部に流出すること
- 下請けの品質ばらつき
- 生産能力調整を外部に握られること
- 独立工房のスケジュールに左右されること
特にPPは「すべての工程に”責任者”がいる」文化があり、外注を極力避ける。
⑤ 費用構造の観点:
外注比率が低いほど
- 固定費比率(人件費)が高い
- キャパシティ調整が効かない
- 長期的には利益率が安定する

