phosphene フォスフェン|眼内閃光

「目の奥に見える無色の波が、赤外線のように赤く感じられる」という子供の頃から感じている体験を光学的・波長的な観点から分析すると、いくつかの物理現象が関わっている。波とも点とも球とも円とも表現できるこの残像はミクロスケールの量子や波であり粒子である電磁波によって作られた波動・粒子二重性の構造をマクロスケールでフラクタルに示す残像のように感じる。これはPhosphene(フォスフェン)と呼ばれる
🩸1. 目の内部は“光を発する空間”ではなく“光を導く媒質”
目に入った光は、
角膜 → 水晶体 → 硝子体 → 網膜
という順に進みます。
このとき、硝子体や水晶体はわずかに光を散乱させます。
特に、強い光を見たあとや暗い環境で光量が急に変化すると、内部反射や残光干渉が起こり、波や円のようなパターンを生じます。
このパターンは実際の外部光ではなく、眼球内部での光の干渉です。
つまり、「赤外線のように赤く見える」と感じている波は、外部の赤外線ではなく、可視光(特に長波長側の赤寄り光)の残像・散乱が内面で増幅されたもの。
🌈2. 波長ごとのエネルギー吸収と赤寄り残光
人間の目は可視光のうち、
- 青〜緑(短波長) → すぐに消える
- 赤〜橙(長波長) → 網膜に長く残る
という性質があります。
赤や橙の波長は網膜内での散乱角が小さく、透過率が高いため、より奥まで届きやすい。
これが「波が赤く見える」感覚の原因の一つです。
つまり、「赤い波」は、可視光の末端波長(700〜750nm付近)に近い残光を脳が再構成しているのです。
🔦3. 赤外線が実際に“赤く見える”ことはあるのか?
通常の赤外線(780nm以上)は人間の視細胞では検出できません。
しかし、いくつかの例外的条件で「赤く見える」ことがあります。
- **強い近赤外線(IR LEDやレーザー)**が網膜に入射すると、錐体細胞(特にL錐体=赤感受性)が飽和的に励起され、“赤っぽく”感じられることがあります。
→ これは「二光子吸収(two-photon absorption)」という現象で、
800〜1000nmの赤外線が2つ同時に吸収され、錐体細胞が反応可能な400〜500nm相当(青〜緑)として感知されることがあるのです。つまり、「赤外線が赤く見える」のではなく、赤外線が青緑を刺激して赤い錯覚を生む。 - 暗順応状態(暗闇に慣れた状態)では、網膜の**ロドプシン(光受容タンパク質)**が極めて高感度になり、可視域外の長波長(赤寄り)の光まで感知してしまうことがあります。
→ このとき、「無色の波が赤く感じる」という現象が起こります。
🔬4. 眼球内での“波”と“円”の光学干渉
「波」「円形」は、光の回折と干渉パターンに近いものです。
- 光が瞳孔や血管、硝子体の微小構造を通過する際、
波長単位の回折が起きる。 - 特定波長(赤寄り)の干渉縞が円状の波紋として感じられる。
- これは、外部光がなくても、眼球内の反射と血管壁反射による微小干渉で生じることがあります。
フォスフェンは「眼球という小宇宙の中で起こる干渉光学現象」であり、物理的には波長の記憶といえるものです。
🪞5. フォスフェン
現象 | 光学的説明 | 波長領域 |
---|---|---|
無色の波 | 内部散乱・干渉パターン | 可視光(全域) |
赤く見える波 | 長波長残光・ロドプシン感度上昇 | 約700〜750nm |
“赤外線のよう”な印象 | 二光子吸収または網膜内赤寄り刺激 | 約800〜900nm(感覚的) |
「phosphene(フォスフェン/フォスフェーン)」という語の命名に関する確定的な史実は、文献によって若干異なる主張がありますが、以下が比較的信頼できる情報です。
📖 語源と初出
- 「phosphene」という語は、ギリシャ語の phōs(光)+ phainein(現れる、示す)に由来します。
- この語はフランス語 phosphène から取り入れられたとされ、19世紀中期に見られるようになります。
🧑⚕️ 命名者・使用者の諸説
- 一つの主張として、「phosphene」という語はJ. B. H. Savigny によって命名された、という説があります。
- この Savigny は、フランスの外科医/医師で、フリゲート艦 Méduse(メデューズ号)沈没事件に関わった人物と同一視されることが、いくつかの情報源で言及されています。
- さらに、この語はSerre d’Uzes によって、白内障手術前後の網膜機能を試すために用いられた、という記述もあります。
- 他の文献では、H. Auguste Serre(Serre d’Uzès と同一人物、もしくは同時代の医師)による著作 Essai sur les phosphènes ou anneaux lumineux de la rétine(1853年刊行)で、phosphène(phosphene)という語を用いてこの現象を体系的に論じたものが知られています。
- 彼の著作では「網膜の明るい環(光輪)」としてこの現象が「phosphènes(仏語複数形)」として説明されています。
- ただし、命名そのものが Savigny によるという主張は、歴史学的・文献学的には若干曖昧で、確定的とは言いにくい面があります。複数の歴史論文が、phosphene という語の初用・普及について異なる見解を示しています。
⏱ いつ使われ始めたか(年代)
- Serre の Essai sur les phosphènes … は 1853年 に出版されたことが確認されています。
- その前後に、光学・網膜現象を扱った論文・技術文献で phosphène/phosphene という語が使われ始めたと見られます。
⚠️ 補足・注意点
- 古代・中世から「目を押すと光が見える」「暗闇に星のような点が見える」といった現象自体は知られており、ギリシャ・ローマ時代から記録があります。たとえば、Alcmaeon や古代ギリシャの医学者らが「眼を刺激すると光を感じる」現象を記述しており、これらは後の deformation phosphenes の初期報告にあたります。
- ただし、それらの古典記述では “phosphene” という語は使われていません。