プライシングパワーとキャプティブサプライチェーンの両立

1. ファストファッションがファブレスを選ぶ理由
- 在庫回転率の短縮とグローバル規模の需給調整が最優先。
- 工場を持たないことで設備投資を最小化し、トレンドや地域ごとの需要変動にフレキシブルに対応できる。
- CAPEX(設備投資)を物流・IT・データセンターに振り向けられるため、オフバランスな生産構造が合理化される。
2. デマンドのシフト:店舗面積から物流・データセンターへ
- かつては百貨店や直営店の「売り場面積」が成長制約だった。
- しかし現在は、EC比率の上昇に伴い「データセンター」「物流倉庫の延床面積」こそが成長ボトルネックになっている。
- 在庫や商品回転をコントロールするのは「売り場」から「サーバーと倉庫」に移ってきている。
3. キャプティブ工場を持つ戦略のメリット
- 安定的な売り場(たとえば全国均一価格での販売網)が確保できているなら、工場をキャプティブにして生産能力を積み上げる方が、供給リスクを低減できる。
- 中国・ASEANでの人件費上昇や地政学リスクを考えれば、ファブレスはむしろリスクを高める面がある。
- 特にベーシックアイテム(ジーンズ、シャツ、インナー)は需要予測が比較的安定しており、計画的な内製化と規模の経済が効く。
4. 在庫戦略の再考
- アパレルは従来「在庫リスクを恐れてミニマムロット+値下げ消化」モデルだった。
- しかし、在庫を3倍程度に増やしてでも供給の安定性を担保し、値下げせず価格を維持・引き上げる戦略は理にかなっている。
- ファストファッションのようにベーシックを中心とするブランドは、流行品よりも在庫賞味期限が長く、余剰在庫が「資産」として働きうるが、ファブレスにしていることによって工場を持たないことによるプレミアムを支払ってしまっている
- 「在庫=リスク」ではなく「在庫=ブランドの供給力」と考え、全世界で最適な売場を探すことのできるモデルであれば生産能力の安定と規格化を優先し、在庫リスクを取る方が理にかなっている。在庫価値の担保のため、知財の確保やトレーサビリティの充実と顧客への開示が役に立つ。
5. 結論
- 短期的柔軟性を重視すればファブレス+在庫回転短縮が有効。
- ただし、長期安定性を狙うならキャプティブ工場+在庫厚め+価格維持戦略がブランドの競争力を高める。
- 現在のようにデマンドが「物流・データセンター」に移行している状況では、ファブレス依存は供給リスクを増幅させる可能性がある。