三つ巴の処方箋とオポチュニティ

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三つ巴の処方箋とオポチュニティ

不動産、製造、小売の永久的囚人のジレンマ構造

不動産・製造・小売という三大市場は、世界の雇用の40%を占める巨大な産業領域である。不動産オーナーは建設エージェントを通じて空間を提供する、製造業は資源エージェントから得た天然資源を変換して商品を供給する、小売は消費者にアクセスするエージェントである。この産業の3つの基本プレイヤーはそれぞれが不可分に結びつきながらも、常に「囚人のジレンマ」構造に陥っている。

不動産はできるだけ高く貸したい。製造業はできるだけ安く借りたい。製造業は小売に高く売りたい。小売は製造業から安く買いたい。これらの相反する利害は三すくみを形成し、いずれのプレイヤーにとっても「相手が協力しても裏切る方が得」「相手が裏切っても自分も裏切る方が損失を減らせる」という囚人のジレンマの条件を満たしてしまう。その結果、全体では協調による最適化が可能であるにもかかわらず、個別合理性の追求によって過剰競争に陥りやすい構造となっている。

この構造下でのビジネスは、デッドロック状態になることでつねに誰かが誰かの出方を偵察し、互いに牽制し合う。急などこかに需要が生まれたとしても互いに様子を伺いがあっているためにアップサイド(成長余地)を獲得できない。アップサイドは漁夫の利でアウトサイダーであるスタートアップに取られていく。一方で、ダウンサイド(リスク)は避けられない。三すくみで規模が拡大しないのに競争だけは過剰になり、売れなかった在庫が拡大して、また安売り競争になる。

ゆえに、持続的に価値を積み上げるためには、単なる規模拡大ではなくダウンサイドプロテクションを伴ったアップサイドマキシマイゼーションの仕組みが不可欠である。そのためには、価格決定権(プライシングパワー)と購買交渉力(バイイングパワー)の両立を可能にする、リスクを内製化したスプレッド=「マージン・オブ・セーフティ」を持つ垂直統合モデルが求められる。これが俗にいうブランドである。ブランドとは、事業のサプライチェーンから消費者の手に渡るまでのバリューチェーンで囚人のジレンマを発生させないように、強権を持ったUltimate Beneficial Ownerが各ステークホルダーのConflict of interestを制御する一連の経済制御構造のことである。UBOとは実質的支配権者のことであるが噛み砕くと、三すくみのデッドロック構造を解消することによって大きな利益を得る第三者のことである。永遠の三すくみ構造からアービトラージオポチュニティを得るUBOがいることは、エコシステム全体の成長の条件である。

不動産・製造・小売というコンフリクト構造を内包するブランドバリューチェーンを構築、リスクを内製化することで、アービトラージの機会は永続的に発生する。

ただしこの三すくみ構造の中で売り買いを繰り返してもマージンオブセーフティとしての「スプレッド」を確保できなければ、どれほど売上を拡大してもマージンは外部に吸い取られ、スプレッドは確保できない。規模拡大と露出増加に依存するモデルは、根本的にこの構造から自由になれないの規模が小さい時に根本解決しておかないと対処療法が効かないのである。

実際、多くの経営者や政治家、さらにはエンターテインメント業界のアイドルまでもが、誤った目標設定と錯覚、確証バイアスに陥っている。規模を大きくすればマージンが取れると信じ、やがて「日本一」を目指して走り続ける。しかし実際に日本一有名になる頃には、周囲のプレイヤーにマージンを奪われ、結局は時給商売から抜け出せない。これは日本や韓国のアイドル産業の構造的問題であると同時に、日本企業や政治の持つ構造的課題でもある。

価値あるものにはハイエナが群がる。そのハイエナから防御、制御できないようでは、人気に見えてただ単に肉から骨まで食われつくす、もっとも名の知られた獲物になるだけなのであるが、本人はそれに気づけなくなるのだ。