ILPA Principles 3.0
ILPA(Institutional Limited Partners Association)が2019年に発表した「ILPA Principles 3.0」は、プライベート・エクイティ業界におけるリミテッド・パートナー(LP)とジェネラル・パートナー(GP)間の健全なパートナーシップを促進するためのベストプラクティス集です。この第3版では、業界の進化に対応し、ファンドの設計、運営、報告に関する包括的なガイドラインが提供されています。
ILPA Principles 3.0の3つの基本原則
ILPA Principles 3.0は、以下の3つの基本原則に基づいて構成されています:
- 利害の一致(Alignment of Interest)
GPの報酬は、LPが期待するリターンを達成した後の利益分配(キャリー)から得られるべきであり、GP自身もファンドに実質的な資本を投資することで、LPと利害を一致させることが推奨されています。 - ガバナンス(Governance)
GPはファンド全体の利益を考慮して意思決定を行うべきであり、LPの権利を保護するための明確なガバナンス構造が必要です。これには、重要人物(キーパーソン)の離脱時の対応や、LPアドバイザリー・コミッティ(LPAC)の役割強化などが含まれます。 - 透明性(Transparency)
GPは、ファンドの運営や投資に関する情報をLPに対してタイムリーかつ詳細に開示することが求められます。これには、手数料や経費の詳細、ポートフォリオ企業の評価情報などが含まれます。
主なポイント
Principles 3.0では、以下のような新たなトピックや詳細なガイドラインが追加・強化されています:
- ファンド経済性の透明性向上:キャリーの計算方法やウォーターフォール構造の明確化、クローバック条項の強化などが推奨されています。
- サブスクリプション・ラインの利用制限:サブスクリプション・ラインの使用は180日以内に制限し、使用目的やコストの開示が求められます。
- 共同投資(Co-Investments)のガイドライン:共同投資機会の配分や費用負担のルールを明確にし、LPとの公正な取り決めを促進します。
- GP主導のセカンダリー取引の透明性:LPACの早期関与や、取引条件の詳細な開示が推奨されています。
- ESG統合の推進:GPはESGポリシーを策定し、定期的な更新とLPへの開示を行うことが求められます。
- ガバナンスとフィデューシャリー・デューティの明確化:GPはファンドおよびLPに対する受託者責任を明確にし、契約書においてその標準を明示することが推奨されています。
実務への影響と活用方法
ILPA Principles 3.0は、法的拘束力を持つものではありませんが、LPとGP間の交渉や契約締結時の重要な参考資料として広く活用されています。特に、初めてファンドを設立するGPや、交渉力の限られたLPにとって、これらの原則は交渉の出発点として有用です。また、ILPAはこれらの原則を補完する形で、モデルLPA(Limited Partnership Agreement)も提供しており、契約書作成の効率化と標準化を支援しています。
✅ 例:ダブルディップ(Double Dipping)
例:「経費の二重取り禁止(ダブルディップの禁止)」は、ILPA PrinciplesやModel LPAにおいてリミテッド・パートナー(LP)の利益保護のために強調されている重要な原則です。
ダブルディップとは、GPが同一の経費や手数料を複数の経路から重複して取得する行為を指します。主に次のようなケースが問題視されます:
ケース | 説明 |
---|---|
① ファンドから管理報酬を取得しつつ、 ② ポートフォリオ企業からもコンサル費や取締役報酬を受領 | → 実質的に同じ業務に対して二重で報酬を得ている可能性がある |
共同投資案件において、ファンドと共同投資ビークルの両方から報酬を得る | → 費用負担の公平性を損ねる |
🔍 ILPAが求める対応(Principles 3.0およびModel LPA準拠)
1. 明確な費用カテゴリの定義
- 管理報酬に含まれる業務範囲と、それ以外に直接請求可能な実費の範囲を契約書上で明示
2. オフセット条項
- ポートフォリオ企業からGPが受け取る手数料(例:取締役報酬、監査役報酬など)はLPに還元されるべき(=管理報酬と相殺)
3. 事前開示とLPAC承認
- コンサル契約やサイドフィーが発生する場合は、LPACの事前承認や定期的なレポートでの開示を義務化
📑 ILPA Model LPAにおける具体条文例(英語原文要旨)
“Any fees received by the General Partner or any of its Affiliates from Portfolio Companies (e.g., monitoring, transaction, consulting fees) shall be 100% offset against the management fee, unless otherwise approved by the Advisory Committee.”
つまり:
- GPやその関連会社が被投資先から受け取る一切の報酬は、原則として全額、管理報酬と相殺されるべき
- 例外がある場合は事前にLPACの承認が必要
💡 実務への影響
- 透明性の欠如やダブルディップ疑義があると、ファンドレイズや再投資時にLPからの信頼を失う
- 特に年金基金や大学基金などのインスティチューショナルLPはこの点を重視
✅ まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
対象 | GP報酬、手数料、取締役報酬、共同投資関連報酬など |
禁止内容 | 同一業務に対する複数経路からの収益取得 |
推奨対策 | オフセット条項、LPAC承認、開示義務 |
モデル契約 | ILPA Model LPAで標準条項化済み |