FCPA(Foreign Corrupt Practices Act:米国海外腐敗行為防止法)は、米国発の企業倫理と腐敗防止の中核的法制度として、現在の国際コンプライアンス実務の根幹をなす存在です。
🇺🇸 FCPA(米国海外腐敗行為防止法)概要
✅ 1. 基本情報
項目 | 内容 |
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制定年 | 1977年(2010年・2020年代にも厳格化傾向) |
所管 | DOJ(司法省)、SEC(証券取引委員会) |
対象 | 米国企業・個人・米国に上場する外国企業・外国人も含む |
目的 | 国際取引における贈賄行為の禁止と会計の透明性確保 |
✅ 2. FCPAの2大柱
項目 | 内容 |
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(1)反贈賄条項Anti-Bribery Provisions | 米国企業が外国公務員に対し不正に利益を提供する行為を禁止(直接・間接含む) |
(2)会計帳簿条項Accounting Provisions | SEC登録企業に正確な帳簿記録と内部統制の整備を義務付け |
✅ 3. 「外国公務員」とは?
FCPAでは以下を**公務員(Foreign Official)**として広く定義します:
- 国家機関職員(例:省庁、税務署、警察)
- 国有企業の役職者(例:国営石油会社、電力会社)
- 公的国際機関(例:WHO、UN職員)
- 政治家、政党関係者、候補者
👉 日本の官僚や国立大学の教授も対象になる可能性あり
✅ 4. 贈賄と見なされる具体例
行為 | 判定可能性 |
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現金の提供 | 高 |
高額な接待・旅行・ギフト | 高 |
家族への就職斡旋 | 高 |
寄付やスポンサーシップ(裏の意図あり) | 中〜高 |
コンサル料・顧問料での見返り | 高 |
✅ 5. 違反時のペナルティ(非常に重い)
項目 | 内容 |
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企業罰金 | 最大で1件あたり 200万ドル超(実務上は数億ドル規模の和解も) |
個人罰則 | 最長 5年の禁固刑 + 25万ドル以下の罰金 |
SEC民事罰 | 上場停止、罰金、利益返還命令、株主訴訟リスク等 |
✅ 6. 近年の適用事例(参考)
企業名 | 事例 | 和解金額 |
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Siemens | 多国籍贈賄スキーム | 約8億ドル(2008年) |
Goldman Sachs | マレーシア1MDB汚職事件 | 約29億ドル(2020年) |
J&F Investimentos(ブラジル) | 公務員買収 | 約2.8億ドル(2020年) |
✅ 7. FCPA対策で求められる実務対応
実務項目 | 対応内容 |
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内部統制 | 会計処理・支払承認・モニタリング体制の整備 |
デューデリジェンス | 代理店、販売店、JVパートナーなど第三者に対する徹底調査 |
トレーニング | 役員・社員・販売代理店への年次教育と記録 |
通報制度 | 匿名通報・ホットライン・報復禁止規定の整備 |
🧩 FCPAの要点まとめ
観点 | ポイント |
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域外適用性 | 外国企業・個人でも米国に関係すれば対象になる |
実質主義 | 形式ではなく「見返りの意図」や「実態」で判断される |
重大リスク | 法人罰だけでなく役員個人の刑事責任が問われる |
以下は、**FCPA(米国海外腐敗行為防止法)や他の国際的な反贈賄法に基づいて処罰・課徴金を受けた主な過去の汚職事件(Top Global Anti-Corruption Enforcement Cases)**の代表例です。金額、影響、業界、国際的波及の観点で整理しています。
🌍 主な事件と課徴金事例(FCPA適用含む)
企業名 | 国 | 年 | 課徴金総額 | 概要 |
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Siemens AG | ドイツ | 2008 | 約8億ドル(米国)+6億ユーロ(独) | 10年以上にわたる世界各国への贈賄スキーム。役員レベルでの組織的関与。 |
Petrobras + Odebrecht | ブラジル | 2016 | 約35億ドル(史上最大) | 「ラヴァ・ジャット(洗車作戦)」で露見した政官業癒着スキーム。多国籍企業が共謀。 |
Goldman Sachs | 米国 | 2020 | 29億ドル(米・英・香港) | マレーシア政府系ファンド1MDBに絡む贈賄事件。高官に数億ドルを送金。 |
Telia Company(旧TeliaSonera) | スウェーデン | 2017 | 9.65億ドル | ウズベキスタン政府要人の娘に対する不透明支払い。SECとDOJが共同調査。 |
Airbus SE | 欧州 | 2020 | 約40億ドル(仏・英・米) | 世界中での軍需・航空機契約に絡む贈賄。FCPA、UKBA(英国法)両方で調査対象に。 |
J&F Investimentos(JBS親会社) | ブラジル | 2020 | 2.8億ドル | 食品業界最大手。政府要人への継続的贈賄と選挙資金提供。 |
Alstom SA(現GEの一部) | フランス | 2014 | 7.7億ドル | インドネシア、サウジなどでの電力関連契約に対する賄賂。GE買収前に発覚。 |
🧩 これらの事件に共通する「リスク要因」
リスク因子 | 説明 |
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国有企業との取引 | 特にエネルギー・通信・交通系では、高確率で公務員が関与 |
第三者エージェント | エージェントやコンサル経由での「隠れ賄賂」が多発 |
内部統制の欠如 | シャドーアカウントやペーパーカンパニーが利用される |
文化的容認 | 「現地慣習」と称した不正が構造化されていることも |
📘 日本企業に関連する事例
企業 | 概要 | 年 | コメント |
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JGC Corporation(日揮) | ナイジェリアでのLNG案件に絡む贈賄(TKS案件) | 2011 | 米国FCPA適用、2.2億ドルで和解 |
Marubeni Corporation | ナイジェリア・インドネシアでの贈賄 | 2014 | 繰り返しFCPA違反、複数回和解 |
Nippon Telegraph and Telephone (NTT) | 子会社による米国での帳簿不備 | 2021 | SECより会計上の透明性違反で指摘(贈賄ではないが関連) |
✅ 課徴金額のインパクト
- 近年は1億〜30億ドル規模
- 複数国が同時に課徴金を科すマルチリンガル訴追
- FCPA違反は刑事+民事でのダブルパンチ
📌 対応
- 第三者デューデリジェンス(TPDD)を契約前に実施
- 贈答・接待・寄付のポリシーと承認ワークフローの明文化
- 全役職者へのFCPAトレーニングの定期実施(年1回)
- 匿名通報制度(Whistleblowing)の整備と保護規程