Trust law|信託法
イギリスの**Trust law(信託法)**は、明確な制定年というよりも、中世のエクイティ法(衡平法)に起源を持ち、判例法(case law)を通じて徐々に形成されてきた法体系です。以下、歴史的な流れを簡潔に整理します。
【イギリス信託法の起源と発展】
時期 | 出来事・発展 |
---|---|
12世紀~13世紀 | 十字軍時代:土地の管理を親族や友人に任せる「Use(ユース)」の概念が誕生。 |
15世紀 | 「Use」が発展し、Chancery Court(衡平法院)でTrustの概念が認められる。これはコモンローでは保護されない権利を守るため。 |
1535年 | Statute of Uses(ユース法):Henry VIIIによる信託の濫用防止のための法律。ただしTrust自体は消滅せず、むしろ高度化。 |
17世紀以降 | Equity裁判所での判例蓄積により、trusteeの義務、受益者の権利などの原理が明文化されていく。 |
19世紀(1873-75) | Judicature Actsにより、Equity法とCommon lawの統合。この時点で信託法が制度として安定化。 |
1925年 | Trustee Act 1925:近代的信託の基本的枠組みを整理。現代信託実務のベース。 |
2000年 | Trustee Act 2000:投資義務や専門家助言の活用など、受託者の責任と裁量を現代化。ポートフォリオアプローチもここで明記。 |
【まとめ】
- 「法律として制定された年」はない(判例法ベースのため)。
- 現代的な法整備は**1925年(Trustee Act 1925)と2000年(Trustee Act 2000)**が大きな節目。
- 起源は**12~15世紀のEquity(衡平法)**にさかのぼる。
🔹 Trustee Act 1925 の概要
◉ 制定の背景:
1925年は、イギリスの**土地法・財産法の大改革(1925 Property Legislation)**の年であり、その中で信託法の近代化を目的として制定された。
◉ 主な内容:
- 信託財産の管理・処分に関する基本権限を明文化
- 例えば、不動産の売却・賃貸・投資などに関する信託者の法的権限を定める。
- 受託者の人数や交代方法など手続的ルール
- 4人までの受託者制限(共同で信託財産を管理する際の原則)
- 信託財産の運用に関する一般的基準
- ただし、投資の柔軟性には限界(保守的)
- 信託終了・受益者の権利の明確化
◉ 意義:
- 判例中心だった信託法を初めて法文化した。
- 信託実務の標準的枠組みを定めた。
🔹 Trustee Act 2000 の概要
◉ 制定の背景:
1925年法では現代的な投資理論やポートフォリオ管理に対応できなかった。
特に受託者の投資判断についてのガイドラインを明確化する必要が高まった。
◉ 主な内容:
- 受託者の注意義務(Duty of care)の明文化
- 投資や委任において「reasonable skill and care」を要する。
- 特に専門家受託者には高い水準が求められる(Section 1)。
- 投資権限の拡大(Section 3)
- 全ての種類の投資を許容(会社株式なども含む)。
- 特別な制限がない限り、分散投資が期待される。
- 投資助言者の利用(Section 5)
- 受託者は専門家の助言を得ることが義務(助言を無視してはいけない)。
- 委任の明確化(Part IV)
- 投資業務の委任に関するルールを明文化。
- 信託財産の使用に関する新しい規定
- たとえば、受益者の利益のための土地利用や建物維持など。
◉ 意義:
- 投資理論(モダン・ポートフォリオ理論)との整合性。
- 柔軟かつ実務的な信託管理が可能に。
🔸 比較表(1925年 vs 2000年)
観点 | Trustee Act 1925 | Trustee Act 2000 |
---|---|---|
制定目的 | 基本的な信託構造の整備 | 現代的な信託実務(特に投資)の最適化 |
投資の自由度 | 限定的 | 原則自由、分散投資を促進 |
Duty of Care | 判例ベース | 明文化(Section 1) |
委任のルール | 明確でない | 明文化(Part IV) |
助言義務 | 特に規定なし | 投資助言者の活用義務(Section 5) |
法改正の背景 | 土地制度改革 | 投資・年金制度改革との整合 |
🔹 総括
- 1925年法は、信託の枠組みを整備した「骨格法」。
- 2000年法は、信託の実務運用における判断基準や柔軟性を大幅に近代化した法であり、現在のイギリス信託実務の中心。