伝統産業でイノベーションが容易いと言えるのは、未開拓の技術があるからではなく、未検証の伝聞が豊富に残っているからである。

Decrypt history, Encrypt future™

伝統産業でイノベーションが容易いと言えるのは、未開拓の技術があるからではなく、未検証の伝聞が豊富に残っているからである。

伝統産業でイノベーションを起こすのは容易い。伝統産業とは、整合性のないネットワークグラフが局所的に網を張った状態である。そのような歪んだネットワークグラフには、局所合意が全体の「嘘」になる。嘘を見破り、真実のステップを膨大に積み上げていくだけで伝統産業はひっくり返すことができる。伝統産業でイノベーションが容易いと言えるのは、未開拓の技術が残っているからではなく、未検証の伝聞がまだ豊富に残っているからである。

  • 経済=限定資源下の嘘つきゲーム
  • 合意=選好の集約であって、選択公理に基づく真偽の証明ではない
  • 前進=独立証跡で嘘を切り、検証済みステップを積むチューリングマシン

経済における唯一の救いは、意外と選択公理が明確であることだ。消費者は気まぐれで、いつもより良いものを求める。事業は資本効率が高く、スケールしないと見向きもされない。つまり、ROICとオペレーティングレバレッジのある事業であれば、見た目も国も言語も関係なく、経済というゲームでは水の中の気泡のように上がっていく。

タナークは創業以来、伝統産業を大きい順に検証してきた。そして、伝統産業の構造的な脆さとイノベーションの技法をフレームワーク化した。伝統産業を守っている参入障壁の正体は「未開拓の高度技術」という物理的優位性ではなく、長い時間をかけて積み重なった未検証の伝聞と局所的合意(Cheap Talkの集積)に過ぎない。つまり、変な決まり、変な儀式が組み合わさって、合理的に考える人が入れなくなってしまい、にも関わらず大き過ぎてさらに膨れ上がるのが伝統産業なのだ。
局所的にどれほど強力な合意形成(全員一致の「これ以上は無理」「これが業界の当たり前」)がなされていても、それは単なる選好の集約同一バイアスの共有であり、より広域な多言語、多文化、多時代の客観的な真偽の証明ではない。ビザンチン将軍問題や社会的選択理論が示す通り、ネットワーク内のノード(関係者)の多数派が共通の観測欠落や偏りを抱えている場合、合意の数は正しさの代理指標にはなり得ない。
伝統産業をひっくり返すプロセスは、独立した証跡による「反証(Falsification)」の積み上げである。独立したということは「既約の」という意味であり、整数に対する素数性である。割り切れるうちはまだ証拠が独立しておらず、これ以上割り切れない独立証跡の非圧縮性を根拠にする必要がある。現場の「無理だ」「前例がない」という伝聞に対し、データや原理原則という独立した広域証跡を突き合わせ、仮説検証のステップを淡々と刻むチューリングマシンアプローチにより、局所的な「嘘」で編まれたネットワークよりもより堅牢なネットワークグラフを作り上げた時、伝統産業の旨みは新たなネットワークグラフによって一気に上澄みを取られる。
そして、このゲームにおける最大の救いは、「ROIC(投下資本利益率)」と「オペレーティングレバレッジ」という、嘘を通さない客観的なコンセンサスアルゴリズム(市場の淘汰圧)が存在することである。消費者の実利と資本の力学は、どれほど精巧に作られた業界内の局所的合意であっても、水の中の気泡が表面へ浮かび上がるように、真に構造化された事業を上へと押し上げる。
伝統産業のイノベーションとは、高度な新技術の発明ではなく、現場の言い分の反証を探すことに尽きる。

経済とは限定資源の嘘つきゲーム、コンセンサスアルゴリズムが重要だということをひしひしと感じる。あらゆるステークホルダーが嘘を言い、嘘を伝言ゲームしてくる(嘘の自覚もない)。全員の合意、過半数の合意とは前提となる情報の整合性、信頼性を検証する条件ではない。合意の人数は、情報の正しさの代理指標にならない。過半数も全員一致も、同じ偏り・同じ伝言・同じ観測欠落を共有していれば、整合しているように見えても検証にはならない。検証条件は「何人が賛成したか」ではなく、選択公理に対する証跡の集合問題である。現場が何人「止まる」、「危ない」「確認が必要」「これ以上コスト削減できない」と言っても、スケールやサイジングと矛盾するなら、それは伝聞による合意であって仮説検証の証明ではない、という直感が働くのである。

これは、嘘つき/故障ノードがいても、合意、正しさをどう定義するかという問題である。正しさとは選択した公理に対する真偽判定であり、昨日までやっていたことと整合しているというのは正しさの根拠ではなくどちらかというと慣性、惰性である。このように嘘つき/故障ノードがいても、分散合意により、全体の系を保存するByzantine Fault Toleranceを持っていれば、イノベーションを起こすことは難しいことではない。