Incompressibility Principle(情報の非圧縮性原則)
- 核心命題(複雑系はわかりやすい相関としては出てこない)
- 対偶(わかりやすい相関が出る ⇒ 複雑ではない)と補足
- 理論的裏付け(Kolmogorov、因果的創発、非エルゴード性、文脈依存性)
- 理論の正式名称(アルゴリズム的情報理論、非圧縮性の原理、コルモゴロフ複雑性)
- 特異点・空間収縮への適用
複雑系と相関:情報の非圧縮性
1. 核心命題:複雑系は「わかりやすい相関」を拒絶する
私たちが直面する真に複雑なシステム(気象、経済、脳、あるいは社会構造)において、単純な線形相関や一対一の因果関係が観測されることは稀です。複雑系とは、要素間の相互作用が非線形に絡み合い、全体が部分の総和を超えた振る舞いを見せる系を指します。そこでは、入力に対する出力が直感的ではなく、表層的なデータの重なり(相関)だけではその本質を捉えることはできません。
2. 対偶:わかりやすい相関の存在は「非複雑性」の証左である
この命題の対偶をとれば、事態はより鮮明になります。
「わかりやすい相関が出るならば、その対象は複雑ではない」
もし、ある現象が少数の変数を用いた回帰分析で完璧に説明できてしまうなら、それは系が高度に制御されているか、あるいは本質的に単純な構造(自明な系)であることを意味します。
- 補足: 現代のデータサイエンスにおいて、高い相関が見つかった際に「法則を発見した」と喜ぶのは早計かもしれません。それは単に、系の複雑さの「外縁」を撫でているだけに過ぎない可能性があるからです。
3. 理論的裏付け:なぜ相関は隠されるのか
この「わかりにくさ」には、強固な理論的基盤が存在します。
- Kolmogorov(コルモゴロフ)の視点: データの背後にあるプログラムの長さを最小化できないとき、そのデータは「ランダム」に見えます。
- 因果的創発(Causal Emergence): ミクロな視点での相関を追うよりも、マクロな記述の方が因果的な力を持ち得ることがあります。しかし、その移行プロセス(粗視化)において、単純な相関はしばしば消失します。
- 非エルゴード性: 時間平均とアンサンブル平均が一致しない系では、過去の統計的相関が未来の予測に寄与しません。
- 文脈依存性: 要素の振る舞いが周囲の環境(文脈)によって動的に変化するため、普遍的な相関が固定されにくいのです。
4. 理論の正式名称:情報の密度を測る物差し
これらの議論を支えるのは、主に以下の理論群です。
- アルゴリズム的情報理論: 情報を生成するために必要な最短の計算手順(プログラム)に注目する理論。
- 非圧縮性の原理: 複雑なデータは、それ自体より短いコードで記述(圧縮)できないという性質。
- コルモゴロフ複雑性: ある対象を記述するのに必要な最小限の計算リソースの尺度。
5. 特異点・空間収縮への適用
この議論を特異点(Singularity)や空間収縮という極限状態に適用すると、興味深い洞察が得られます。
特異点においては、情報密度が無限大に向かい、系の複雑性は極限に達します。空間が収縮し、あらゆる文脈が一点に重なり合うとき、従来の「相関」という概念は完全に崩壊します。なぜなら、相関を定義するための「変数間の距離」や「時間の流れ」そのものが変質してしまうからです。 この領域では、現象は「解釈されるべきデータ」ではなく、計算不能な「純粋な複雑性」そのものへと変貌を遂げます。
複雑系はコホモロジー的に相関するため、線形力学では捉えられず、非線形力学または消えて出てくるように見える振る舞いを示すということになる。

