美味しいふぐには毒がある。金は、銅の中に“毒と一緒に”隠されている。

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美味しいふぐには毒がある。金は、銅の中に“毒と一緒に”隠されている。

スタートアップはほとんどが悪い要素だらけだが、一握り良い要素がある。スタートアップ投資において重要なことは、全部丸ごと食べるのではなく、美味しい可食部位のみを、毒を取り除いてから食べるということである。どんなに資本力があったとしても、スタートアップの毒を丸ごと飲み込むと、力士がフグの肝を食べてふぐ毒で死んでしまうのと同様に資本の大きさに関係なくやられてしまう。

「なぜ価値は危険と一体化して埋まっているのか」を説明するモデルとしてフグは良いモデルである。

なぜ「ふぐをさばく」のは難しいのか

1. フグ毒(テトロドトキシン)

  • 致死量:1–2mg
  • 加熱不可
  • 解毒不可
  • 神経遮断 → 呼吸停止

👉 少量でも即死

2. なぜ食べるようになったのか

  • 縄文時代の貝塚にフグ骨
  • つまり:
    • 人は何度も死にながら学んだ

👉 「経験知」は命と引き換え

ただし現実の世界では命を失ったら終わりであり、「食べてみて判断しよう」だと致命傷になるような仮説検証もある。

3. 毒の偏在性

  • 毒は:
    • 卵巣
  • 筋肉は:
    • 基本的に無毒

👉 「全部毒」ではない、毒を取り除けば他の魚にはない旨みがある

4. 知識がないと全滅

  • 少しでも:
    • 肝を傷つける
    • 卵巣に触れる
      → 全体汚染

👉 失敗は一度で終わり

5. 日本の制度化

  • 江戸時代:
    • 食用禁止令(死人続出)
  • 明治以降:
    • 地域知の蓄積
  • 現代:
    • 国家資格
    • 流通管理
    • 処理記録

👉 人類は「禁止」ではなく「免許」で解決

なぜ難しいのか

  • 毒と可食部が:
    • 同じ個体
    • 隣り合って存在
  • 境界は:
    • 見えない
    • 数mm

👉 平均的な人には見極めることが難しい

ゴールドのメタファー

フグと同様に、金も人間にとって毒性のある銅鉱床や銀鉱床から算出する。

なぜ「銅から金をとる」のは難しいのか

1. 銅鉱床(Copper ore)

  • 金は金鉱として単独で存在することはない。川の砂金などは多少ある。
  • 多くは:
    • 銅鉱床
    • 鉛・亜鉛鉱床
      ppm(Part per Million)レベルで混在

👉 最初から「金だけ掘る」ことができない

2. 銅コンセントレート(精鉱)

  • 採掘後、粉砕・浮遊選鉱で:
    • 銅硫化物を濃縮
  • ここでは:
    • 金は「ただの不純物」

👉 銅コンセントレートの中に1ppm-50ppm含まれる

3. 加熱(Smelting:溶鉱)

  • 1000℃超で加熱
  • 銅は溶け、鉄・硫黄は分離
  • 金・銀・白金族は:
    • 銅の中に溶け込んだまま

銅コンセントレート(精鉱)

  • 主成分:硫化銅(CuFeS₂ など)

溶鉱(Smelting)後

  • 得られるもの:
    👉 銅マット(Copper Matte)
  • 状態:
    • 溶融した硫化銅+硫化鉄の混合物
    • 銅品位:おおよそ 30〜70% Cu
    • 金・銀・白金族はこの中に溶け込んでいる

転炉(Converting)を経ると

  • 鉄・硫黄をさらに除去
  • 👉 粗銅(Blister Copper / ブリスター銅)
  • 銅品位:約98〜99%

4. 電離(電解精錬)

  • 銅アノードを電解
  • 銅だけが:
    • Cu²⁺として溶出
  • 金・銀・白金は:
    • 溶けずに沈殿
  • 電解精錬
  • 👉 電気銅(Electrolytic Copper, 99.99%)
  • 👉 副産物:アノードスライム(金・銀・PGM)

👉 この時初めて「分離」

5. アノード(陽極)スライム

  • 底に沈む黒い泥
  • 成分:
    • セレン
    • テルル
    • 毒性重金属

👉 宝の山だが、同時に毒の塊

多くの人は:

  • 「処理コストが高い」
  • 「危険」

として捨てる or 二束三文で売る

6. 王水分解(Aqua Regia)

  • 硝酸1+塩酸3
  • 金を溶かせる数少ない溶媒
  • 同時に:
    • 有毒ガス
    • 強酸リスク

👉 扱えるのは専門家だけ

7. 還元(Precipitation)

  • 還元剤で金を析出
  • 純度調整が極めて難しい

8. 純金バー加工・烙印

  • 99.99%精製
  • 検定・刻印
  • 初めて:
    • 「市場で売れる金」になる

なぜ難しいのか

  • 金は:
    • 少ない
    • 危険物と一体
    • 途中では価値が見えない
  • 工程を最後まで走り切れる人が少ない

👉 銅コンセントレート1t(100万g)と金1gは同価格にもかかわらず、金1gを取らずにアノードスライムを二束三文で売る組織がある。

観点銅→金フグ
価値の所在銅の不純物としての金毒を取り除いた可食部
危険毒・酸・重金属神経毒
プロセス化学工程解剖、包丁さばき
失敗全損
扱える人設備保有者、精錬者免許調理師

一文でまとめると

金は、銅の中に“毒と一緒に”隠されている。フグの旨味は、毒のすぐ隣にある。
スタートアップにおいても、価値の凝縮した部分は常に毒の近くにある。毒の危険を知らずにスタートアップに飛び込むのは、フグを食べるために死にに行くのと同様である。毒を識別し、区別できるものだけがスタートアップにおける旨みを味わうことができる。