金銭的報酬の根本的スケール課題|イノベーションのジレンマ

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金銭的報酬の根本的スケール課題|イノベーションのジレンマ

急成長を実現する企業において、業績は線形的に計画的に30%増えるようなことはない。

例えば、500万円の月商が5000万円になると、そのあとは毎年4000,3000,2000万円と下がっていく。ブレイクスルーを狙っていれば、数年以内にここでまた10倍の位相転移が起こり、月商が5億円になるとともにまた4億、3億と下がっていく。ここから月商50億円になるまでにやるべきことは、現状の構造において出力を強化し、負荷をかけること「ではない」

構造自体を外圧で変化させることなしに10倍の成果が得られることはない。

スケーラビリティの幻想

ほとんどの経営者、新規事業運営者は小資本であっても大資本であっても、毎月計画的に人員を増やしたり、毎月計画的に生産ラインを増やそうとする。資本、土地、人員を線形的にインクリメンタルに増やせば成長できると信じ込む。しかし、それは悪手である。増収とともにオペレーティングレバレッジが消えていき、債務が増えていく。

一方、人員や土地を増やすことなく、今いる人員の給与を急激に増やすという方法は大企業には取れない。しかしTANAAKKで、「先ず隗より始めよ」の諺の通り、パフォーマンスが出るかどうかを五年間実験してみたが、給与のDCF的先行評価もあまり効果はないようだ。

組織の壁の正確な認知(Enclothed Reality)

なぜかというと、熱的な力をかけたところで、10倍の位相転移が起こるようなエネルギー生産方式のリープは起こらないからである。経営陣の報酬を2倍にしたところで、企業の業績は2倍にはならない。経営陣の報酬を10倍にしても同じである。人間は1人では出力が出ず、周囲の環境によってパフォーマンスが定義されているため(Enclothed Realityと仮に呼ぶ)、トポロジーが変わるまでは熱をかけたとしても出力は10倍にはならないのである。では10倍の出力を得るにはどうすべきか。Enclosed Realityとは、現在の資力で調達できる企業オフィス、住居、衣服、食料などにより、社会におけるハイアラキーが決まってしまうということだ。パフォーマンスは社会から「着せられる」以上のものにはならないという意図である。

しかし、資力の限界を超えて無理をして生活レベルを上げたとしても、このEnclothed Realityを格上げすることはできない。このブレイクスルーは報酬に相関しない。つまり、単なる実力勝負なのである。資力がないのに、資力がある格上に勝てるというブレイクスルーポイントを掴むしかない。

ここに必要なのは「ギリギリ感」である。これでは生活ができないというような切迫感に苛まれた際に、Semiotics的に複雑系の多層質量を牽引するような自己表現を、各々の経営陣が深いところで形成するしかないのだ。

誤った報酬による誤った学習

アーニングスパワーがないのに、財務キャッシュフローがあるからと言って営業CFの赤字を作り続けたところで、増収した後の純利益は保証されない。純利益は赤字を経由しなくても大幅に増やすことができるのである。

そのような真のアーニングスパワーを産むための自家発電方式というのは外部からの刺激によって成立するようなものではないし、量子トンネル現象のように数十億回に一回の確率で起こる現象なのである。赤字子会社の救済も同様である。金銭的な援助や人員的な援助は子会社の真の復活に貢献しない。支出と収入を同水準まで合わせ、収入以上の支出を作らないということを基本とする。会社の財務体力を削らないように時間稼ぎをしながら、次の10倍になるようなブレイクスルーポイントを無限に宝探しするのである。

本当のブレイクスルーは表面的な貧しさとは別次元の豊かさの手触りを確かに掴んだ時に、来るべくして確実に訪れる。これは給料の多寡とは相関しない。給料が2、3倍のレンジで変わったところで、10倍を実現できるかの確率はさほど変わらないということである。

問題はこのことに気づかずに数年間低報酬だと離反してしまう社員がいるということであるが、これは将来キャッシュフローの手触りを認知できるかどうかのセンスの問題なので、そこは無理強いしても仕方がない。一度放出した社員を、ステージが変わって余裕がでたからといって再度取得するようなことはあってはならない。

金銭的インセンティブの根本的スケール課題

また、金銭的インセンティブは給与だけではなく、個人のライフスタイルにとってもさほど効果を発揮しない。数万円、数十万円規模の時は高級品を買って仕事を頑張るというようなモチベーションが湧くかもしれないが、これもスケーラビリティというパラメータが入るとコスパがどんどん悪くなる。数百万円、数千万円、数億円、数十億円と、高級品の単価を上げていかないとやる気が出ないということになると、とてもコスパが悪いし、そのような高級品は法人税支払い後、個人所得税支払い後の手取りから支払う必要があるのと、住居、内装、衣類、移動手段も全て格上げせねばならず、家族親族なども同時にそのような生活レベルにあげないとバランスが悪くなるので、買おうとしている品に対して想定の3倍以上の予算が必要になる。

つまり、金銭的インセンティブには根本的なスケール課題がある。買ってやる気を出すというよりも、市場をサーチし、本当に必要、不可避だとデータスキーマ上確信できたものは、値段を見ることなく買うというように決めておくほうが必ず予算が捻出できるためコスパが良い。しかし、これは今後ブレークスルーを予定している全ての経営陣に適用可能であるかというとそうではなく、どちらかというと業績が多少増えても給与はその分は増やさず、企業としてのオペレーティングレバレッジを維持し、業績が10倍になってから2倍ほどの便益を享受するという順番のほうが自然かもしれない。

Semiotics的な複雑系の簡易記述

大企業のよくある課題で優秀な人材が取れない、親会社の給与体系と同様にしないといけないということで子会社の社員のやる気が出ない、ストックオプションが設定できないなど様々な課題が取り上げられるが、これらは根本的な問題ではないということをこの5年間の逆張り投資で明確化することができた。つまり、給与を大企業以上に支払いしても、ストックオプションを付与しても、できないときはできないのだ。

TANAAKKの2020年から5年間の成長期における給与支払い方針は失敗であったということを明確に認める。年商0から50億円まではきたが、ざっと5億円くらい余計に人件費を支払ってしまった実感がある。これは大企業のよくある課題を実際に充当してみた際にどうなるかという実験であったが、本当はやらなくて良い実験のはずであったし、今後はもうすることはないだろう。ここから先のスケールには多額の報酬は必要なく、Semioticに、複雑系を牽引するブランドコードを開発し、社内、社外コミュニケーションコストを100倍、1000倍レベルで下げていくことで1人あたりの売上をコンペティティブなものとし(1人あたり1億円以上)、オペレーティングレバレッジを月次で明確に記録していくことが重要なのである。

ブレイクスルーは200倍のリターンを生む

TANAAKK最大のIRRは11 ヶ⽉連続で月80 万円使って20 億円のリターン、これはIRRで月次91.58%、11ヶ月IRRで1276倍、TVPIで233 倍であった。これは世界中のベンチャーキャピタル業界でも異質な天⽂学的数字で、⽐率だけならおそらく世界⼀だろう。(ビットコインの過去最⾼上昇局面でも “1 年で約85 倍” 程度)

ただしこの成功も再現するにはかなりの試行回数が必要とみられ、早すぎる報酬はまた失敗を生みかねない。

ブレイクスルーの発生確率と発生経路の見誤り

この体験は量子トンネル現象のような位相跳躍の発生確率を甘くみたことに原因があった。1人のときにできたとしても100人になっても同じやり方でできるとは限らない。規模が大きくなるということは巨大な精密機械を扱うことと同義である。過負荷は母体を壊してしまうことにつながるため、過負荷を長い時間かけることはできない。

したがって、基本的には負荷をかけない状態で、ディフェンス優先。量子トンネル現象が起こりそうなエナジーバリアを特定し、迂回経路を組織の外に探し続け、発見したら局所突破するというのが基本的な姿勢だ。ブレイクスルーが社内から発生することはほぼないと言って良い。なぜなら、位相跳躍こそがブレイクスルーの原理であり、それは熱力学的な基本ルートとは全く違うところから量子テレポーテーション、量子もつれのように実現するからだ。意図的に外部に予算を配分するという意味で、アメリカ、フランス、スイスのクラフツマンシップの歴史や日本の伝統的不動産の歴史に対して予算を配分することは合理性があるが、それを経営陣や構成員にさせようとしたとしても、トップと競合する上に、予想以上の効果は得られないため、避けるべきである。外部との接続については組織のトップが密かに情報収集し続けていれば良いのである。

内部構成員は資本としてのリスクテイクをしていないわけである。どんなに人生の時間を費やしたとしても、公務員が日本のGDPが増えたからといって特別ボーナスや株式配分を得ることはない。それと同時に、エクイティ出資していない構成員がもし仮に突出した成果を出したとしても、法人格のオペレーティングレバレッジが観測できた後に劣後債権者として配分を受けるのが正当であり、そのような市場原理を曲げて「まず隗より始めよ」的な報酬を与えてしまうと、その熱は確実に分散し、オーナーの手元には帰ってこないという悲しい結果が待っている。

先に支払って可能性を高めるということは自分へのご褒美くらいであれば意味をなすが、他者への先払いは想像以上に抑止力、交渉力を持たず、熱は一瞬で散逸してしまう。

基本的に企業はオペレーティングレバレッジを産まない支出は1年以上は継続できない。その意思決定は四半期毎の決算で厳格にすべきなのである。日本の経営でイノベーションが起きない根本的な原因は、この財務規律の不全にあると断言できる。逆に、適切な財務規律は蜘蛛の糸をたぐるように空間を畳み込み、必ずブレイクスルーを持ってくるのである。

ブレイクスルーの条件

  1. 認知に関する波動関数が広がりきっている(広域認知)
  2. 局所広域の コヒーレンスが保たれている(階層の区分)
  3. 局所障壁(Barrier)が明確である
  4. 局所バリアに対して、最小限の熱量で膨大な試行回数の追突を実行する
  5. 追突している間、体力が尽きないことが重要なため、基本姿勢はディフェンスである
  6. エネルギーを1点に集中させて、エナジーバリアの多次元迂回経路を開通させる
  7. 一瞬の成果が出る
  8. その後また数ヶ月から数年の小康状態に戻る
  9. 再度膨大な試行回数を繰り返し、多次元迂回経路を再学習する
  10. 10倍のブレイクスルーが安定化する

No.7の一瞬の成果の時に勘違いをして報酬を一気に上げてしまうと、その後のNo.10までのプロセスを認知することなく、組織の気が緩んでしまう。ポイントはNo.10の安定軌道を確立してから、少し遅れて報酬を強化し、次のステージの位相におけるブレイクスルーポイントを探すことである。この報酬付与が少し早することにより誤った学習を促してしまったというのが、TANAAKK5年間の教訓である。軌道の安定には想像以上の時間がかかるし、位相ジャンプが実現したとしても次の10倍に向けたディフェンスを敷かないといけないのである。