新規事業のスケール感|最初の10年と最初の20億円

ブランドをコアとしたデジタル製造小売業だけが残存者利益を得られる
新規事業は受託開発業ではない。新規事業はコンシューマーからメーカー、アセットオーナーまでのバリューチェーンをデジタルにより垂直統合することが基本となる。データオーナーシップやブランドなどの知的財産をコアとし、一部アウトソーシングする領域はあるものの、基本的にマージンやROICの高い事業とはバリューチェーンのあらゆる領域でスプレッドが取れる必要がある。さらにこのROICスプレッドは、3すくみのように伝統的な大手プレイヤーが必ず陥っている囚人のジレンマ構造のあるマーケットでより効果を発揮する。ローカルミニマムのエナジートラップが永久機関のようなエネルギー源となるのだ。
1. 垂直統合とマージン構造
- 製造から小売までの統合
SaaSやIoTビジネスでも、最終的にマージンを厚く取るには「上流(製造・調達)」と「下流(小売・サービス提供)」を抑える必要がある。
例:TeslaやBYDはソフトウェア(OTA)とハード(EV製造)、販売網(直販モデル)をすべて自社で統合することで業界平均より高い利益率を実現。一方で、部品メーカーやソフトウェア専業は単体ではマージンが薄くなる。 - IoT SaaSの特徴
IoT SaaSの場合、単なるサブスクリプション課金ではなく「端末(ハード)」と「通信・データ処理(クラウド)」と「アプリケーション(UI/UX)」を束ねる必要があり、垂直統合に近い構造が取られる。この時バイイングパワーを規模の経済により強化することで売上のパラメーターはさほどかわらないが限界利益構造は最大30%ほど変わる。 - 30%浮いたOPEXは結局は先行投資の投資cfに回したり経営陣の確保、セキュリティやガバナンス、資本調達に利用するため、見かけ上の決算書の営業利益率は同業とさほど変わらないように見える。
- しかし、そのコスト構造の違いはトップラインのスケールによって証明される。
2. 「最初の10億円」と「次の10億円」
- 最初の10億円 = 器の確立
・プロダクトレベニュー
・製造・流通・販売の初期インフラ整備
・土地の確保と従業員のスケール
・垂直統合を前提とした商標、意匠を主軸とした産業構造の再定義 - 次の10億円 = スケール
- プライシングパワー、バイイングパワーを規模の経済により拡張
- 低資本コスト調達方法への切り替えとROICスプレッドの強化
- Law of Scaleにより、収益構造を厚くしていきます。
この二段階を踏むことで、マージンを確保できる事業の器が整います。
3. 期間:10年単位で考える
- 歴史的な事例
- Amazon:1995年創業 → Amazonバリューチェーンの確立により2006年以降にAWSをリリース
- Tesla:2003年創業 → 2013年(Model S量産成功)まで10年
- Shopify:2004年創業 → 2014年以降に本格的なスケール
いずれも最初の10年は「器作り」に時間を費やし、次の10年で爆発的成長を遂げる。
- IoT SaaS特有の時間軸
製造・流通・販売を含む垂直統合型の事業では、どうしても固定資産や組織の拡張に時間がかかります。資本効率を上げる工夫は可能ですが、「最初の10億円(器)+次の10億円(スケール)=10年」は、むしろ普遍的な時間感覚に近いといえます。
✅ 結論
どんな事業でも、ブランドをコアとしたデジタル製造小売業は「最初の10億円で器を作り」「次の10億円でスケールさせる」には10年単位の時間がかかると考えて良い。もちろん、市場環境や資金調達力によって5〜7年で短縮するように見える事例もあるが、それはあくまで株式流動化できただけであり、アーニングスパワーが5年で得られる事例は皆無。IoT SaaSのようにハードとソフトを統合する垂直型モデルでは、10年スパンを前提に経営設計するのが現実的。
ブランドを主体としてプライシングパワー、バイイングパワー、バイセルスプレッドおよび低コスト資本仕入れによるROICスプレッドを生み出せる会社は、同業と似たような業態でもデジタル製造小売業である。例えばスターバックスは飲食業ではなく、知財を中心としてコンシューマーのタッチポイントである店舗設計から逆算して垂直統合されたデジタル製造小売業である。売り場面積1平米に対して100万円という売上がスループットの限界であり、需要を密集させれば上振れはするが、スケーラビリティを試す段階で必ず平米売上は平準化する。つまりビジネスの違いはマージンだけである。マージンはPL上のマージンとBS上のマージンの2種類ある。しかしマージンが取れるとはいえ、これは全体のコストを減らすのではなく配分をコントロールする力である。結局20億円かかるのは変わらないが、なかなか獲得できない経営人材にOPEXを割り振り、アウトソーシングできるコモディティOPEXやCAPEXを最小化するのである。これを実現できるのが知財、ブランドにより垂直統合されたバリューチェーンである。
何か外部事情を遅延の原因にしていないか?
プロアクティブに思考を進めていれば、数字は増える。法人顧客を待っていたり、同僚の動きを待っていたり、「待つ」のは新規事業においては悪手である。「待つ」ことによって得られるものはない。完結した未来から来て、過去の人たちに選択を迫ることしかやることはないのである。自分の短い人生で、ちょっとした時間を共有した人くらいは救う必要があるのである。それは自分自身の思想を堅牢にすることにつながるのだ。