空いているというプレミアムは10倍のROICを生む

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空いているというプレミアムは10倍のROICを生む

日本のミシュランの星付きレストランは「予約が取れない」ことを価値が高まることの根拠にしているが、シンガポールのミシュラン星付きレストランで、特に高額な地代を支払っているレストランは、「いつでも空いている」ことを売りにしている。

1人5万円以上の単価の中華レストランで常に席が空いているレストランがある。席が空いている割に従業員は多く、水や料理がすぐに出てくるし、お茶もなくなるとすぐついでくれるし、食べた皿はすぐに回収される。そして、インフレが起こると真っ先に料理の単価が上がる。

このように、プレミアムバイヤーを狙ったビジネスで、いつも空いているのに従業員が多い事業者は他にもある。アマンホテルは京都も三重も大手町も、1泊50万円くらいするので、さぞかし満員だろうと思いきや、実際に行ってみると部屋は半分も埋まっておらず、レストランのスタッフや庭師、バックオフィスの従業員がたくさんいるのだ。腕の良いシェフも常駐させる必要があるし、高稼働させたい気持ちはあるとは思うが、来客全員に十分なサービスを提供することを目的として、昼も夜もレストランはピークタイムでも余裕があり満席になることはない。

マリーナベイサンズのルイヴィトンのVIPルームもいつも空いている。稼働率100%になっているところを見たことがない。

このようなプレミアム志向の事業者でうまく行っているところは、体感であるが昼、夜のピークタイム、土日や連休などのMAX稼働率が60%、平日やオフタイム稼働率は1割から3割、というところが多いのではないか。

「いつでも空いている」価値

  • ストレスのない即時利用:レストラン、ホテル、レンタカーなど、価格を気にする顧客は価格で比較するが、価格を気にしていない顧客にとっては「使いたいときに空いていない」ことが最大の不満。いつでも確実に借りられるなら、その安心感に対してプレミアムを払う顧客がいる。
  • 時間の価値が高い顧客層:時間の方が価値が高く、貨幣の価値が時間に対して低いプレミアム消費者にとって、予定は変わりやすい。仕事で急に必要になる人、旅行で予定が変わりやすい人にとって「空いている保証」は保険的価値がある。空いている席代にプラスして「非稼働費用」の保険料を追加で支払う消費者は世界中を旅している。
  • マリーナベイサンズの例:高額だが「いつ行っても座れる」という余裕がブランド体験を強化し、リピーターを獲得する。稼働率2割でも成立するのは、価格設定でその分を吸収できているから。

稼働率と価格のトレードオフ

  • 高価格 × 低稼働率モデル
    • 利点:常に空きがある安心感を提供。
    • 利幅:高利益率
    • 欠点:施設稼働効率が悪く、固定費負担が重い。
  • 低価格 × 高稼働率モデル(一般的なレンタカー):
    • 利点:台数あたり売上効率は良い。
    • 利幅:薄利多売
    • 欠点:繁忙期は「空いていない」リスクが高く、顧客満足度が下がる。

高単価で空いているビジネスは低単価で満員のビジネスの10倍の経営効率

「高くてもいいから空き保証」というモデルは、一見固定費負担が重いように見えるものの、薄利多売ビジネスだとしても実際に対応できるピークタイムは昼、夜、土日、祝日など集中しており、24時間365日営業できるわけではないので、実は土地、建物、人材、資源の方が限られているとすると、高単価で「常に空いている」事業者の方が、低単価で薄利多売、常に満員、行列を作っている事業者よりも利益率が高い傾向にあるのだ。事業効率でいえば、資本投下に対してざっくり3倍〜10倍ほどの経営効率があると言っても良い。販売数量は3分の1にも関わらず、数量当たりの純利益が3倍になるということは、ざっくり9倍の差が生まれるということである。

MacbookのCPU利用率も1%未満だろう。利用率の母数を1ヶ月720時間と考えれば、実際の稼働率は0.01%ほどになるだろう。

macOSは「即応性」を優先して余力を残す。CPU稼働率が低くても「クリックしたら即反応」が保証される。稼働率を低く抑えつつ、必要な時に瞬間的にブーストできるのがApple Siliconの強みである。

  • MacBook = 高価格だが稼働率2割のレンタカー会社
    • いつでも空きがあり、すぐ使える。利用者は快適。中古品でも再販売価値は高い
  • WindowsPC = 格安だが稼働率8割のレンタカー会社
    • 車は多く動いているが、借りたいときに空いていない。待ち時間や制約が多く、不満が溜まりやすい。再販売価格はMacBookよりも低い

つまり「遅いPC」は稼働効率は高いが体験価値が低いモデルに近く、「速いPC」は稼働効率は低いが体験価値が高いモデルと言える。

DellやHPなどのパソコンやサーバーとMacbookの純利益はちょうど10倍くらい違う。販売点数ではMacbookは首位になることはなく、2位か3位になっているが、資本効率と純利益額では圧倒的な1位である。

広域最適解による高ROIC

TANAAKKレンタカーは創業からの1年間で価格を上げたり、下げたり、格安と言われる価格帯から高級価格帯までのダイナミックプライシングを一通りテストした上で、最終的には人通りの多い需要のある場所で、「高くても、いつも空いていて借りられる、いますぐ出発できる、さらに地球環境にも優しい」豊かなレンタカーに方針を転換したことにより、局所解である薄利多売に陥っている他のレンタカーでは実現することの困難な、広域最適解としての限界利益率、オペレーティングレバレッジ、ベンチマークを超えるROICを実現している。

プレミアムユーザーは急に来て金を落として次の目的地に向かう

未来をよりよくするために、時間や地球という制約条件を優先したライフスタイルを求め、貨幣以上の価値を求めているユーザーはふらっと訪れて、短時間で大きなお金を落としてまた次の目的地へ向かうのだ。

構造的ホットスタンバイ

そのようなプレミアムユーザーに対する事業者の待ちの態度は、予測可能性の高い薄利多売ではなく、意味のある消費体験を作るための瞬発的な計算資源の構造的ホットスタンバイである。予約客がいるから前日までに仕入れをする江戸前鮨ではなく、予約客がいなくても、今晩ふらっと予約なしで訪れる旅人のために、シェフを用意して、高額メニューが準備されており、生簀に伊勢海老や車海老を置いているレストランがROICで優位となるのである。高ROICを狙うなら、急に訪れるプレミアムカスタマーに対応できるホットスタンバイ状況になっているか?考えるべきである。

認知外のカオスを秩序化する

事業の成長は認知の範囲内の力学コントロールで計画的に起こるパターンと、認知の範囲外のエネルギーを瞬発的に掴むことにより非線形で伸びるタイプの2通りある。急成長を生むのは十中八九、認知の範囲外の力学である。エコシステム、オープンソース、イノベーションは認知の外側のカオスを秩序化し、フリーキャッシュフローを生む技術である。