人間の知性 vs AI|賢さとは何か

AIは局所解(ローカルミニマム)を生み出すのが得意であるが、最初から終局的な大域解(Global Minimum)を目指し、その過程として局所解(Local Minimum)を積み上げた上でより広域な解(Regional Minimum)を出し続けるのは苦手である。(そのような使い方をすると条件分岐やパラメータが膨大になり電力消費が指数関数的に高まる)
人間はモデル、デュアリティ、ファンクターを用いてある分野で得た成功を別の分野に転用、翻訳し、より抽象的な、広域整合性のある公理を探そうとする。なぜ公理を探そうとするか?それは時間の制約と資源の制約があるからである。つまり、「寿命」があるからこそ人間は限られた資源でより多くのことを実現するために生来的に大域解を目指そうとする。
例えば水流の動きをAIで予測するのは比較的人間よりもうまくやると思うが、電磁力、強い力、弱い力、重力の背景にある力の統一理論を探してくれとAIに頼んだらもしかすると地球全体が焼けこげるほどのエネルギーを消費してしまうかもしれない。
一方、人間は少ないリソースながらも電磁力、強い力、弱い力、重力と、局所の公式からより普遍的で広域な公式を発見し、大域に辿り着こうとするモーメンタム(運動様式)を持っている。
これは少ない生命ながらも生きている間に宇宙を知りたいという根源的な欲求に由来する運動である。
賢さとはなにか?を考えるときそこには常に大域解の目的地に到達するためのエナジーランドスケープ(局所、広域、大域)とLeast Action Principle(最小作用原理)とが前提にある。賢さとは、「場」において「点」座標が「運動」する、「最小作用運動」に関するものである。作用の問題であるということは同時に反作用の問題でもある。個人の能力というのは個体で評価できるものではなく、個体が他の個体に与える影響(作用反作用)を外形評価することでしか能力を識別することはできない。
知性とは孤立系の中にあるのではなく、多体系における干渉や共鳴の中に現れる。個体が「どれだけ他者に影響を与え、その運動方程式を最小作用(つまり変分ゼロ)に変化させるか」こそが知性の本質であり、知性はある個体が他の個体または空間構成要素に与える位相力学的影響力であるとも言える。
なぜこの運動様式が発生するかといえば、人間が「生きる」ことを目的としているからである。無限に生きる存在があるとしたらその存在は最小作用原理のスケール感が人間とは全く違うかもしれない。
賢さとは「空間と他者への最小作用的な介入」である
- 賢さとは、目的地に向かって最も意味ある介入を、最も小さなエネルギーで実行する構造的能力である。
- それは決して個体の中で完結せず、「他者を変える運動」こそが賢さの証左となる。
- AIのように巨大な電力を使って局所的に目的を達成するのではなく、目的を再定義しながらランドスケープ全体を読み換える能力が本質的な知性。
- ランドスケープ自体に介入しランドスケープを変更してしまう能力も含まれる
AIもある程度までのメタ認知性能は高いかもしれない。しかし、メタ認知のスケールを経済、社会、国家、文化、宗教と広げていきつつ、誰もが従属している背景力学を導出せよとAIに指示をだしたとしたらエネルギーやマシンリソースの制約条件により検索や計算は途中で止まってしまうだろう。
つまり、コンピューティングパワーの制約条件がありながらも、膨大なデータセットを処理した上で複数の局所解を積み上げた上位集合の広域解を探索し、複数の広域解をさらに積み上げた上位集合の大域解を導出するという作業はAIには難しい。仮に1000年が経ったとして究極のAIが生まれたとする。そのときそのAIは人間と呼ばれているかもしれない。そうすると、1000年前の2025年でも同じことはできたということを1000年後に知るだけなのである。
人間は常に当たり前にできていることがなぜできるか?を理解するために時間を使いお金を支払って、最後に知ることは最初からできていましたねということなのである。
このように「賢さ=空間構造への最小干渉的な運動設計」と捉えると、
- 社会におけるリーダーシップ:多数に強制せずとも結果を導くような最小介入的ソフトパワーリーダーシップ
- 経営における戦略:投資対効果が高く、最小の資源で最大の成果を得る構造戦略
- 教育における知性観:個人の得点ではなく関係性変容による知のネットワーク生成(つまりオープンソースやオープンイノベーションエコシステム)
知性は静的な「情報処理能力」ではなく、動的な「運動」の選択的性質と空間介入能力である
通常「賢さ」や「知性」と聞くと、記憶力、論理力、処理速度のような個体内の能力に焦点が当たる。しかし、より本質的に捉えるならば、知性とは動き=変化における能動的な経路選択能力である。
宇宙における空間運動の支配原理が最小作用の原理(Least Action Principle)である。
- 物理世界では、すべての運動は「ある始点から終点へ、最も作用(エネルギー×時間積分)の変分の小さい経路を選ぶ」。
- これはニュートン力学から量子力学、相対論、経済モデルにまで貫かれる普遍的構造である。
賢さとは、最小のエネルギー消費で最大の目的達成を可能にする経路選択である。
「知性=運動の設計能力」であり、その構造はエナジーランドスケープの上にある
知的存在は、単に情報を処理するのではなく、
- エネルギーランドスケープ(可能性空間)を認識し、
- 局所解(Local Minimum)から広域解(Regional Minimum)を導き
- 大域解(Global Minimum)を目指して合理的に運動・選択する。
局所的には最適に見えても、本質的な目的に対しては非効率な経路がありうる。AIは局所最適を得意とするが、人間の知性は「目的そのものをより最小作用方向、大域解方向に再定義しながら経路を変える柔軟性」を持っており、位相を自由に選択できる能力と、その経路選択能力によって周囲の空間と物体に作用を起こし、目的の経路を最小作用に変化させることのできる能力を持つ。 つまり、自由運動の経路選択能力を持ちながら、情報記述により空間に作用を及ぼし、空間そのものの性質を変化させる能力こそ、知性や賢さと呼ぶべき能力であると言える。
変分がゼロの経路とは、経路空間における“繰り返し比較・摂動”を経て到達する安定構造である
とも言える。
- 作用の変分がゼロとは、「無限に細かいエネルギーの配分の試行錯誤を繰り返した結果、もうそれ以上変える余地がない状態」。
- それは「時間の上でのエネルギー配分を微調整し続けた極限点」であり、
- 「繰り返し積分されたエネルギー構造の中での停留点」=物理法則に従う運動となる