Bill and Hold(保管契約型販売)に関する収益認識基準

OEM販売の実務では、一般的な着荷基準の収益認識とは違うケースが存在し、収益認識を一般的な製造メーカーと一致させようとすると、売上、コスト、在庫の管理に不都合が出る。例えば、大手PBのOEMをしている場合に、出荷先店舗が複数存在し店舗の店頭在庫が一定の閾値以下になった場合に順次発送するようなケースである。
Bill and Hold(保管契約型販売)に関する基準
第1条:目的
本方針は、当社が受注生産またはOEM製造等を通じて顧客専用品を保管するにあたり、出荷を伴わずに収益(売上)を認識する「Bill and Hold」取引に関して、会計処理の基準および内部統制方針を明確にすることを目的とする。
第2条:定義
「Bill and Hold(保管契約型販売)」とは、顧客から出荷保留の依頼を受けた製品を、当社の施設に保管したまま、一定の条件を満たす場合に限り収益を認識(売上計上)する取引形態をいう。
第3条:収益認識の要件(以下すべてを満たすこと)
当該取引においては、以下の各号に該当する場合に限り、履行義務が充足されたものとみなし、製品出荷前であっても売上計上を行うことができる。
- 顧客の要請により出荷が保留されていること
- 出荷延期は当社都合によるものではなく、顧客からの正式な指示または契約上の定めによること。
- 対象商品が明確に識別されており、他の用途に転用できないこと
- 製品は顧客専用に製造され、物理的に分離・識別され、第三者向けには流用・出荷が不可能な状態であること。
- 顧客が当該製品に対してキャンセル・返品ができないこと
- 契約書または取引条件において、出荷保留中であっても当該製品のキャンセルまたは返品が認められていないこと。
- 当社において、当該製品の保管に責任を持ち、出荷準備が整っていること
- 保管状態は安定かつ安全であり、顧客からの要請があれば即時出荷が可能な状態にあること。
- 支配(リスクおよび経済的利益)が顧客に移転していると合理的に判断されること
- 製品の損失・滅失等のリスクが実質的に顧客に移転していると解釈可能な実態があること。
第4条:会計処理および管理手続
- 売上計上の仕訳は以下の通りとする:
(借方)売掛金(出荷待ち) xxx円 (貸方)売上 xxx円
- 出荷完了時には以下の振替仕訳を行う:
(借方)売掛金(通常) xxx円 (貸方)売掛金(出荷待ち) xxx円
- 上記処理に際しては、以下の文書を証憑として社内に保管すること:
- 契約書または発注書等の保持
- 顧客からの出荷保留指示書、電子データ、または契約書
- 製品が顧客専用品として分離・保管されていることを示す在庫管理記録
- 出荷準備完了を示す社内記録(入庫完了報告など)
第5条:会計・税務上の整合性
- 本方針に基づく売上計上に際しては、税務上の収益認識基準との整合性に留意すること。
- 年度末・月次締めにおいてBill and Holdに該当する案件がある場合、当該案件を別途リストアップし、会計責任者または顧問税理士の確認を受けること。
第6条:附則
- 本方針は社内会計方針の一部として適用され、必要に応じて見直しを行う。
- 特殊な取引形態については、会計責任者の事前承認を得ること。
✅ 背景:OEM販売における非典型的な収益認識構造
一般的な製造業との違い
項目 | 一般的な製造メーカー | 大手PB向けOEM |
---|---|---|
顧客 | 単一企業または法人 | 流通小売(量販店、GMSなど) |
出荷先 | 卸・DC・センター | 店舗ごとの個別配送(数百単位) |
指図 | 単一納品指図 | 店舗単位で順次出荷指図 |
リスク移転 | 出荷or着荷 | 出荷・着荷タイミングが不定期で分散 |
請求 | 納品後一括請求 | 出荷指図・店舗着荷後に個別請求 |
📌 問題点:着荷基準の適用による管理不都合
【1】売上計上タイミングの分散と遅延
- 数百店舗への個別出荷では、売上が小刻みに分散し、月次損益が歪む。
- 店頭在庫が閾値を下回ることで指図されるため、製造完了〜売上認識まで最大で数ヶ月遅れる
【2】製造原価の先行計上 vs 売上の遅延
- 製品完成時点で材料費・人件費等の製造原価は発生済み
- しかし着荷基準では売上が立たず、粗利のタイミングがズレる → 原価先行で赤字に見える月が出る
- 特に販管費がアンバランスになり、毎月黒字と赤字を繰り返す。
【3】在庫資産の膨張
- 売上未計上の製品が社内倉庫に積み上がり、在庫資産が過大に見える
- 実態としては出荷待ちなのに「売れ残り」と誤認される可能性
📘 実務上の解決策:Bill and Hold等を活用した「出荷準備完了基準」へのシフト
✅ 実態ベースの収益認識への転換が合理的
対応策 | 内容 | 実務上の要件 |
---|---|---|
Bill and Holdの活用 | 出荷指図済・引取義務あり・流用不可の条件を満たせば出荷前でも売上計上可能 | 契約上の返品不可/保管状況の明確化 |
「出荷準備完了基準」の会計方針導入 | 大量の店舗出荷を前提とするPB案件に限り、出荷準備完了時にリスク移転が実質的に発生したと見なす方針 | 出荷タイミングが顧客都合かつ当社が一切管理できないことの明文化 |
🛠 経営管理上のメリット
観点 | 改善内容 |
---|---|
粗利の月次整合 | 製造原価と売上を同月に計上できるため、実態に即した利益計上が可能 |
在庫資産の適正化 | 出荷待ち在庫を資産から債権へ移行し、バランスシートが正確化 |
キャッシュフロー管理 | 実質債権化している出荷待ち分を反映することで、運転資金の先行把握が可能 |
管理会計の整合 | KPI、BI、経営判断指標が実態に近くなる(例:出荷単位粗利、製品回転率など) |