ラグジュアリーとコモディティのROIC経営による共存

伝統的ポートフォリオ理論では、ラグジュアリーとコモディティは全く質の異なるビジネスであり、共存はできず、経営陣はトレードオフの選択を迫られ、片方を取れば片方はスピンオフさせる必要がある対概念であった。ラグジュアリーとコモディティを共存させるのは基本的には難しい。しかしながら、両者を共存させるような例も発見することはできる。
例えば、伝統的な話をすれば、革靴のビスポーク(フルオーダー)とレディメイド(既製靴)は似たように見えて生産プロセスが全く異なるため、共存しないと考えられていたが、パリのジョンロブなど、実現している企業はある。
ラグジュアリー(高級志向)とコモディティ(汎用品)は、一見すると対立するビジネス戦略であり、一般的には同じ法人組織内に両立させることが難しい、これは不可能なわけではなく、共存には明確な分離と評価基準が必要ということである。ROIC(投下資本利益率)という共通指標で評価するという観点に立つことで、構造的に両立・分離評価することが可能となる。
🎩 ラグジュアリーと🛒コモディティの基本的な違い
項目 | ラグジュアリー | コモディティ |
---|---|---|
コア | プライシングパワー✖scarcity | ローコストオペレーション✖scalability |
価格 | ドルのインフレに合わせて毎年価格を数%上昇させる(消費者に転嫁する) | インフレが進んでもなるべく事業者側で吸収し価格を上昇させない |
価値の源泉 | ブランド、希少性、物語性 | 利便性、価格、流通効率 |
顧客層 | 富裕層、価値志向 | 大衆、コスト重視 |
価格決定力 | 高い(プレミアム課金) | 低い(価格競争) |
サプライチェーン | 非効率でも希少性重視 | 効率最優先 |
マーケティング | ストーリーテリング、感性訴求 | 機能訴求、価格訴求 |
同じバリューチェーンで統合運営することは難しく、オペレーション上は分離が必要。
🚀 ROICによる共通評価軸
1. ROICの定義と活用
ROIC(Return on Invested Capital)は、「投下資本に対する利益率」を示す指標。NOPAT(税引後純利益)/投下資本が10%以上あれば、WACC(資本コスト)を上回る優良事業と考えて良い。
コモディティであろうと、ラグジュアリーであろうと、ROICが10%以上生み出せるのであれば、自己資本の追加投資をすることなく自律的に増殖させることができるので、同時並行で運営することにメリットがある。事業は投下資本の制約条件の前に「時間」「認知」の制約条件に先にヒットしてしまう。つまり、金をかけても売上が伸びる方が遅いということである。したがって、ラグジュアリーとコモディティをどちらも同時並行で運営したとしても、「時間」「消費者の認知スピード」「従業員が事業を理解し自分の体のように神経をつなげ、運営できるようになる神経発達スピード」の方が資本投下よりも遅く、じわじわとしか事業は大きくならないのである。したがってラグジュアリーとコモディティを並行で進めることにはメリットがある。
ROICを共通指標として使うことで、
- ラグジュアリー事業:高い価格×高い利益率 × 低い資本回転率>10%
- コモディティ事業:低い価格×低い利益率 ×高い資本回転率>10%
というプロファイリングをすることができ、どちらも10%を超えていれば良い。
2. LVMH, Unileverなどの実例
以下のような企業は、ラグジュアリーとコモディティを内部で両立している:
- LVMH:高級ファッション(Louis Vuitton)とコモディティ的な卸売中心の化粧品・香水(Sephora, Benefit)を同じ企業内に保有。
- Unilever、P&G、資生堂:商標に応じてセグメントを定め価格帯も棲み分けしたブランドポートフォリオを管理、ROICが高くない事業は撤退、売却。
🧩 両立させるための組織設計と評価モデル
1. 事業ユニット制(SBU)+P&L独立性
- ラグジュアリー事業とコモディティ事業を独立採算制とし、共通のROIC目標でマネジメント。
- 中央に「グループCFO」や「戦略オフィス」がいて、資本配分とROI評価を統括。
2. ブランドポートフォリオ管理
- BCGマトリクスやGEマトリクスで「資金を生む事業」と「成長をけん引するブランド」を分離管理。
- ROICだけでなく、ブランド価値評価(Brand Equity)と資本収益性の二軸で評価。
🎯 結論:ROICはラグジュアリーとコモディティを統合評価できる「共通言語」
- 両者はオペレーションもマーケティングも真逆ですが、資本のリターンという観点で見ると、ROICで共通評価でる。
- 法人組織内で分離運営・統合評価(Dual Operating Model)が可能。
- 経営管理上は「分離して運営、統合して比較評価」が鍵。
バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)もコモディティ型事業とラグジュアリー型事業の共存モデルの代表格。ROIC志向の資本配分によってコングロマリット経営を成立させている。
🏗️ コモディティ型事業の代表例(バークシャーハサウェイ内)
事業名 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
BNSF Railway | 全米最大級の貨物鉄道 | 重厚長大・設備産業・価格弾力性低 |
Berkshire Hathaway Energy | 公共電力・ガス事業 | 高い安定性、規制産業、低リターン |
マニュファクチャリング部門 | Duracell、Lubrizol、Precision Castparts | 工業・素材系の大量生産モデル |
GEICO | 自動車保険(価格競争激しい) | コスト効率が命、差別化が難しい |
これらはどれも典型的なコモディティ事業で、バフェットは「高収益でなくても**安定して現金を生む」資産」として保有しています。
💍 ラグジュアリー型・高付加価値事業の代表例
事業名 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
See’s Candies | 高付加価値チョコレートブランド | ブランド力で高価格、利益率高 |
Borsheims / Helzberg Diamonds | 宝飾・時計の高級小売 | 顧客体験と信頼性が差別化要因 |
Brooks | 高価格帯ランニングシューズブランド | ラグジュアリー寄りなニッチ戦略 |
NetJets | プライベートジェットのシェアサービス | 超富裕層向けの高収益モデル |
Apple(株式保有) | 世界最大級のブランド企業 | ブランド価値と価格支配力の象徴 |
特にSee’s Candiesについて、バフェットは「価格決定権(Pricing Power)を持つ企業が理想」という言葉を用いて、ラグジュアリー的戦略を評価。
⚖️ 両立を可能にしている構造的要因
1. コングロマリット構造+資本配分の一元管理
- 各事業はほぼ独立運営(P&L分離)し、バフェットとマンガーの本社が投資家の視点で資本再配分。
- 利益の再投資先として、ROICが高く、複利で成長する事業に再投入。
2. ROICを超えた評価軸:オーナー経営と長期性
- 単純なROIC比較に加えて、**競争優位性の持続期間(Durable Competitive Advantage)**を重視。
- See’s Candiesのように小規模でも「価格決定力がある企業」は、長期複利の優等生として評価。
3. コモディティは「現金創出源泉」、ラグジュアリーは「資本の成長エンジン」
- BNSFやGEICOなどの安定事業が内部資金供給源となり、
- ブランド事業や株式投資が成長と価値創造のドライバーになっている。
💡まとめ:バークシャー「両立の技術」
バフェットの表現を借りると以下のような棲み分け
- 「コモディティ」=堅実で退屈だが安定してキャッシュを生む
- 「ラグジュアリー」=スケールは小さくても高ROICと価格決定力がある
- この両者を明確に分離管理し、ROIC/資本効率で評価し続けることで、単一法人の中に矛盾なく共存させている。
- アップルのようなフォーカスされているように見えるメーカーであっても現代ビジネスはサプライチェーンも違えば原価構造も違う。iPhone,ipad,MacBook,iTunes,appstoreを同時並行で運営するにはROIC経営が必須である