シンプルなメッセージングの重要性|目標をメタファー還元する

Attention-to-Materialization™(意思の具現化)
スタートアップ経営の目標設定にはコツが必要である。
年商を○○兆円にする、○○億円にする
業界で1番になる、日本で1番になる、世界で1番になる
ROICを○%以上にする
などの表現は具体化していくとさまざまな疑問が生まれてくる。
例えば、年商100億円くらいを目指すとして、その時の純資産は100億円?純利益は10億円?そうするとROICは10%くらい?自己資本で行くのか、株式放出するのか?その時のキャッシュフローは?税引後の手取りはいくらになるのか?
そもそも最後にその手取りで自分は満足なのか?
色々な条件を具体的に考慮することによって、年商100億円という数字に具体性が出てくる。人生の時間は有限、資源も有限なので、そもそもよく考えていくと、必要のない目標もたくさんある。
限界効用は比較的早い段階でくる
物事には限界効用というものがある。それ以上量や質を増やしても認知的に違いがわからないという領域である。
例えば、1日に最高級のステーキを1kg食べたいという目標を持ったとしても、300gくらいしか食べられないので、700gは捨てることになる。そうすると、1日300gで十分な目標になる。そもそも、300gだとしても毎日食べたいのか?そうすると、適切な目標は
・毎日1kgの最高級ステーキをたらふく食べたい→365日で365kgの最高級ステーキが必要→5万円/kgで1825万円が必要
・制約条件(限界効用)を理解した場合、300gを週に1回*52週で良い→年間15.6kgで年間78万円が必要
つまり、たらふく世界一うまいステーキが食べたいという目標を実現するために必要な予算は一人当たり年間78万円であり、それ以上は1825万円まで支払ったとしても限界効用が伸びないということであり、最も幸せなのは年間78万円ということになる。(それでも頻度は多いが)
そうすると、手取りを1825万円増やさなくても78万円増やせば、世界一美味しいステーキを食べている人にはなれるということである。これなら、世界一大きな企業を創業するよりも簡単に世界一が取れるだろう。かなり簡略化しているが、世界一を取るということはこういうことなのではないかと思う。
例えば、筆者はコロナ期間中、日本一、掛け流し温泉を利用しただろうし、47都道府県のレンタカーを日本一利用したと言えるだろう。そうすると、タナークレンタカーを運営しても日本一になるのではないかという連想が体の奥底から湧き出してくる(たとえそれが一般的に困難なように思いこまれていても気にならないくらい湧き出してくるエネルギーがある)。
上場ゴールも限界効用の問題
反面、限界効用には比較的早い段階で到達してしまうため、年商100億円まで頑張れる社長はあまり多くない。年商1億円でも求めていた生活が得られてしまうこともあるし、年商10億円を超えたくらいで100人中99人くらいの社長が求めていた生活を得られてしまい、それ以上の年商を作ろうという気持ちを生み出すことに苦心する。上場した後に体裁上は成長をうたっていても本心ではもう成長できなくなって、燃料切れになっている人が多いのはこれが原因である。
個人的に仕事において重要だと思うことは、負けないということ、勝つということももちろん重要であるが、現象を正しく見定めて、与えられた寿命を賢く気楽に生きるというのが良いのではないかと思う。思い込みやバイアスがある状態、心と体と環境が食い違った状態で突っ走るのはあまり心地よいものではないのではないか。
TANAAKKの例
TANAAKKの例で言えば、時間がかかっても良いので地球で1番になるというのをベースとして、純資産1位なのか、総資産1位なのか、年商1位なのか、さまざまな可能性を探ってみた。年商1位は総資産1位にはなれなかったりするのである。つまり、1位というのはどれもトレードオフである。サッカーでバロンドールになった人はバスケで殿堂入りできないのと同様に、年商1位と純利益1位ですら両立できない。したがって、地球で1番になるということはどういうことか?「資本効率とフリーキャッシュフローで1位になる」ということと現在では理解している。
では1位であるということはどういうことか。当然何十年も運営していれば三菱、三井住友、トヨタ、NTTなどを規模でも超えてくることになる。しかし、50年後に1位になると言っても誰も想像できない。
では最も簡単に1番を取れるところはどこか?例えば、丸ビルの最上階を借りるというのは、50年後にフリーキャッシュフロー100兆円にすることよりもはるかに簡単であったので、目標としてはシンプルで良かった。丸ビルは日本で1番のビルであるにもかかわらず、占有コストは他の1番に比べてとても低い。
最上階は色々あって虎ノ門ヒルズや六本木ヒルズやあべのハルカスなど、海外でもニューヨーク、ロンドン、シンガポール、香港と色々あるだろうが、経済集約度や人口集約度から考えても、日本の中心の最上階を取るのは経済的にとてもエコであった。
経営陣や社員に対してトヨタに勝つ、日本で1番になる、最も成長した企業になると言ったところで、解像度はかなり低いが、まずは比較的低コストで入れた隣の郵船ビルから初め、丸ビルの最上階を狙うというのは日本一になるというよりもよりシンプルでクリアなメッセージングであった。丸ビルの最上階を狙うということは、取引先は基本的に三菱、三井住友などの財閥であるし、年商1兆円以上の国内上位200者であるというように自ずと定まる。
ほとんどのスタートアップは中小企業をまず顧客にして徐々に登っていこうという考えがあると思うが、TANAAKKの場合の考え方は違い、まずは年商が大きい順番に、トヨタ、ホンダ・・・と顧客を拡大していこうという考えであった。これは難しいことを最初にやろうとする考え方からきているのではなく、与えられた制限時間内において最も効率的に問題をとき、速やかに目標を達成するにはどうすべきかという最適化原則からくる帰結である。
まとめ:目標の整合性の向上と、その後のメタファーによる座標の確定
目標の解像度を上げるときには数字による整合性をチェックすることはとても重要である。しかし数字による計画をそのまま運用のプロンプトとして用いるのは不適切である。(浸透しない)
整合性が整ったら、あとは美しく、機能的に変換する。あらゆるトリガーにより目標の座標を適切に還元している現実の物理的な場所に目標を紐づけるのである。(例は丸ビルの最上階を狙う、年商1兆円以上の大企業顧客のみを狙うなど、目的を達成するために、他よりも簡単に、時間的にも早く手に入りそうな限界効用の高い場所を狙う。※例えば1兆円企業から1億円の契約はすぐには取れないので、10万円の契約を取るでも良い。ただしその後1億円までスケーラブルな議題である必要がある。小さく始めて大きく育てるGAAS™はこの意図で設計されており、月額10万円で始めたと思ったのに、いつの間にか1年後には月額5000万円になっていることもあるというのがポイントである。)
これがTANAAKKが20年間で培ってきているAttention-to-Materialization™(意思の具現化)の技術である。