ROICおよび増収増益ベンチマークの一般的手法|新規事業グロース評価

世の中には公開市場の株価を評価する方法は多く開発されており、証券化に関わる金融評価手法は多々ある。マクロインデックス評価はすでにゴールドスタンダードが確立している。例えば、米国株式インデックスであればSPY, IVVなどのインデックスETFが最も多く販売されている。このSPY, IVVは10年IRRで13%台というのが現在の公開市場のベンチマークである。およそ以下のようなWACCが計算できる。
WACC計算の基本式:
\[\text{WACC} = \left( \frac{E}{V} \times R_E \right) + \left( \frac{D}{V} \times R_D \times (1 – T) \right)\]- E = 株式(エクイティ)の市場価値
- D = 負債(デット)の市場価値
- V = 企業の総価値(E+DE + D)
- RE = 株主資本コスト(エクイティ・コスト)
- RD = 借入金のコスト(デット・コスト)
- T= 税率
1. リスクフリーレート(10年米国債利回り)
リスクフリーレートは、投資家が無リスクで期待できるリターンです。現在、10年米国債の利回りは約4%前後。
2. 市場リスクプレミアム
市場リスクプレミアムは、投資家がリスクを取ることに対して期待する超過リターンです。過去のデータから、S&P 500の市場リスクプレミアムは一般的に5%程度、10年平均を見ると13%-4%=9%。
3. 株主資本コスト
株主資本コストは、リスクフリーレートと市場リスクプレミアムを加算したもので、以下のように計算されます。 RE=リスクフリーレート+市場リスクプレミアム
例えば、リスクフリーレートが4%で市場リスクプレミアムが9%の場合、株主資本コストは13%になります。
4. 借入金のコスト(RDR_D)
借入金のコスト(デット・コスト)は企業の信用リスクに基づいて決まります。企業の信用格付けに応じて変動するが、大企業向けローンスプレッドは1~2%なので、現在の米ドル調達金利はデットで8.5%~9.5%である。
Prime Loan Rate
5. 税率(T)
税率は企業が支払う法人税の率。多くの先進国では企業の法人税率は約20%〜30%の範囲、30%に設定。
6. 資本構造(株式と負債の比率)
資本構造の比率。例えば、企業の資本が70%が株式(エクイティ)で、30%が負債(デット)であると仮定。
現在のグローバルマーケットのWACC計算例:
- リスクフリーレート = 4%(10年米国債利回り)
- 市場リスクプレミアム = 9%(S&P 500の平均)
- 株主資本コスト(RER_E) = 4% + 9% = 13%
- 借入金のコスト(RDR_D) = 8.5%(企業の平均的なデット・コスト)
- 税率(TT) = 30%
- 資本構造 = 70%株式、30%負債
WACCの計算:
この場合、現在のグローバルマーケットでのWACCは**約10.89%**。
結論:
企業タイプ | 通貨 | WACC |
---|---|---|
グローバル企業 | ドル建て | 約10.89% |
グローバルスタートアップ | ドル建て | 約10.89%-12% |
日本の公開企業 | 円建て | 約9.52% |
日本のスタートアップ | 円建て | 約9.52%-11% |
ポイントは、日本の公開企業であっても、大手企業の株主の上位にはドルベース会計の機関投資家が入っていることであり、WACCの構成要素の計算に日本円の長期金利1%や日本円の金利スプレッド0.5%で年利1.5%のデットコストを前提としたWACC3%台というのは存在しないという点である。しかしながら現在でも日本公開市場の資本コストを3%と計算して、ROIC目標を5%にしている大企業も存在するが、その場合はグローバルの資本コスト11%に対して毎年-6%の資本の毀損を目標にしてしまっているということになる。
WACCが全てのグロース評価の土台となる
グロースの評価というのはまずこのWACCを理解しないことには始まらない。まずはROICが11%未満か、それ以上かによって変わってくる。
EVA>0%の時のみグロース評価と追加投資が可能
新規事業の予算計画の場合、ROICが11%以下の場合はWACCを賄うことができず、EVA=ROIC-WACCが0%未満になる。投資に値しないので、投資対象から切り落としてしまって良いだろう。EVA<0の場合はユニットエコノミクスでEVA>0になっている領域を切り出すしかない(カーブアウト)。
ROICが11%以上ある場合は、有価証券報告書の最新期の1期分のPDFを確認すればおおよその事業評価が可能である。
グロース評価の一般的指標
・トップラインの売上が前年比で伸びているか?(>10%)
・限界ROICはどうか?(ROE,ROAの前年推移)
・オペレーティングレバレッジはどうか?(粗利益、営業利益、営業CF, FCFの売上に対するYoY感応度)
・販管費削減余地あるか?売上総利益が伸びている場合は将来規模の経済で販管費の削減余地がある
・営業CFが不自然ではないか?(CCCの大幅な悪化がないか?)
・最後に単体と連結の比較(連結は悪くても単体がよければ会社は意外と潤っていることが多い)
この評価手法は小売、製造、建設、医療問わず、どのような業界にも共通して適用できる財務分析手法である。上記の観点で比較した数値が業界内のベンチマークを上回っている場合は、資本、顧客、従業員採用などが集まりやすいということになるので、競争優位な業績を構築することができる。