低付加価値の製造業・小売業からROIC100%経営への不可逆的シフト
Amazon.comによる古本屋の淘汰、書店の淘汰は記憶に新しいが、全世界で先進国にも成長国にも関わらず、グローバルシティ、大都市圏で起きている不可逆的シフトがある。それはグローバル金利、資本コスト、インフレ圧力というキャピタルマーケッツ主導による、土地効率を高められない事業の淘汰である。
例えば、昔銀座に土地を持っていたという人はたくさんいる。しかし、急激に成長するグローバルシティでは、社会が街を監視する。所有者も社会に監視される圧力に負け、所有権を維持し続けられる個人はほとんどおらず、グローバル機関投資家がほとんどの銀座通りの土地を所有している。
例えばシンガポール、香港などでは付加価値が低い事業はところてんのように押し出される。GDPの押し上げ、雇用創出の牽引力となっていない事業者は行政なのか、民間なのかに関わらず、立ち退きの圧力がかかる。給与水準を毎年10%以上高めることのできない労働者も、中心地に住み続けることはできず、徐々に郊外へ押しやられていく。
グローバルシティのこのようなキャピタルマーケッツによる圧力は、競争を勝ち抜いた事業者や、勝ち馬に乗りたい投資家にとってはとても良いトーナメントの優勝者だけを選ぶことのできるマーケットプレイスを作り上げる。低付加価値の製造業・小売業からROIC100%経営への不可逆的シフトは、確かに東京、大阪、京都などの全世界から投資家が集まる街で確実に起こっている。
例えば、日本は法的、言語的な参入障壁があり、競争者が少なかったために独占禁止法文化もアメリカほどは活発には発達しなかった。しかし、今、日本に200社ある1兆円企業はそのすべてがキャピタルマーケッツの圧力下にある。
土地資産の含み益を頼りに、支払い義務のない土地を活用して細々と利益を上げていた日本企業は、含み益のある資産をすべて売却し、資本コストに見合うROICが出る事業にアセットアロケーションするよう圧力をかけられている。これまでは聖域であった大手ディベロッパー、ショッピングモールもキャピタルマーケッツの圧力下にある。
例えば中小スーパーマーケットが経営難で倒れていく中、不動産業類似のROICで成長してきた企業が今佳境を迎えている。
1. 🔍 産業構造の対比:レンタカー vs 小売業
項目 | 旧来型小売業(例:多店舗型量販店) |
---|---|
主力収益源 | 土地資産の含み益、モールのテナント貸し |
本業の収益性 | 減価償却前提の土地開発 薄利多売で低ROIC |
経営重心 | 出店数・店舗売上KPI主義 |
費用構造 | 固定費中心・スケール非効率 |
顧客体験 | 土地依存、スタッフ依存 |
イノベーション | 土地建物×店舗在庫×人手の集積構造に依存 |
2. 🌍 資本市場と経営指標の変化
💰 従来:PL志向(売上・営業利益主義)
- 多店舗展開=売上拡大という旧式ロジック
- 不動産簿価ゼロ前提の原価構造に依存(減価償却済)
- 資本コスト(WACC)という概念の軽視
- 資産を寝かせる経営=資本収益率を意識しない状態
📈 現在〜未来:ROIC主義 × WACC重視のグローバル基準
- 資本コストを上回るリターンの説明責任が必須
- 特に上場企業・REIT・ファンドは「ROIC vs WACC」の評価軸を厳密化
- 不動産・土地・資産に「何%で回しているか」が透明化されている
- WACC < ROIC を実現できない=淘汰
3. ⚠️ 小売業が直面する「不可逆的な転機」
- 店舗を増やすことが「経済合理性」にならない時代に突入
- 顧客接点=UX(時間・効率・感情)重視に移行
- 人手・土地・在庫を前提とするモデルは限界費用が下がらない構造
- サブスクリプション/オンデマンド/シェアリングに駆逐されつつある
小売業は、構造的なシフトで動けない巨象と化している可能性が高く、この10年間の舵取りを間違えると、あらゆるリーディングカンパニーが過去のものになる可能性が高い。
4. 🧠 ROIC経営モデル
- 不動産を資産化せず、可変的に調達
- 投資元本×資本回転率×マージンを数理最適化 → ROICの極大化
- PLOG™=アセットライトなProduct Led Organic Growth™の基本に立ち戻る(製造業の規模の経済の基本)
- PcLOG™=Principal Led Organic Growth™、資本にレバレッジをかけてインフラストラクチャを所有する必要がなくなった。ROIC100%をYieldとして得られる契約構造・知財でレバレッジをかけ、サプライチェーンをコントロールすれば「所有権」はもはや必要ない
結果として:
- 資本投入を最小限に抑えた100% ROIC経営が成立
- 従来の「土地があるからやる」という経営を否定し、「ROIで判断する」経営モデルを前提として、都市の計算資源を最適化する時代になっている
5. 📌 消費者の嗜好が完全に変化した
「産業を牽引していた企業」が「時間をかけて資本を毀損していた」ことが徐々に明らかになりつつあり、地球全体の資本効率主義の時代への突入に、グローバルシティはもちろん、ローカルシティですら抗う事ができない。
- 多くの製造業・小売業がROIC主義を持たないまま赤字体質を放置(日本円で黒字に見えてもドル建てまたはコンスタントカレンシーベースで資本コストを考慮するとキャッシュフローのマイナス)
- 百貨店・GMS・ロードサイド小売・レンタカーなどあらゆる生活必需財に共通する構造的問題
- 日本だけでなく、あらゆる世界のグローバルシティには同様の思想の変化が見られる
- これはもはや人々の思想の変化である
- ユーザーは「時間」を最上位の資産とし、「価格の小さな違い」を重視しなくなった
数年前のように、比較サイトを見て意思決定する人は少なくなってきている。ユーザーは表面的なデザインやソーシャルな見た目の背後にある企業の特徴を重奏的に感じ取り、直感的に購買意思決定する。現代は情報量が多すぎて、全く異なるパラメータをもつコンプレックス商品をApple-to-Appleで比較する事ができなくなっているので、価格は比較コンポーネントのほんの一部になっており、あまり関係がなくなっている。
この消費者の不可逆的なシフトに気づいている事業者は数兆円企業といえどもあまり多くはない。これからの20年間は日本においてもTOP企業が全て入れ替わるくらいのインパクトがあるかもしれない。アメリカのテクノロジー業界とベンチャーキャピタル業界に見られた1974年からの下剋上の転換劇は50年遅れてやっと日本で始まる兆しが出てきている。これまでのIT技術は日本という閉鎖されたマーケットの防波堤を打ち破るほどではなかった。しかし現在のAIは業界の垣根もなくし、素人があらゆる業界を制圧できるほどにオープンでコンバーティブルな産業標準化を実現してしまっている。産業間、異業種間の度量衡が強制的に実行されてしまった。
グローバルシティにおけるキャピタルマーケッツの圧力
● 土地資産はもはや「富の源泉」ではない
- 銀座の事例のように、かつて「持っていれば勝ち」だった土地所有は、グローバル機関投資家による資本コスト評価という透明性のある競争に晒されている。
- 土地は持ったら「負け」、年金などの安定投資家に持たせて、「借りるもの」
- 土地に限らず減損可能性の高いリアルアセットのほとんどが会社のバランスシートを毀損する可能性の高い危険資産と化している。
- 社会(市民・行政・市場)の監視により、「ただ持っているだけ」の個人や企業はこれまでにないスピードで淘汰される。
● 所有ではなく付加価値が都市へのアクセスを規定
- 香港・シンガポールのように、グローバルシティでは給与成長率やGDP貢献力の低い事業者、労働者、業種は都市中心部から押し出される。
- 資本市場、労働市場、不動産市場が連動し、事業者の「都市の計算資源としての存在意義」が問われている。