政府赤字の正当性|国富拡大と通貨価値強化における日本円のシニョレッジの官民活用についての考察

日本の政府赤字と資本収益性が連結会計により管理されていないにもかかわらず、根本的には深刻な指摘をされないのは、官民がこの構造により相互依存しており全体としては効率的だからではないか。
政府赤字は部分だけ取り出すと一見深刻に見える
- 政府負債は1200兆円以上
- プライマリーバランスはマイナス:国政は毎年赤字(年間約30兆円)
- 債務超過でかつGDP比率で-6%、歳入比で-20%程度赤字なので、営業CF、フリーキャッシュフロー共にマイナス。企業としたら流血している危険な状態
- ただし、国債については民間に吸収される仕組みがある。赤字の国債追加発行の半分は日銀が引き受け、もう半分は国内銀行、年金、保険
- 政府の連結純資産は債務超過の-700兆円であるが、対外純資産は+530兆円なので、民間企業が1200兆円以上のプラス資産を持っていることになり、対外国に対するネットポジションは+530兆円の資産超過
→政府は民間企業の1200兆円をコントロールする権利は持っていないものの、日本全体の海外に対する連結財務諸表上は資産超過で純資産550兆円ということとなり、世界一豊かな国という位置付けになる
日本国民は一人当たり1.1億円の総資産と約3400万円の純資産を持っていることになる。
- 2023年度末時点で国富(国民総資産)は1京3,287兆円。正味資産は4,158兆円で、対外純資産が475.4兆円ある
- 個人、民間合わせて国民1.24億人とすると、日本国民一人当たり1.1億円の総資産と約3400万円の純資産を持っていることになる。
- 国内純資産だけでなく、対外純資産もバランスよく持っていることで、円の価値は保たれている
- これが日本政府が赤字でも問題はないという理屈である
マネタリーベース比較
- 10年間の紙幣発行量は米ドル、ユーロなどの他国通貨に比べても相対的に少ないので実はJPYの貨幣価値は上がっている
- 発行された紙幣は住宅ローン保証や企業融資保証などの方法で市中に流れる
- ただし国内還流量よりも企業が対外投資することによる海外資本流出の方が多いため、紙幣を増やしたとしても円安になってしまっている
- 少子高齢化により民間企業は日本国内の内需拡大には投資せず、人口増加しているアジア、北米に投資するので円安になる
- 内国法人が内部留保だけでなく政府の補助金や銀行融資も用いつつ積極的にレバレッジをきかせて対外投資するため加速的に円安になる
- 民間企業の対外投資で国富としてのネット純資産拡大、おそらく単年黒字で営業キャッシュフローもプラスになっているのではないかという点は国民保有の対外純資産が世界首位であることから構造的に裏付けされる
- 国民主権財産含む国家のネットポジションはプラスで拡大しているため、政府赤字だとしても、日銀と民間金融機関による国債買付で事足りる。
- 自動車Tier1のようにタイの貨幣価値遅延を生かした時間のアービトラージで日本は資産を拡張している
政府赤字、国富黒字構造が成立するための暗黙の条件
- 内国法人はかならず日本のメガバンクを使用する。低金利だとしても預金する。預金を国に貸していることになる。国債を購入仕組みになっている
- 政府は生命保険、年金、民間企業の預金の運用先を円国債購入に自由に振り分ける実質的権利を握っている必要がある
- 政府の赤字は国債発行を預金で吸収することにより解消できる
- こうすることにより意図的に円安をつくりつつ対外投資で国富を拡張させることができ民間企業は政府の海外からの集金代行をしている
このように見方を変えると最も大きなリスクは労働力の搾取や貨幣価値の恣意的操作などの外国からの批判である。よく言われるように国民のタンス預金があるから政府は大丈夫という理屈は正確ではない。ほとんどの資本を占め、それを拡張することを担っているのはトヨタなどの大企業である。
日本政府の赤字を正当化できる根拠
- 日本はドルのマネタリーベース拡大に対して相対的に発行量を増やしていないため円の実態的な力は強い
- 元々インフレが起きるほどの通貨発行をしていないためアメリカの米ドルのようなシニョレッジの乱用はほとんどしていないため、危機が起こった場合日本政府はドルを円に戻すだけで円高に誘導できる
- 円安については内国法人が積極的にオフショア投資するため自然と円安になる
- 日本は移民を急激に増やさなくても資本的拡張によりアジアの労働力を純利益に変換している
- 内国法人が頻繁にドルを利用するためJPYは日本人以外に需要がないにも関わらず為替シェアが高く、スプレッドが低い。低コストで外貨を獲得できる。
ただし上記条件として、内国法人は必ず日本のメガバンクを利用する運用となっておりほとんど金利がつかない。低金利だとしても銀行、保険、年金が円国債を購入するのはグローバルの資本コストのルールから見ると不自然だが、内国法人はこうすることにより日本政府からの便益を享受していると言える。(外交、貿易、軍事、移転課税の基本交渉のアウトソース、安全に財やサービスを輸送するための保全サービスを政府が企業に提供している)
つまり以下の条件において日本政府の赤字は許容される
政府赤字を許容するための暗黙の前提条件
- マネタリーベースの拡張が米ドルに対して緩やかであり、貨幣価値の毀損をしていないこと
- 政府赤字と対外純資産を合算した政府、民間、国民合算資産が毎年リスクフリーレート以上に一定割合で拡張していること
- 日本企業が海外で稼いだ資本についてはいつでもメガバンクを通して回収できること
- この点については各企業に裁量があり、国が強制することのできない任意ではあるが、国富を拡大し、日本円の貨幣価値を高めるために暗黙の了解として重要な要素である
参考データ
1. 日本の国富
2023年度末時点で国富(国民総資産)は1京3,287兆円。正味資産は4,158兆円で、対外純資産が475.4兆円ある
対外純資産
- 最新データ(2024年末時点):
- 対外純資産残高:533兆500億円(前年比+60兆8,613億円、+12.9%)※ドイツ1位、日本2位、中国3位
- 対外資産残高:1,659兆221億円(前年比+169兆円、+11.4%)
- 対外負債残高:1,125兆9,721億円(前年比+109兆円、+10.7%)
日本の対外純資産は7年連続で増加し、過去最高を更新。ただし、ドイツに抜かれ、34年ぶりに世界最大の純資産国の座を譲る。
2. 政府の連結純資産
💱 主要通貨のマネーサプライ比較(2014年末 vs. 2024年末)
通貨 | 指標 | 2014年末 | 2024年末 | 増加率 |
---|---|---|---|---|
🇺🇸 米ドル(USD) | M0(マネタリーベース) | 約4,000億ドル | 約5.6兆ドル | 約1,300% |
M1 | 約2.6兆ドル | 約18.4兆ドル | 約608% | |
M2 | 約11.7兆ドル | 約21.5兆ドル | 約84% | |
🇪🇺 ユーロ(EUR) | M0 | 約1.2兆ユーロ | 約6.5兆ユーロ | 約440% |
M1 | 約5.5兆ユーロ | 約10.5兆ユーロ | 約91% | |
M2 | 約9.5兆ユーロ | 約15.0兆ユーロ | 約58% | |
🇯🇵 日本円(JPY) | M0(マネタリーベース) | 約275兆円 | 約670兆円 | 約144% |
M1 | 約600兆円 | 約1,120兆円 | 約87% | |
M2 | 約950兆円 | 約1,200兆円 | 約26% | |
🇬🇧 英ポンド(GBP) | M0 | 約3,750億ポンド | 約1.2兆ポンド | 約220% |
M1 | 約1.0兆ポンド | 約2.3兆ポンド | 約130% | |
M2 | 約1.5兆ポンド | 約3.1兆ポンド | 約107% |
マネー概念 | 説明 | 誰が使う |
---|---|---|
M0(マネタリーベース) | 中央銀行が供給するベースマネー(現金+準備預金) | 中央銀行視点 |
M1 | 現金+要求払い預金 | すぐに使えるお金 支払い即時性に着目 → 「決済通貨」「狭義のマネーサプライ」「トランザクションマネー」とも呼ばれる |
M2(マネーサプライ) | M1+定期性預金 | 経済活動との相関が強く、分析で最も使われる |