国のBS/PL/CF経営|日本の国家会計は、既存の貸借対照表を予算へ接続し、減損と金融資産の監査を入れるべきである

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国のBS/PL/CF経営|日本の国家会計は、既存の貸借対照表を予算へ接続し、減損と金融資産の監査を入れるべきである

日本の予算と決算は、現金の出入りで組まれている。財務省が毎年出している「国の財務書類」という貸借対照表がある。

  1. 一般会計と特別会計を合算した純資産だけでなく、一般会計単独のマイナスを並べて見ること。
  2. 現金の歳入歳出の赤字と、減価償却や引当金を含めた発生主義のコストの赤字を並べて見ること。
  3. 使い道のなくなった公共施設には減損を入れ、外貨証券や年金積立のような金融資産は運用の成績を監査すること。

1. 貸借対照表はすでにあるが、予算の議論に乗っていない

アメリカの連邦政府も、予算そのものは現金ベースに近い。ただ、財務報告は連邦会計基準諮問委員会(FASAB)の基準による複式簿記で、財務省が毎年『Financial Report of the United States Government』を出している。2024会計年度(2024年9月末)の連結貸借対照表では、資産5.7兆ドル、負債45.5兆ドルで、純資産は▲39.9兆ドルである。同じ年の現金ベースの予算赤字は1.8兆ドルだったが、発生主義の純運営コストは2.4兆ドルと、赤字が6,000億ドル大きい。職員や退役軍人の給付債務の増加など、その年に現金が出ていかなくても発生した費用が乗るためである(米財務省、FY2024財務報告)。なお、米会計検査院(GAO)はこの連結財務諸表について監査意見を表明していない(GAO-25-107421)。財務諸表を作ることと、監査を通すことは別の仕事である。

日本でも、財務省は平成15年度決算から、企業会計の考え方を参考にした「国の財務書類」を公表している。貸借対照表、業務費用計算書、資産・負債差額増減計算書、区分別収支計算書の4表が揃っており、独立行政法人などを含めた連結財務書類もある。ただ、国会が議決するのは財政法に基づく歳入歳出予算であり、この4表は後から付いてくる参考資料にとどまっている。

令和6年度末(2025年3月末)の国の財務書類は、次の数字になっている(財務省、2026年1月30日公表)。

項目 一般会計・特別会計の合算 うち一般会計
資産合計 783.4兆円 332.1兆円
負債合計 1,483.3兆円 1,105.0兆円
資産・負債差額 ▲699.9兆円 ▲772.9兆円
業務費用合計 174.1兆円 —
財源合計 158.2兆円 —
費用と財源の差額 ▲15.9兆円 —
令和6年度末。会計別の資産・負債は財務省の会計別一覧による。

ここで大事なのは、合算の▲699.9兆円よりも、一般会計単独の▲772.9兆円の方である。合算のマイナスが73兆円ほど小さく見えるのは、外国為替資金特別会計が円安による外貨資産の評価増などで+80.7兆円、財政投融資特別会計が+19.0兆円の資産超過になっており、会計間の相殺などを経て一般会計のマイナスを薄めているからである(主な会計の資産・負債差額)。

しかも、貸借対照表の資産783.4兆円の大半は、国債の償還に回せるお金ではない。外為特会の外貨証券は外国為替資金証券と、財政融資資金の貸付金は財投債と、年金の運用寄託金は公的年金預り金と、それぞれ対応している。道路や堤防のような公共用財産も、売って現金にするものではない。財務省自身が、諸外国と負債を比べるときはこの対応関係に留意するよう書いている。だからこそ、合算の数字一つで議論せず、一般会計の▲772.9兆円と、年間コストの超過▲15.9兆円を、予算の議論の正面に置く必要がある。

地方自治体も同じ状態にある。総務省が平成27年に「統一的な基準」を示して以来、貸借対照表など財務4表の作成自体はほぼ終わった。令和8年3月末時点の調査では、令和6年度決算の一般会計等の財務4表を作成済みの団体は1,788団体中1,744団体(97.5%)、都道府県は47団体すべてである(総務省調査)。ところが同じ調査で、財務情報を「予算編成」に活用していると答えたのは、都道府県で47団体中2団体(4.3%)、市区町村で1,741団体中75団体(4.3%)にすぎない。

これでは、毎年の現金収支は黒字でもインフラの老朽化で純資産が減り続けている自治体と、交付金で現金が回っているだけの債務超過の自治体を、予算の段階で見分けられない。書類はすでにあるのだから、あとは予算編成のテーブルに乗せるだけである。

2. 「国富」「政府の純資産」「対外純資産」を混ぜない

財政の議論が噛み合わなくなるもう一つの原因は、範囲も評価方法も違う複数の「純資産」が、同じ言葉で語られることにある。公式統計には少なくとも次の数字が並んでいる。

指標 時点 金額 中身と出典
正味資産(国富) 2024年末 4,549.5兆円 家計・企業・政府を合わせた日本全体。非金融資産4,011.0兆円+対外純資産538.5兆円。内閣府・国民経済計算ストック編(2026年1月20日)
一般政府の正味資産 2024年末 427.1兆円 中央政府・地方政府・社会保障基金の合計。土地やインフラを時価評価。同上
国の財務書類の資産・負債差額 令和6年度末 ▲699.9兆円 国の一般会計・特別会計。取得原価と台帳価格が中心。財務省
うち一般会計 令和6年度末 ▲772.9兆円 同上
対外純資産 2025年末 561兆7,504億円 政府・企業・個人が海外に持つ資産から負債を引いた額。財務省(2026年5月26日)。ドイツ、中国に次ぐ世界3位

内閣府の統計で一般政府の正味資産が+427.1兆円になり、財務省の書類で▲699.9兆円になるのは、対象範囲と資産の評価方法が違うからである。内閣府の一般政府には地方自治体や社会保障基金が含まれ、土地などの非金融資産を時価で評価する。だからプラスになるが、その中身は道路や土地であり、売って国債の返済に充てられる現金ではない。一方、財務省の財務書類は国の会計に絞られ、公共用財産は過去の事業費を積み上げた取得原価から減価償却を引いて載せている。また、対外純資産の561.8兆円は民間企業や個人の海外資産を含んだ国全体の対外ポジションであって、政府の財布ではない。

「政府が699兆円の債務超過なのに破綻しないのは、どこかに簿外資産があるからだ」という見方も正しくない。どの国の貸借対照表も、将来の税収を資産に計上しないからである。米財務省の報告書が明記しているとおり、政府には課税し、通貨を発行し、借り換える権限があるが、それは貸借対照表の資産には載せない。その代わり、利払いと給付が将来の税収で回るかどうかは、貸借対照表とは別の長期推計で測る。日本の財務書類で税収が「資産」ではなくその年の「財源」に入っているのも同じ理屈である。

3. 公共インフラには減損を、金融資産には運用監査を入れる

既存の財務書類を予算の評価に使ううえで、今の日本の基準に欠けているのが「減損」である。

国の財務書類では、道路や庁舎などの有形固定資産に減価償却は行っているが、減損会計は導入していない(総務省の公会計モデル比較)。公共用財産は、過去の用地費や事業費を耐用年数分だけ積み上げて取得原価を推計し、定額法で機械的に償却していく。そのため、人口減少で利用者が激減した施設や、万博・大会のように数か月のイベントの後で使い道が細った施設でも、耐用年数が尽きるまで帳簿上の資産として残り続ける。

イベントやインフラの事前評価でよく使われる「経済波及効果」は、建設や消費で一時的に動く金額の推計であって、投資の回収を示す数字ではない。単式簿記の歳出予算だと、支出した瞬間に記録が終わる。ここに公会計の減損を入れれば、「作ったが予定したサービスを提供できていない資産」が、評価損として決算に現れる。

もちろん、最初から料金収入を目的としない道路や河川に、民間企業の減損(将来のキャッシュフローで回収できるか)をそのまま当てはめることはできない。国際公会計基準(IPSAS)でも、収益を生む資産の減損(IPSAS 26)と、キャッシュを生まない公共資産の減損(IPSAS 21)は分けられており、後者は「当初予定したサービス提供能力が失われていないか」で測る。また、IMFの政府財政統計マニュアルも2001年版から『GFSM 2014』に改定され、発生主義の貸借対照表と現金収支の計算書を併用する形になっている(IMF, GFSM 2014)。

一方、外為特会の外貨証券、年金積立金、政府出資などの金融資産は、インフラとは切り離して、純粋に運用成績を監査すべき領域である。たとえばノルウェーの政府年金基金グローバル(GPFG)は、2025年末の時価が21兆2,680億ノルウェークローネ、同年の収益率は15.1%で、ベンチマークとの差(▲0.28ポイント)まで年次報告書で開示し、会計検査院の監査を受けている(NBIM年次報告2025)。日本でも、対応する負債や使途の縛りを明示したうえで、リスクに見合ったリターンが出ているかを問う対象は、こうした金融資産である。

4. 国際比較:「複式簿記=資産超過=AAA格付け」ではない

2025年5月16日、ムーディーズは米国の長期発行体格付けをAaaからAa1へ1段階引き下げた(Moody’s、Reuters)。S&PとフィッチはすでにAA+だったため、米国は主要3社すべてからの最上位格付けを失った。

この引き下げ直後の2025年5月19日時点で、S&P・ムーディーズ・フィッチの3社すべてから最上位(AAA / Aaa)を得ていたのは、次の9か国である(MUFG Americasによる集計)。よく11か国に数えられるカナダはフィッチがAA+(2020年6月に引き下げ、2025年7月にもAA+維持)、リヒテンシュタインはS&Pのみの格付けであるため、3社揃ったAAAには入らない。なお、ドイツは2026年9月時点でも3社すべての最上位を維持している(ドイツ金融庁)。

国名 3社格付け 純債務/GDP 財政収支/GDP
ノルウェー AAA / Aaa / AAA ▲163% +10.2%
デンマーク AAA / Aaa / AAA ▲4% +2.0%
ルクセンブルク AAA / Aaa / AAA ▲4% +0.6%
シンガポール AAA / Aaa / AAA 0%未満(純資産) +0.3%
スイス AAA / Aaa / AAA 16% +0.05%
スウェーデン AAA / Aaa / AAA 12% ▲1.8%
オーストラリア AAA / Aaa / AAA 32% ▲0.2%
オランダ AAA / Aaa / AAA 36% ▲2.0%
ドイツ AAA / Aaa / AAA 50% ▲2.3%
2025年5月19日時点。純債務と財政収支はIMF WEO(2025年4月)による2025年見通し。純債務のマイナスは金融資産が債務を上回る状態を指す。

表のとおり、3社AAAの9か国の中でも、純金融資産がプラス(純債務がマイナス)なのはノルウェー、デンマーク、ルクセンブルク、シンガポールの4か国だけで、残りの5か国は純債務がプラスである。2025年の財政収支見通しも、ドイツ、オランダ、スウェーデン、オーストラリアは赤字側にある。

さらに各国の実際の財務諸表を見ると、会計制度と財政状態の関係がはっきりする。

  • オーストラリア(発生主義だが債務超過):発生主義の予算と連結財務諸表を早くから整えた代表格だが、2024–25年度末の政府の純資産は、一般政府で▲6,145億豪ドル、連結で▲6,324億豪ドルのマイナスである。2024–25年度の連結純運営収支も412億豪ドルの赤字だった(Final Budget Outcome、豪財務相発表)。
  • カナダ(発生主義だが債務超過・赤字):連邦政府は発生主義の『Public Accounts of Canada』を公表しているが、2024–25年度(2025年3月末)は運営赤字363億加ドル、累積赤字(負債と資産の差額)は1兆2,665億加ドル(対GDP 41.2%)の債務超過である(カナダ財務省)。
  • ドイツ(AAAだが連邦予算は現金主義):3社AAAを維持しているが、連邦政府の予算・会計は伝統的なカマラール(現金・期日主義)のままである(連邦議会調査)。欧州委員会の2025年12月の報告書でも、ドイツとオランダには一般政府全体を発生主義へ移行する計画はないと記されている。発生主義を導入しているのはヘッセン、ハンブルク、ブレーメンの3州と多くの市町村である(EU理事会文書)。
  • スイス・スウェーデン(発生主義で純資産はプラス):スイス連邦は発生主義の連結財務諸表を公表しており、2024年末の純資産は連邦単体で65億スイスフラン、連結で800億スイスフラン(うち連邦帰属707億)のプラスだが、大半は使途が拘束されている(スイス連邦財務省)。スウェーデンも中央政府年次報告で2025年末の純資産が3,630億クローナのプラスである(スウェーデン政府)。
  • ノルウェー・シンガポール(巨額の金融資産を持つ例外):ノルウェーは一般政府の純金融資産が2025年で約23.6兆クローネに達する(ノルウェー統計局)。シンガポールは2024年末の政府粗債務が対GDP約173%と大きいが、大半は支出目的ではなく中央積立基金(CPF)などへの発行であり、それを上回る金融資産を持つ。運用益から予算に繰り入れる純投資収益拠出(NIRC)は2024会計年度で約240億シンガポールドルに上る。なお、国会に出す資産負債計算書にはテマセクなどの政府保有会社は含まれず、国家準備金の全額を示すものではない(シンガポール会計長官部)。
  • 香港・ニュージーランド(純資産プラスだが別の論点がある):香港の2025年3月末の発生主義・連結純資産は1兆6,362億香港ドルと厚いが、同じ年度の現金ベースの財政収支は803億香港ドルの赤字である(香港政府)。ニュージーランドは2025年6月末のクラウン純資産が1,891億NZドルのプラスで監査意見も無限定だが、その中身は有形固定資産の再評価剰余金(1,833億NZドル)であり、過去の収支の蓄積である納税者資金は▲35億NZドルのマイナスである(NZ財務省)。日本の一般政府の正味資産(+427.1兆円)が土地やインフラの評価額で膨らんでいるのとよく似ている。

こうして並べると、格付け機関が見ているのは経済規模や課税基盤、制度の安定性、利払い負担であって、「複式簿記かどうか」ではないことが分かる。複式簿記と貸借対照表の役割は、格付けを上げることではなく、オーストラリアが退役軍人給付の引当金増で純資産を悪化させたように、あるいはニュージーランドが純資産の大半を再評価益だと明示したように、「なぜ純資産が増減したのか」を国民と議会に見えるようにすることにある。

結論:日本の国家会計でやるべきこと

以上を踏まえると、日本がやるべきことは「複式簿記の導入」というスローガンではなく、すでにある数字の使い方を変えることである。

  1. 一般会計の▲772.9兆円を合算の▲699.9兆円と分けて示す:外為特会や財投の資産超過で一般会計の債務超過が薄まって見える表示をやめ、一般会計のストックの悪化を予算審議の前提に置く。
  2. 発生主義のコスト超過(▲15.9兆円)を現金の決算と並べる:米国が予算赤字1.8兆ドルと純運営コスト2.4兆ドルを並べて開示しているように、現金の出入りだけでは見えない年間のコスト超過を国会審議に乗せる。
  3. 公共資産に減損を入れ、金融資産の運用を監査する:使われなくなった施設やイベント後のインフラが取得原価のまま残る仕組みを改め、IPSAS 21のようなサービス提供能力基準の減損を入れる。外貨資産や年金積立金などの金融資産は、対応する負債と使途の制約を明示したうえで、ベンチマークに対する運用成績を監査する。
  4. 地方自治体の財務4表を予算編成に使う:作成率97.5%に対して予算編成での活用率4.3%という現状を改め、現金収支の黒字・赤字だけでなく、純資産の増減と債務償還能力で自治体の財政運営を判断する。

国富4,549.5兆円、一般政府の正味資産427.1兆円、国の財務書類▲699.9兆円、対外純資産561.8兆円。これらはどれか一つが正しくて他が間違っているのではなく、測っている対象が違う。新しい歳出や投資が、このうちのどの数字をどう動かすのかを予算の段階で示すこと。それが、国家会計に貸借対照表と減損・監査を組み込むということである。