日本の国家会計に複式簿記と減損会計/金融監査を導入すべきである

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日本の国家会計に複式簿記と減損会計/金融監査を導入すべきである

アメリカは政府の会計は複式簿記である。支出予算組は単式簿記である。一方日本は会計報告、支出予算組ともに単式簿記であり国富のネットポジションがプラスなのかマイナスなのかも不明である。バランスシートや損益計算書、キャッシュフロー計算書がないため、例えば、ネット収入(対外的な資産の増加、経常収支、税収(主に法人税、個人税、固定資産税、消費税)によるインフローと、アウトフロー(資産の減損、歳出、利払い等)がまとまったビューが存在していない。自治体も総税収と交付金がネットでプラスになっている自治体と、ネットでマイナスになっている自治体の運営方針は違うはずである。資産超過なのか、債務超過によっても方針が異なる。企業であれば資産超過であってもキャッシュフローがマイナスであったり、ネットキャッシュがマイナス、債務償還可能年数が4年以上であれば要注意である。

区分アメリカ日本
政府会計制度複式簿記(FASAB基準・連邦政府)単式簿記(歳入歳出の現金主義)
予算編成制度現金主義ベース(単式に近い)現金主義・単式簿記
バランスシート・損益計算書存在(連邦レベル)事実上なし(補足情報としての資産負債はあるが財務諸表の形を取らない)
財政の全体像(統合ビュー)収支+資産負債を示す統合報告が存在歳入歳出中心、ストック情報は不明確
地方自治体の会計GASB基準に基づく複式簿記地方公会計制度改革中だが、単式ベース中心。財務書類は一部で整備途上

🧾 問題の本質:ネットポジション不明による戦略不能

日本の国家財政・地方財政が単式簿記ベースかつキャッシュフロー中心であることにより、以下の問題が発生します:

1. 「資産」や「債務超過」の概念が行政計画に反映されない

  • 民間企業では「貸借対照表(BS)」が戦略判断の基本。
  • 日本政府には国家としてのBSが存在しない(あるいは限定的にしか提出されない)
  • 例えば国債発行によって得た資金がインフラ投資などの資産形成に寄与したのか、単なる歳出に消えたのかが分からない

2. 地方自治体の経営判断が「年度収支」に依存しすぎている

  • 自治体の「黒字」「赤字」はあくまで現金ベースの話。
  • 資産超過であっても赤字自治体ならば良いが
  • 長期的に債務超過で交付金黒字で存続する自治体も存在。→経営再建が必要な要注意先

🧭 提案される視点:財政ガバナンスにおける「PL/BS/CF三表化」

✅ 国家会計に以下を整備すべき:

  • 国家バランスシート(BS)
    • 資産:インフラ(土地建物設備)、金融資産、年金積立、対外純資産など
    • 負債:国債、退職給付債務、政府保証債務等
  • 国家損益計算書(PL)
    • 収支を財務会計的に測定(減価償却資産含む)
  • キャッシュフロー計算書(CF)
    • 税収、国債発行、投資、利払い、補助金などのフローを時系列で開示

→例えばオリンピックや万博はたったの数ヶ月で投資回収できるわけはなく、経済効果をいくら算定したところで、その実態は赤字である。

→インフラ投資や対外的な広告宣伝費投資に対して10年単位でROICが出ているか測定する

→単式簿記だと一度予算を使ったらその後は効果があったかなかったかが有耶無耶になる

  • 政府資産の「健全な資産運用」という視点の導入(ただ使うだけでなく運用する)
  • 政策ごとの費用対効果の測定
  • 財政の「持続可能性」に関する透明な議論
  • 地方自治体の自己責任的経営判断(黒字依存から資産性重視へ)

日本が単式簿記である限り、国富を増大させるための予算であるということがいつまでたっても認識されないはずである。

🧩 国際比較:IMF・OECDが推奨する「財務諸表ベース会計」

  • IMFは政府会計改革として「GFS(Government Finance Statistics)2001基準」を策定。
  • これは複式簿記ベースで、収支だけでなく資産・負債の変動を管理するよう各国に要請。
  • オーストラリアやニュージーランドなどはすでに国家会計を企業並みに整備済。

✅ 結論

日本の「政府および自治体会計が単式簿記である」という構造は、財政戦略や持続可能性の議論を極めて困難にしており、実質的な“視界不良”状態。今後の制度改革として、PL/BS/CFを揃えた政府統合財務諸表の整備と、それに基づく**政策評価制度(Policy ROI)**の導入が不可欠。

以下は、国家バランスシート(BS)を導入・開示している、かつ**資産超過(Net Asset Positive)**が明確である国の代表例と、その制度状況です。

✅ 資産超過国の国家バランスシート(BS)導入状況

国・地域国家BSの導入状況財務報告制度特徴
🇸🇬 シンガポール✅ 完全導入Accrual-based financial reporting (発生主義+複式簿記)Temasek・GICなど政府投資会社を含めた国家資産運用の透明性が高い。国家財政も明確に純資産超過
🇭🇰 香港✅ 導入済みAccrual-based Government Financial Reporting Framework(AGFRF)財政余剰が大きく、資産の部の開示が豊富。土地収入や外貨準備も含めた財政安定性が高い
🇳🇿 ニュージーランド✅ 完全導入Crown Financial Statements:企業型財務三表(BS・PL・CF)を公開世界で最も進んだ政府会計制度。政府部門がIFRSに準拠。中央政府と地方自治体の統合財務報告が可能。
🇦🇺 オーストラリア✅ 導入済みAccrual budgeting & reporting(政府財務報告書を年次で公表)GFS2001に準拠し、ネット資産を政府の健全性指標として活用
🇸🇪 スウェーデン✅ 導入済み統合財務諸表(Statens årsredovisning)会計監査庁(NAO)と財務省によって、国の貸借対照表・純資産変動表を開示
🇨🇭 スイス✅ 導入済み発生主義+資産負債中心の報告直接民主制の影響で、財政透明性が極めて高い。財政黒字・債務抑制法制あり。
🇨🇦 カナダ✅ 導入済みPublic Accounts of Canada(財務報告書)で連邦政府のBS公開財務監査局が毎年レビュー。純資産の積み上げと政府債務の管理が明確。
🇳🇴 ノルウェー✅ 導入済みGovernment Pension Fund Globalの含む資産とBS国富ファンド(GPFG)を含む純資産が大きい。年次報告に国家BSを含む。

🔍 資産超過かつ国家BSを導入することの意義

  1. 戦略的政府投資が可能(→ Temasek, GIC, GPFGなど)
  2. 国民に対する財政説明責任の強化
  3. 政策ごとの費用対効果分析(Policy ROI)
  4. 国際機関(IMF, OECD, S&P等)による信用格付け改善
  5. 債務危機回避(将来世代への負担回避)

🧭 対照:日本の状況

  • 日本は**形式上の貸借対照表(財務省「国の財務書類」)**を作成していますが、以下の問題があります:
    • 過去20年以上債務超過(純資産マイナス)
    • 各府省庁が個別に財務報告し、統合性が乏しい
    • 政策意思決定に「資産・負債」の情報がほとんど反映されていない
    • 地方自治体においてもBS/PL/CFの三表化は道半ば

債務超過で存続しているということはどこかに簿外資産があるということであり、債務超過なので財源がないため増収しようという言い訳としてしか利用価値がなく、正しいネットポジションを把握することができない。

国の財務書類(令和5年度)

✅ 結論

シンガポール・香港・ニュージーランド・ノルウェーなどの資産超過国家は、明確に複式簿記・発生主義の政府会計を導入し、国家BSを年次で公開。(資産運用についてリスクフリーレートに対するプレミアムが獲得できているかを明確にマネジメントしている)

こうした国々は、国家を「長期持続可能な企業体」として設計・運営しており、政策の質、資産運用、信用格付けなど多くの面で優位性があります。

2025年5月時点で、主要な格付け機関であるS&P、フィッチ、ムーディーズのすべてから最上位の信用格付け(AAAまたはAaa)を取得している国は、以下の11か国です:

🌍 トリプルA格付けを維持している国々(2025年)

国名S&Pフィッチムーディーズ
🇦🇺 オーストラリアAAAAAAAaa
🇨🇦 カナダAAAAAAAaa
🇩🇰 デンマークAAAAAAAaa
🇩🇪 ドイツAAAAAAAaa
🇱🇮 リヒテンシュタインAAAAAAAaa
🇱🇺 ルクセンブルクAAAAAAAaa
🇳🇱 オランダAAAAAAAaa
🇳🇴 ノルウェーAAAAAAAaa
🇸🇬 シンガポールAAAAAAAaa
🇸🇪 スウェーデンAAAAAAAaa
🇨🇭 スイスAAAAAAAaa

これらの国々は、世界のGDPの約10%を占めています。

  1. 資産超過(BS):政府の資産が負債を上回る「資産超過」の状態を維持しています。
  2. 黒字の損益計算書(PL),プラスのキャッシュフロー(CF):多くの国で、政府の収入が支出を上回る黒字を計上しています。
  3. 複式簿記による財務諸表の開示:発生主義・複式簿記に基づく財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)を定期的に公開しています。資産について減損会計を適用

🇺🇸 アメリカの格付け状況

アメリカは、2025年5月にムーディーズによって格付けがAaaからAa1へと引き下げられ、主要3社すべてからのAAA格付けを失いました。

✅ 11か国すべてが原則として**キャッシュフロー黒字(プラス)**を維持

国名財政キャッシュフロー主な収支要因
🇦🇺 オーストラリア✅ プラス資源輸出、個人所得税の伸び
🇨🇦 カナダ✅ プラス(2023年度)税収増と歳出抑制
🇩🇰 デンマーク✅ 安定黒字高福祉高税制、社会保険収入
🇩🇪 ドイツ✅ プラス傾向財政均衡条項(黒いゼロ)政策
🇱🇮 リヒテンシュタイン✅ 黒字常態小規模政府+税制優遇効果
🇱🇺 ルクセンブルク✅ 黒字安定金融サービス課税収入が大
🇳🇱 オランダ✅ 黒字傾向安定税収+支出抑制
🇳🇴 ノルウェー✅ 大幅プラスオイルマネー(GPFG)からの還元
🇸🇬 シンガポール✅ 構造的黒字国営投資収入+消費税拡大
🇸🇪 スウェーデン✅ 黒字維持高税制+民間主導経済
🇨🇭 スイス✅ 黒字分権・低支出体質+税収安定

  • キャッシュフローがプラスとは:
    → 通常、経常的な税収・投資収入・社会保険収入などが支出(福祉・教育・軍事等)を上回る状況を指します。
  • PL黒字+CF黒字=財政健全国という構造が共通。
  • これらの国々は、「税・歳出・資産運用」のいずれかで最適化されており、一時的な赤字が出ても長期的には純資産増加傾向にあります。

✅ まとめ:AAA国のキャッシュ創出力

これらの国々はすべて:

  • 発生主義+複式簿記で国家財務を整備
  • 中長期でキャッシュフロー黒字を維持
  • 財政余剰を年金基金や国家ファンドに積み立て(ノルウェー、シンガポール、スイスなど)

一部のAAA格付け国では、企業会計に準じた

  • 資産評価・減損会計
  • 外部独立監査(supreme audit institutions)
    を国家レベルで導入・実施しています。

ただし、すべての国が企業並みのIFRS完全準拠で運用しているわけではなく、国際公会計基準(IPSAS)またはそれに準じた制度で運用されています。

📌 減損会計とは?

減損とは、資産の帳簿価額が回収可能価額を超えた場合にその差額を損失計上する企業会計上の処理。
国家資産でも、例えば不動産、機器、投資持分、在庫などが対象になりうる。

📊 AAA国家が資産に減損を適用する意義

  • 📉 過大評価された国家資産を帳簿価額に反映
  • 🧾 財務健全性・純資産の実態把握
  • 💼 政策評価や公的資本効率(ROA)の透明化

🌍 国際基準の枠組み

  • IPSAS(International Public Sector Accounting Standards)
    → 公的部門のIFRSに相当。多くのAAA格付け国はこれに準拠または類似制度を導入。
  • OECD/GFS2001(IMF)
    → 減損や時価評価を含む公的会計標準。国家財政モニタリングに利用。

🧾 詳細:国家資産の監査と減損制度

国名減損会計の導入外部監査機関備考
🇸🇬 シンガポール✅ 一部適用(固定資産など)Auditor-General’s Office(AGO)国有企業と準拠、GICやTemasekはIFRSベース。
🇨🇭 スイス✅ 減損ルールありFederal Audit Office(SFAO)連邦統合財務諸表は発生主義・減損含む。
🇳🇴 ノルウェー✅ GPFG含むIFRS対応Riksrevisjonen(会計検査院)オイルファンドはIFRSベースで資産評価。
🇩🇪 ドイツ△ 限定的(多くは簿価主義)Bundesrechnungshof(連邦会計検査院)会計制度は国家特化だが透明性は高い。
🇸🇪 スウェーデン✅ 減損会計ありNational Audit Office(Riksrevisionen)会計制度はIFRS類似モデルを採用。
🇸🇬 シンガポール(Temasek)✅ IFRS完全適用Big4が監査(例:PwC)国営投資法人として完全民間監査対応。

U.S. Department of the Treasury

Financial Report of the United States Government

Current Report: Fiscal Year 2024 – PDF version

Accountant-General’s Department-Singapore

FY2023/2024 Government Financial Statements

Federal Finance Administration-FFA Swidzerland

Federal consolidated financial statements