単年ROICと複利IRR、割引現在価値DPV
GAASではROICを3つの要素に分解している。
ROIC=投下資本元本✖️資本回転率✖️NOPATマージン
ここでROIC > 30%をハードルレートとし、ROIC>100%を目標とすると、グローバルTop10, グローバルTop 1の企業と同等の経営目標となる。
しかし一方で、ROIC10%だとしても日本の大手企業が全社目標にするほどなので、ROIC30%というのはまず国内では相談相手もいないし、相談するとしても実践している人といえばGlobal Top10企業のCEO、つまり、ティムクックやサティアナデラに相談するしかないということになる。
ROIC>30%というのは極めて稀なパフォーマンスであるため、周囲を見渡しても簡単に見つかるようなものではなく、一般的にすごいと崇められている上場企業最大手のビジネスモデルを因数分解し、究極的な旨みエッセンスのみを取り出すような、にわとりから鶏がらスープを取り出すような作業である。
ROIC 30%と言ってもこれを直接的に探しても見つからない。通常、投下資本、つまり元本が必要となり、投資した初年度から純利益が素直に出てくることは稀なので、少なくとも1年以上のタイムラグがあってROICはプラスに転じる。また、シェアの拡大とともにROICは高まっていくものであり、10億円単位で成立したROIC100%も、100億円単位でスケールした場合に同様の手法でROIC100%が達成できるかというとそうではない。
つまり、ROIC >30%のハードルレートを現実的に達成するためには、一度赤字を経験しなくてはならない。この理由から、限界利益の出ている事業コアを分解してユニットエコノミクスを評価したり、収益コアのROICを基準として、新たなROICを生み出すためのCAPEX, OPEXの一時的なマイナスのフリーキャッシュフローが許されるということになる。
これをロジカルに考えるために将来のキャッシュを現在に割り戻して、資本を投下するかどうかという割引現在価値(Discounted Present Value)という概念が生まれてくる。
例えば、10年後に合計100億円のキャッシュが得られるような場合、今10億円でその権利が得られるとすると、年間のディスカウントファクター=資本コスト(WACC)を10%としたら、0.9*10回かけて0.34というのが割引現在価値である。
もし仮に10年後に100億円のキャッシュが純利益として得られる事業であれば、34億円以下であれば、割安だということである。
1年後に10億円のキャッシュが得られる権利は9億円未満で買うことができれば等価交換よりも優れているため利幅が取れるということになる。
通常新規事業はベストシナリオで行ったとしても3年間はフリーキャッシュフロー(営業CF-投資CF)が赤字になる。したがって10年間を見たときに最初の3年がマイナスで後ろの7年で徐々にROICが高まる場合はどのように評価をすれば良いかというのを、資本コスト(WACC)、ディスカウントファクター、永久成長率などのパラメーターを用いて数理モデル化するのがディスカウンテッドキャッシュフロー(DCF)という手法である。
最初の3年間で例えば4,3,3億円で合計10億円マイナスになったとしても、4年目から1,3,5,10,15,20,25と10年かけて純利益が膨らむ場合、10年間のIRRは約39.11%となる。IRRはキャッシュアウトとキャッシュインを同時に評価した時の資本利回りを平均したものである。
イメージ的にはグローバルTop10の資本効率をもつ企業はこのような回収モデルである。
最初の3年投資し、収益が出て、回収する頃には部署移動してしまい、うやむやになってしまうというのが日本の研究開発や新規事業である。しかし、事業というものは基本的には最低10年、旨みが出てくるのが20年目から、世界シェアを確立するのが50年目というプロダクトも多い。
本当に良い事業とは10年経った後も永久成長率(インフレターゲット)の2%を超えて成長し続ける。リスクフリーレートである長期米国債の4%を1%でも超えるような永久に成長する事業がもし仮にあるとすると、もしそれ以外に代替競争先がない場合には、100年経つとその事業は世界中を制圧する。1%という数字は数十年経つと大きな差になって現れる。
事業を20年単位で考えることができる場合、それだけで資本利回りに関するアービトラージをすることができるということである。単年で考えているプレイヤーと、20年単位で考えられるプレイヤーとは、将来のキャッシュの現在価値の算定に数理的な乖離が生まれる。個々のプレイヤーの時間の制約がそれぞれ異なることにより数理によってwin-winの関係性が実現しうる。
✅ 長期で考えるプレイヤーの優位性
- 良い事業は10年後もインフレ率(例:2%)以上の永久成長が見込める
- 世界トップシェアは通常20年から50年かけて確立する
- 長期国債利回り(例:米国債4%)を超える事業は、時間をかけて市場制圧レベルの価値を蓄積
- → わずか1%の差でも数十年後には圧倒的な差に成長
✅ 資本アービトラージとしての時間戦略
- 20年スパンで投資判断できるプレイヤーは、それだけでIRR・NPV・DCFの観点から有利
- 時間感覚が異なるプレイヤー同士では、キャッシュフローの価値に数理的なギャップが生まれ、win-win構造が成立し得る
- 例えば5年のエグジット期限があるPE/VCと20年経っても売らなくても良いプリンシパル投資プレイヤーでは構造的にプリンシパル投資プレイヤーが長期的利益を享受することができる。
✅ 結論:GAAS戦略における資本効率の本質
ROIC ハードルレート30%超、目標100%以上を目指すには、短期の損益では測れない長期的・構造的思考が不可欠であり、ROIC・IRR・DCF・WACC・永続成長率などの各種パラメーターを総合評価した投資こそがGAAS型ビジネスの鍵である。
表面上フリーキャッシュフローがマイナスに見え、赤字決算のようにみえる投資も、時間を圧縮してみると、割引現在価値では常にわらしべ長者のように資産が膨れ上がっているということである。