DCF法による事業の割引現在価値評価|ディスカウンテッドキャッシュフロー

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DCF法による事業の割引現在価値評価|ディスカウンテッドキャッシュフロー

📈 成長率別に見る企業価値評価の基本

主に成長中の非上場企業企業の現在価値を評価する方法の一つに「DCF法(Discounted Cash Flow Method)」がある。減収減益フェーズであれ、成長フェーズの企業であれ、保有有形固定資産の有無に関わらず、キャッシュ創出能力によって平等に事業価値を評価する際には、DCF法が適している。DCF法は将来のFree Cash Flow(FCF)の成長率が大きな影響を与える。

本記事では、FCF₀ = 1.0 と仮定し、成長率10%、20%、30%、40%、50%、60% の各ケースにおける、5年間・10年間のDCF評価とTerminal Value(継続価値)を含めた**企業価値(Enterprise Value)**がどう変化するかを比較。

💡 DCF法の基本構造

DCF法では、以下のように企業価値(Enterprise Value)を算出する:

\[企業価値 = \sum_{t=1}^{N} \frac{FCF_t}{(1 + r)^t} + \frac{TV}{(1 + r)^N}\]
  • FCF₀:初年度のフリーキャッシュフロー(今回は1.0で統一)
  • r:割引率(WACC, 今回は10%)
  • g:FCFの年間成長率(ケース別に変化)
  • TV:Terminal Value(N+1年目以降のFCFを永久成長モデルで評価)業種によって2-4%で調整
  • t:各年

📊 計算前提(共通)

項目
FCF₀1.0
割引率(WACC)10%
永久成長率(Perpetual g)2%
対象年数5年 / 10年

📈 成長率別の企業価値(×FCF₀)

✅ 5年DCF + Terminal Value(EV)

成長率EV倍率(×FCF₀)
10%18.75
20%29.72
30%45.95
40%69.36
50%102.34
60%147.85

例えば、前年度(t=0)のFCFが10億円だった時に、将来5年にわたって10%のFCFの増加が見込める時の事業価値は18.75倍の187.5億円となる。5年間で毎年60%のFCF成長の予測可能性が高い場合、つまり5年後10.48倍のFCFに至っている場合の事業価値は147.85倍であり、FCF0=10億円であれば1478億円の事業価値となる。

✅ 10年DCF + Terminal Value(EV)

成長率EV倍率(×FCF₀)
10%23.75
20%52.45
30%90.33
40%242.54
50%495.48
60%980.27

同じ予測であっても、将来5年にわたって一定の成長率が見込める場合と、将来10年にわたって一定の成長率が見込める場合にはDCFの算定期間が変更され、10年後109倍のFCFに至っている場合の事業価値は980.27倍であり、FCF0=10億円であれば9802億円の事業価値となる。

🔍 分析ポイント

1. 成長率が高いほど、TV(継続価値)の比重が大きくなる

たとえば、成長率10%の企業では5年後のTVがEV全体の約68%程度ですが、30%を超えるとTVが企業価値の大半を占めるようになります。

2. 長期DCFを取るほど、成長率の影響は指数関数的に増大

10年DCFにすると、30%成長で企業価値は90倍に迫ります。これは、「将来の成長の期待」が極端に現在価値を押し上げることを意味します。

🧠 実務での留意点

  • 持続可能性のある成長率か?:DCFモデルは仮定に非常に敏感です。高成長が永続可能かどうかは業界構造や競争環境と照らし合わせて検討が必要です。
  • 割引率の設定:10%は一般的な仮定ですが、リスクプレミアムや金利状況によって調整されるべきです。
  • Terminal Valueに依存しすぎないか?:高成長企業ほどTVの比重が高くなりがちなので、仮定の透明性が問われます。
  • Net Cashの加算 
    • 実務的にはNetCash+Enterprise Value=Equity Valutとする。ネットキャッシュ=現金+短期有価証券-有利子負債
    • しかし実務上は有利子負債以外にも簿外債務や不良在庫などがあるケースが大半なので、EVの計算はネットキャッシュではなく、Net Asset Value(NAV)やForced Liquidation Value(FLV)を推奨。
  • ネットキャッシュがプラスでも、DCF(事業価値)がマイナス評価になる場合企業全体の株主価値(Equity Value)はネットキャッシュよりもディスカウントされる(=ネットキャッシュを下回る)こともある。

✍️ まとめ

DCFは上場株式におけるバリュエーションが割安か、割高かを測る際のマーケットの期待の折り込みをブレイクダウンして数値化することにも適用できる。例えば、PER30倍の企業があったとして、5年間のEPS, CAGRを20%と合理的に推測できる場合は適正価格であり、競争の激化等により20%を達成できなさそうな場合は割高である。