モノイド圏|Monoidal Category
「モノイド圏(Monoidal Category)」は、圏論における“テンソル積”や“並列的合成”を抽象化した構造です。量子力学・圏論的量子場理論・情報論・プログラミング言語の意味論など、現代数学・理論物理・計算理論の中核を成す重要な概念です。
🎯 定義:モノイド圏とは?
モノイド圏とは、圏において「対象どうしを合成する演算」が定義されており、それがモノイド構造(結合律+単位元)を満たすもの。
📐 正式定義(Mac Lane, 1960年代)
圏 C がモノイド圏であるとは、次のデータが与えられているときです:
🧱 データ構成
構成要素 | 意味 |
---|---|
⊗:C×C→C | テンソル積(合成):対象・射のペアを1つの対象・射に写すバイナリ操作 |
単位対象 I∈C | 合成の単位元となる特別な対象 |
自然同型 α | 結合律の緩和(associator): αA,B,C:(A⊗B)⊗C≅A⊗(B⊗C) |
自然同型 λ,ρ lambda, rho | 単位律の緩和: λA:I⊗A≅A , ρA:A⊗I≅A |
これらがMac Laneのコヒーレンス条件を満たす必要があります(図式が可換)。
🧠 直感的に:モノイド圏とは何か?
「並列的に組み合わせる力がある圏」
(例:モノを同時に操作する/合成するという考え方)
- 対象:プロセス・データ・空間・物理系など
- ⊗:それらを「一緒に」扱う方法(並列処理や共存)
- I:空っぽの入力、単位的プロセス、無のデータなど
🧪 代表例
モノイド圏 C | テンソル積 ⊗ | 単位 III | 意味 |
---|---|---|---|
Set(集合の圏) | デカルト積 × | 1元集合 | 並列データ構造 |
Vectk(ベクトル空間) | テンソル積 ⊗k | k(スカラー) | 多体系、量子状態 |
Ab(アーベル群) | 群のテンソル積 | Z | 群の合成構造 |
Cat(小圏の圏) | 圏の直積 | 単位圏 | メタ圏構造 |
Hilb(ヒルベルト空間) | テンソル積 ⊗ | C | 量子力学の状態空間 |
🔄 応用:なぜモノイド圏が重要なのか?
分野 | 応用例 |
---|---|
量子情報理論 | 量子系の複合、量子ビットのテンソル積 |
トポロジー | 結び目理論(トポロジカル量子場理論) |
圏論的意味論 | プログラミング言語における順序と合成のモデル化 |
代数幾何・層 | 2圏やトポスのモノイド構造として登場 |
ストリング理論 | 状態の合成や経路積分空間の構造化に寄与 |
✳ さらに進むと…
概念 | 説明 |
---|---|
対称モノイド圏 | A⊗B≅B⊗A(交換則)を持つモノイド圏 |
閉モノイド圏 | 内部Homを持つ: C(A⊗B,C)≅C(A,[B→C]) |
ストリング図式 | モノイド圏の射の合成とテンソル積を「図」で表す強力な方法(量子回路など) |
二重圏・2-モノイド圏 | モノイド構造をさらに高次化(2圏の中のモノイド) |
🧩 まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
定義 | 対象と射に対して「合成できる」演算 ⊗ と単位 I を持つ圏 |
特徴 | 結合律・単位律を「自然同型」として緩和 |
応用 | 量子論・意味論・構造論・物理理論など広範囲 |
中核思想 | 合成と並列性を圏論的に記述する |