アーベル圏|Abelian Category
「アーベル圏(Abelian Category)」は、代数的構造(とくに加群や加法的対象)を抽象化した圏で、ホモロジー代数や層論の基礎となる概念です。
🔶 定義:アーベル圏とは?
**アーベル圏とは、加法圏であり、核・余核・直和・商などの構造を備えた“加群のように振る舞う圏”**です。
GrothendieckやFreydによって形式化され、以下のような公理を満たす圏を指します。
📚 正確な定義(少し抽象的ですが重要)
圏 Aがアーベル圏であるとは、次のすべてを満たすときです:
- **加法圏(additive category)**である:
- Hom集合 Hom(A,B)がアーベル群
- 射の合成が双線形(bilinear)
- **零対象(zero object)**を持つ:
- 0が始対象でもあり終対象でもある
- 直和(direct sum)が存在する:
- 任意の2対象 A,BA, B に対して A⊕B (oplus) が存在
- すべての射に核(kernel)と余核(cokernel)が存在する
- すべてのモノ射(monomorphism)は核であり、エピ射は余核である
これによって、加群やアーベル群で行っていたホモロジー的な操作(写像の核、像、商など)が抽象的に定義できる。
🎯 直感的にいうと:
- アーベル圏 = 加群の圏と同じ性質を持つ圏
- 対象:アーベル群のような構造(加法、ゼロ、商が定義できる)
- 射:加法を保つ写像(ホモ群)
🔍 例:アーベル圏の代表例
圏 | 内容 |
---|---|
Ab | アーベル群の圏(典型例) |
R-Mod | 任意の環 RR 上の左加群の圏 |
Vectk | 体 kk 上のベクトル空間の圏 |
層の圏 Sh(X,Ab) | トポロジカル空間上のアーベル群値層の圏 |
導来圏 D(A) | アーベル圏 A\mathcal{A} から作る導来圏(chain complex) |
🧠 アーベル圏の意義
領域 | 意味 |
---|---|
ホモロジー代数 | 長完全列・導来関手(Ext, Tor)を定義する土台 |
層論 | 層係数のコホモロジーが定義できる |
代数幾何・表現論 | 代数幾何のコホモロジー理論(Grothendieck流)における圏論的枠組み |
導来圏・トライアンギュレート圏 | より高次の構造を導く基盤圏として用いる |
🔁 類似との比較
概念 | 包含関係 |
---|---|
アーベル圏 | ⊆ 加法圏(加法があるが核・余核はないかもしれない) |
加群圏 | ⊆ アーベル圏(特定の環に対する具体例) |
トライアンギュレート圏 | アーベル圏から導来的に拡張(射の「三角関係」も記述) |
✳ 数式でまとめ
アーベル圏 A において、すべての射 f:A→B は以下の構造を持つ:
- 核 ker f→k→A
- 余核 B→q→coker f
- 像と余像(正準的に同型): im(f)≅coim(f)
この像と余像が一致するのがアーベル圏の決定的特徴です。
🧩 まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
核心定義 | 核・余核が常に存在し、像 = 余像が成り立つ加法圏 |
哲学的意味 | 加群の性質を抽象的に定式化 |
重要性 | ホモロジー代数・導来圏の前提構造 |
応用 | 層、表現論、導来代数幾何、トポス、∞-圏論の基盤 |