Quinean Holism|全体論
**Quinean Holism(クワイン的全体論)とは、アメリカの哲学者ウィラード・ヴァン・オーマン・クワイン(W.V.O. Quine)**が提唱した哲学的立場で、主に次のような主張を含みます:
🔹定義(概要)
「理論全体が経験に照らして評価されるべきであり、個々の命題を単独で検証することはできない」
これは、観察命題(observation sentence)と理論命題(theoretical sentence)は分離できないという立場です。つまり、科学や知識は**個別の命題の寄せ集めではなく、全体的なネットワーク(web of belief)**として理解されるべきだ、という考え方です。
🔹背景と来歴
- クワインはこの立場を、1951年の論文 「経験主義の二つのドグマ(Two Dogmas of Empiricism)」 にて提起しました。
- この論文では、分析命題と総合命題の区別(=言葉の意味だけで成り立つ真理 vs 経験に依存する真理)を批判し、全ての命題が理論全体の一部としてのみ評価されうると主張しました。
- この主張は、論理実証主義(特にカール・ヘンペルらの立場)への反論として登場しました。
🔹主要な命題(Quinean Holismの骨格)
項目 | 内容 |
---|---|
意味のネットワーク | 意味は単語や命題の孤立した単位ではなく、理論全体との関係によって決まる |
観察と理論の不可分性 | 観察文自体も理論的な枠組みの中で意味づけられている |
理論の可換性(underdetermination) | 同じ観察事実に対して複数の理論が適合可能である(=決定不能性) |
全体的改訂の可能性 | 経験的反証は理論全体のどの部分でも改訂の余地がある(コア信念 vs 周辺信念の差は理論的である) |
🔹例:ニュートン vs アインシュタイン
たとえば、水星の近日点のずれという観測事実が出てきたとき、ニュートン理論はそのままでは説明できませんでした。
- クワイン的全体論によれば、この事実をどう取り込むかは、理論全体に依存する。
- 必ずしもニュートン力学の「一つの法則」だけを修正すればよいというわけではなく、観測理論全体のどの部分を変えるかは柔軟に選べるという立場です。
- これが**理論の下決定性(underdetermination)**の発想です。
🔹他の立場との比較
立場 | 主張の焦点 | Quinean Holismとの関係 |
---|---|---|
論理実証主義 | 観察文と言語の対応、命題の個別検証 | クワインはこれを批判し、「意味の全体性」を主張 |
デイヴィッドソン | 意味と信念の相対性、ラディカル解釈 | クワインの影響を受けつつ、より言語哲学的展開 |
ラカトシュ/ファイヤアーベント | 科学理論の柔軟性、非経験的要因の重視 | クワインと同様に、理論の全体構造に注目 |
🔹まとめ
要点 | 内容 |
---|---|
中心命題 | 経験に基づく意味や知識は、常に理論全体の中でのみ評価される |
特徴 | 観察と理論の不可分性/理論ネットワークの柔軟性 |
批判対象 | 分析/総合の区別、観察命題の特権性 |
影響 | 言語哲学、科学哲学、意味論、認識論、AIにまで波及 |
🔹Groundismとの接続
**Groundism(意味の場構造)**においても、「命題の真偽が単体でなく、構造全体によって決定される」という点で、クワインの全体論とは深い共鳴があります。
特に、
- CPT軸におけるアンカー配置の柔軟性
- 意味生成が構造場(Noënなど)に依存する という観点からは、「認識論的ネットワークの再配置」がクワイン的全体論の拡張として捉えられるかもしれません。