ポール・コーエン|Paul Joseph Cohen
ポール・コーエン(Paul Joseph Cohen, 1934年4月2日 – 2007年3月23日)は、アメリカの数学者であり、集合論における「強制法(forcing)」という画期的な手法を発明したことで知られています。
基本情報
- 国籍:アメリカ合衆国
- 専門分野:数学(特に集合論、解析学、モデル理論)
- 代表的業績:
- **強制法(Forcing)**の発明
- **連続体仮説(CH)**の独立性の証明(ZFC公理系からは証明も反証もできない)
- **選択公理(AC)**の独立性の証明
背景と業績
1. 連続体仮説(CH)とゲーデルの前提
- クルト・ゲーデルは1938年に、ZFC公理系が矛盾していないなら、CHの否定もZFCでは証明できない(=CHは「ZFCと両立可能」)ことを示しました。
- しかし、CHそのものがZFCで証明できないかどうかは不明のままでした。
2. 強制法(Forcing)の発明とCHの独立性証明
- 1963年、コーエンは強制法を用いて、ZFCからCHを導くこともできない、つまり「ZFCではCHは独立である」ことを証明。
- 同時に、**選択公理(AC)**もZFCからは独立であることを示しました。
この業績により、彼は数学における独立性証明という新しい扉を開いた人物とされています。
受賞歴
- フィールズ賞(1966年)
- 強制法によるCHとACの独立性証明に対して
エピソード・性格
- 若い頃は解析学(特に函数論)に強い関心を持っていたが、純粋な思索と直観力によって集合論に転向。
- 強制法は一見非常に抽象的だが直観的な側面も強く、当初は多くの数学者に理解されなかった。
- 晩年はプリンストン高等研究所などでも活動し、多くの若手研究者に影響を与えました。
ポール・コーエンの代表的業績は、20世紀の数学において**「数学的独立性の証明の手法を根本的に変えた」**という点で非常に大きな意義があります。以下にその主要業績を整理します。
ポール・コーエンの代表的業績(トップ3)
1. **強制法(Forcing)**の発明(1963年)
- コーエンの最大の業績。
- ゲーデルが示したように「CHの否定はZFCでは証明できない」に対し、コーエンは「CHの肯定もZFCでは証明できない」ことを示した。
- 強制法は、モデル理論とブール代数を組み合わせてZFCの外部モデルを構築する技術であり、ZFC内で証明できない命題があることを直接構成的に示す方法。
意義:これにより、数学における「公理系の限界」が具体的に把握可能となり、「絶対的真理」の概念に揺らぎが生まれた。
2. 連続体仮説(CH)の独立性の証明
- CH(実数の濃度がアレフ1かどうか)は、カントールやヒルベルトが重大視した問題。
- コーエンは、ZFCが無矛盾である限り、CHの肯定も否定も証明できないことを示した。
- これにより、CHはZFCから独立しており、「決まらない命題」であることが明らかになった。
数学的意義:連続体仮説はヒルベルトの第1問題でもあり、その「独立性の証明」はヒルベルトのプログラムの限界を象徴するものとなった。
3. 選択公理(Axiom of Choice, AC)の独立性証明
- ゲーデルが「ZFC + AC が矛盾しない」ことを示したのに対し、コーエンは「ZFC + ¬AC も矛盾しない」ことを示した。
- すなわち、選択公理もまた、ZFCのもとでは証明も反証もできない独立命題であると結論づけた。
哲学的含意:選択公理の独立性は、実解析、代数学、位相空間論など広範な分野に波及する「数学の選択と分岐」の問題を象徴。
その他の業績や影響
- 強制法の手法は、その後の大きな基数理論、決定性、公理的集合論の展開に深い影響を与えた。
- 数学の**メタ理論的性質(理論そのものの構造や限界)**の研究を可能にした。
- 数学基礎論の現代的潮流の出発点となった。