ノーバート・ウィーナー|Norbert Wiener
ノーバート・ウィーナー(Norbert Wiener, 1894–1964)は、20世紀を代表するアメリカの数学者・哲学者であり、「サイバネティクス(Cybernetics)」という概念を創始した人物です。その来歴は、異才ぶりとともに、人間中心の思想と技術の倫理的統制への強い関心が特徴です。以下、彼の生涯を時系列に沿って整理します。
🔹 ノーバート・ウィーナーの来歴
【1】幼少期と驚異的な早熟(1894–1909)
- 1894年11月26日:アメリカ・ミズーリ州コロンビアにて生まれる。
- 父:レオ・ウィーナー(ハーバード大学の言語学者、文献学者)
- 教育熱心で、ノーバートに極めて早期から言語、論理、数学を徹底的に教える。
- 11歳で高校卒業、14歳でタフツ大学を卒業(動物学)
- 父の教育のもとで複数言語に精通し、哲学・数学・論理学に傾倒。
【2】哲学と数学のあいだで(1909–1915)
- ハーバード大学で哲学を学ぶ
- ウィリアム・ジェームズやジョサイア・ロイスの影響を受ける。
- ケンブリッジ大学でバートランド・ラッセルに師事
- 論理学・数理哲学を学び、後の形式的記号論や制御理論に影響。
- 1913年:コーネル大学で動物学の研究助手
- 1914年:ハーバード大学で数学のPh.D.取得(19歳)
【3】学際的な彷徨と数学的基礎づくり(1915–1920)
- 戦時中:第一次世界大戦中に爆薬の計算、弾道計算の研究に従事。
- 一時期は保険会社や電話会社でも勤務。
- 1919年:マサチューセッツ工科大学(MIT)に着任
- 生涯の職場となる。
【4】MIT時代と「ウィーナー過程」の発見(1920–1940)
- 確率論、関数解析、調和解析、Fourier変換において数々の業績。
- **ウィーナー過程(Wiener Process)**を導入
- ブラウン運動の数学的モデル、現在の金融工学や熱物理にも応用。
- 1920年代〜30年代においては純粋数学者として高い評価。
【5】第二次世界大戦と「サイバネティクス」誕生(1940–1950)
- 第二次世界大戦中:敵機の動きを予測する自動制御システムの研究
- 対空砲の自動照準などに関与
- この経験が「サイバネティクス」理論の出発点となる
- 1948年:代表作『Cybernetics: Or Control and Communication in the Animal and the Machine』刊行
- 生物・機械の区別を超えて「情報・制御・フィードバック」によって生体も機械も共通の原理で動くとした画期的な思想。
- サイバネティクス=制御 + 情報 + 通信 の統合科学
【6】戦後の思想活動と警告(1950–1964)
- 軍事利用・核開発の反省から、科学者の社会的責任を強く訴えるようになる。
- 著書『人間の使い方』(The Human Use of Human Beings, 1950)は、サイバネティクス思想の倫理的展開。
- 自身のユダヤ人としてのアイデンティティや社会正義への問題意識も強く、差別や戦争に反対する活動に関わる。
【7】晩年と死(1964)
- 1964年3月18日:スウェーデン滞在中に心臓発作で死去(69歳)。
- 晩年まで講演活動や執筆を精力的に行い、科学の「人間性」と「倫理性」を問う希有な思想家・数学者であった。
🔸まとめ:ウィーナーの特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
早熟 | 11歳で高校卒業、14歳で大学卒業、19歳でPh.D. |
学際性 | 数学・哲学・言語・神経科学・工学にまたがる研究 |
科学の倫理 | 技術の暴走への警鐘、軍事技術への批判、人間中心の技術思想を提唱 |
代表的業績 | サイバネティクスの創始、ウィーナー過程、ノイズ・信号処理理論 |
影響 | AI、ロボティクス、IoT、認知科学、制御工学、情報倫理など多方面に影響 |