Homotopy Type Theory|HoTT、ホモトピー型理論
Homotopy Type Theory(HoTT、ホモトピー型理論)とは、型理論(Type Theory) と ホモトピー理論(Homotopy Theory) を統合した、21世紀初頭に登場した新しい数学的基礎理論です。数学・論理・計算機科学の交差点で発展しており、特に「証明=プログラム、型=命題」という Curry–Howard対応 を、空間的構造と結びつけて拡張する形で構築されています。
🔧 基本構造
1. 型理論(Type Theory)
- 「命題を型として扱う」という構造を持つ
- 証明は型の要素(term)として構成される
- 元々は直観主義論理(Constructivism)に基づく
- Martin-Löf型理論が代表的
2. ホモトピー理論(Homotopy Theory)
- 空間の変形(連続的な写像)に関する理論
- 位相空間や圏の「パス」や「高次パス」(2次、3次…)を扱う
- 特に、∞-グループイド(∞-groupoid)としての空間的な振る舞いに注目
🧠 HoTTの核心的な考え方
概念 | HoTTにおける意味 |
---|---|
型(Type) | 位相空間のような「対象」 |
項(Term) | 空間内の点(element) |
等価性(Equality) | パス(path、連続的な変形) |
等価の等価(Higher Equality) | パスのパス(2パス、3パス…) |
Univalence Axiom(一価性公理) | 同型であれば同一視できるという原理(Voevodskyが提唱) |
∞-groupoid | 各型が高次の等価性構造をもつグループイドとみなせる |
🧩 どんな特徴があるのか?
🔹 証明の「空間的」意味づけ
- 通常の数理論理では「命題は真か偽か」だが、
- HoTTでは「命題は空間として扱える」→ 証明はその中の経路
🔹 計算機と相性がよい
- Coq、Agda などの証明支援系と親和性が高い
- 形式的証明とプログラムが一致する(「証明駆動開発」)
🔹 数学基礎論としての可能性
- 集合論(ZFC)に代わる基礎理論の候補とされる
- 構成的、計算的、空間的な直観が統合されている
🏛 歴史・背景
- 2006–2013年頃:Vladimir Voevodsky(フィールズ賞受賞者)らによって提案
- 2013年:大規模な共同プロジェクト “Univalent Foundations Program” により HoTT の基礎文書『Homotopy Type Theory: Univalent Foundations of Mathematics』が公開
- プログラマ、数学者、哲学者によって急速に関心を集めた
🪜 Groundismとの関係(補足)
HoTTは「型」と「空間」、「証明」と「経路」、「構造」と「意味」を接続する理論であるため、Groundism™(意味の構造を場的に捉える理論)と非常に親和性があります。特に:
- Groundismが定義する「意味の場(Noën)」と、
- HoTTが記述する「証明の空間的多様性」
は、共に 脱線形的な意味の重層構造 を扱おうとする点で共鳴しています。
📚 参考文献・リソース
- Homotopy Type Theory: Univalent Foundations of Mathematics
👉 https://homotopytypetheory.org/book/ - HoTT wiki: https://homotopytypetheory.org/
- AgdaやCoqのHoTTライブラリ
- HoTTに関する講義動画(YouTube、MITなど)
🧩 まとめ
特徴 | 内容 |
---|---|
分野横断 | 数学、論理、CSをつなぐ |
空間的証明 | 証明をホモトピー的に再定義 |
計算可能性 | プログラムと証明の一致 |
構造の再定義 | 集合に代わる基礎体系の可能性 |
Curry–Howard対応(Curry–Howard Correspondence)
「論理の命題と型(Type)、証明とプログラム(関数) を一対一に対応させる理論的な対応関係」
です。これは 数理論理と型理論(および計算機科学) の間にある**深い構造的な同型性(isomorphism)**で、時に「命題=型、証明=プログラム」とも呼ばれます。
🧠 基本対応の一覧
論理体系(自然演繹) | 型理論(ラムダ計算) |
---|---|
命題 P | 型 T (P 型) |
証明 p : P | 項 t : T (Tの要素) |
論理積 P ∧ Q | 直積型 T × U |
論理和 P ∨ Q | 直和型 T + U |
否定 ¬P | 関数型 T → ⊥ (bottom型) |
含意 P → Q | 関数型 T → U |
全称量化 ∀x.P(x) | 型族に対する依存積 Πx:T. P(x) |
存在量化 ∃x.P(x) | 型族に対する依存和 Σx:T. P(x) |
🧩 わかりやすい例
🧪 命題:
「A ならば B」:A → B
💻 型理論的解釈:
関数型 A → B
、つまり「型 A
の入力に対して型 B
の出力を返す関数」
→ このとき、f : A → B
という関数 f
を書けることが、「命題 A → B
の証明がある」ことと同じ。
📌 重要な特徴
1. 構成的意味論(Constructive Semantics)
- 「証明がある = その証明を“構成”できる」
- 非構成的な証明(例:「背理法による存在証明」)とは異なる
2. プログラムが証明になる
- 関数を実装することが、命題を証明することに対応
- 実際に
f : A → B
の関数を書くことは、「A → B が真である」ことの証明
3. 証明支援系と連携
- Coq、Agda などの proof assistant での形式化に使われる
- 「証明を書きながらコードを書く」ことが可能に(証明駆動開発)
🧭 歴史と命名
- Haskell Curry:論理とラムダ計算の関係を考察
- William Alvin Howard:命題と型の対応を明確化(1969年の論文で「命題と型の等価性」を指摘)
- 時に Curry–Howard–de Bruijn対応 として拡張される(de Bruijnは型付きλ計算で形式化を行った)
🧬 Homotopy Type Theoryとの接続
HoTTでは、Curry–Howard対応をさらに空間的に拡張し:
- 命題=型(Type)
- 証明=空間内の経路(path)
- 証明の証明=高次ホモトピー
と再解釈され、∞-groupoid的構造として展開されます。
✅ まとめ:Curry–Howard対応とは
観点 | 内容 |
---|---|
意味 | 命題と型、証明とプログラムの対応 |
応用 | プログラミング言語、証明支援系、数理論理 |
形式化 | λ計算と自然演繹の構造的対応 |
本質 | 構成的意味論・構造的一致 |
現代的拡張 | HoTT, ∞-groupoid, 計算可能性の空間的拡張 |