ホモトピー|Homotopy

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ホモトピー|Homotopy

ホモトピー(Homotopy)の歴史は、トポロジーの発展とともに展開されてきた数学の一大潮流です。その本質は、「空間の連続的な変形」に関する概念であり、次第に代数的・論理的な枠組みへと進化してきました。

🧭 1. 初期:幾何的直観とルベーグ以前(19世紀末まで)

  • レオンハルト・オイラー(1707–1783)
    トポロジーの前史として、ケーニヒスベルクの橋の問題を解析し、グラフ理論と位相的概念の萌芽を形成。
  • ポアンカレ(Henri Poincaré, 1854–1912)
    1895年『Analysis Situs』で**基本群(π₁)**を導入。これが後のホモトピー群の祖型に。
    → 「ループを連続的に変形できるか?」という問いがホモトピーの直観。

🧩 2. 構造化と代数化(20世紀前半)

  • ホモトピーという語の正式登場(1920–30年代)
    パヴェル・アレクサンドロフとハインツ・ホップが、連続写像の同値関係としてのホモトピーを形式化。
    特にホップ写像やホップ束は、ホモトピーの高次構造の始まり。
  • ホモトピー群(πₙ)の導入(E.H.ホワイトヘッド)
    πn(X)\pi_n(X) は、n次元球面から空間 XX への写像のホモトピー類を表す。
    これにより、トポロジーの空間が「計算できる代数的対象」へと近づいた。

🏗 3. ホモトピー論の確立(1940–60年代)

  • ホワイトヘッド、セール、エイレンベルグ、マクレーンらにより、
    • CW複体
    • ホモトピー圏
    • スペクトルの概念
      などが整備。
  • ホモトピー圏の構築(Quillenのモデル圏, 1967)
    ダニエル・クイレンが「圏論的ホモトピー理論」を定式化。
    → この構造が、後に派生圏、∞-圏、HoTTへとつながる道を開く。

🧠 4. 高次ホモトピーと∞-圏論(1970–2000年代)

  • ∞-カテゴリ理論の発展(Joyal, Lurie ほか)
    高次ホモトピー構造を持つ圏=∞-圏が導入され、ホモトピー理論がより抽象的・柔軟な形に。
  • 安田正美、伊原康隆、May, Bousfield らの業績もこの時代に重なる。

💡 5. ホモトピー型理論(Homotopy Type Theory, HoTT)の誕生(2010年代〜)

  • 2006年以降:タイプ理論とホモトピーの接続(Voevodsky ほか)
    ウラジーミル・ヴォエヴォドスキーが、型理論の項がホモトピー型(∞-groupoid)を表すことに気づく。
  • 2013年『HoTT Book』の出版
    • 等式をパスとして扱う直観
    • Univalence公理の導入(等価性と等しさの一致)
    • 数学の新たな基礎理論としての提案

📚 関連思想との接続

理論関連性
圏論(Lawvere)トポス理論・モデル圏・論理とホモトピーの接続
ZFCと集合論集合論を超える構造的数学への転換点に

✨まとめ:ホモトピーの進化軸

幾何学的直観(ポアンカレ)
 ↓
代数的記述(ホワイトヘッド)
 ↓
圏論による構造化(クイレン)
 ↓
型理論との融合(ヴォエヴォドスキー)
 ↓
新しい数学の基礎(HoTT)

ホモトピーは「線形力学+非線形力学」というより、「位相空間の連続変形(非線形的な幾何変形)を追跡・分類するための構造」です。

🧭 類比としての「線形 vs 非線形力学」との関係

観点線形力学非線形力学ホモトピー論の対応
数学的対象ベクトル空間、線形写像多様体、非線形微分方程式位相空間、連続写像
解の構造重ね合わせ可能(線形)解が分岐・カオスありうる連続変形で分類(ホモトピー類)
幾何構造アフィン構造曲がった空間・特異点あり空間の大域的性質を扱う

👉 つまり、非線形的な空間や写像の分類・構造理解においてホモトピー理論が重要になります。

💡 ホモトピーとは何か(簡単定義)

ホモトピーとは、2つの連続写像 f,g:X→Y「連続的に変形可能」であることを意味する同値関係です。

  • 数式的には、
    H:X×[0,1]→Y によって、H(x,0)=f(x),H(x,1)=g(x)
  • これは「物理的に変形しても同じ形」とみなす考え方。

🔁 ホモトピー理論の中での「線形性」の扱い

ホモトピー理論は非線形の幾何的・トポロジカル構造を扱う理論です。特に:

  • 線形性は仮定されない(空間は歪んでいてもよい)
  • 微分構造すら不要(連続性だけで成立)
  • ただし、ホモトピー環境の中で「圏論的線形性」(例:加法圏、アーベル圏)が構成されることはある

ホモトピーは次のような力を持ちます:

  • 連続的な意味変形の形式化(型、意味、空間を滑らかに変える)
  • 非線形な変容の可視化(例:構造の位相的移行、空間の変容、アンカリングの追跡)

その意味で、

「線形の枠内で扱えない世界を分類・記述するための道具」=ホモトピー理論

と捉えることができます。

🔚 結論

ホモトピーは「非線形な変形全体を対象とし、それを分類・同定するための理論体系」です。
それは、「連続的変化」と「同一性」の境界を問い直す**強力な枠組みです。