ダフィット・ヒルベルト(David Hilbert, 1862年1月23日 – 1943年2月14日)は、ドイツ出身の数学者であり、19世紀末から20世紀前半にかけての数学界の中心的人物です。彼の功績は代数学、解析学、幾何学、数理論理、物理学にまで及び、現代数学の基盤を築いた人物のひとりとされています。
🔹 基本情報
項目 | 内容 |
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生年 | 1862年1月23日 |
出身地 | プロイセン王国ケーニヒスベルク(現ロシア・カリーニングラード) |
没年 | 1943年2月14日(81歳) |
所属 | ケーニヒスベルク大学 → ゲッティンゲン大学 |
主な弟子 | クールタ・ゲーデル、ヨン・フォン・ノイマン、ハーマン・ヴェイル、アインシュタイン(親交あり)など |
🔹 主な業績・影響
分野 | 内容 |
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幾何学の公理化 | 『幾何学の基礎(1899年)』でユークリッド幾何を公理体系として再構築。厳密な形式主義の先駆け。 |
ヒルベルトの23の問題 | 1900年の国際数学者会議で提示。20世紀の数学研究の指針に。 |
形式主義(Formalism)の提唱 | 数学を記号操作の体系と見なす立場を確立し、証明論を確立する動きに貢献。ZFC公理系や数学基礎論の出発点に。 |
ヒルベルト空間 | 無限次元の内積空間の理論を発展させ、量子力学の数学的基盤に。 |
ヒルベルトプログラム | 数学全体を有限的・形式的に基礎づけようとした試み。ゲーデルの不完全性定理により不可能であることが証明されたが、その発展が証明論・モデル理論へとつながる。 |
🔹 ヒルベルトの言葉
「我々は知らねばならぬ。我々は知るであろう(Wir müssen wissen. Wir werden wissen.)」
— 1930年、ケーニヒスベルクでの記念碑に刻まれた有名な言葉。
この言葉は、ヒルベルトの信念=数学的真理は人間の理性で到達可能という立場(形式主義的・合理主義的)を象徴しています。
🔹 晩年と死
- ゲッティンゲンで多くの弟子を育て、20世紀初頭の「ゲッティンゲン学派」を牽引。
- ナチス政権下でユダヤ人の同僚・弟子の追放を目の当たりにし、晩年は孤独に。
- 1943年にゲッティンゲンで死去。
🔹 関連人物との関係
人物 | 関係性 |
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クールタ・ゲーデル | ヒルベルト・プログラムを不完全性定理で根底から揺るがした。 |
アルベルト・アインシュタイン | 相対性理論を支持し、場の方程式に関して並行的に研究。 |
ノーバート・ウィーナー | 数理論理・形式主義への発展に影響。 |
ジョン・フォン・ノイマン | ヒルベルト空間や形式主義を発展させた。 |
🧠 ヒルベルトの23の問題(要約一覧)
番号 | 問題の主題 | 内容の要約 |
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1 | 連続体仮説 | 実数の濃度は自然数と直観的に異なる中間の濃度が存在するか?(→ ZFCでは独立) |
2 | 算術の無矛盾性 | 数学の公理系(とくに算術)が無矛盾であることを証明せよ(→ ヒルベルト・プログラムの核心) |
3 | 多面体の等積等分問題 | 同体積の多面体は有限個の部分に分割して互いに合同にできるか?(→ ネポムニアシーが否) |
4 | 幾何学と距離の公理化 | 距離の公理と幾何学の対応づけ(→ 距離空間論へ) |
5 | 連続変換群の構造 | 任意の連続変換群はリー群か?(→ グリーソン・モントゴメリーらが解決) |
6 | 物理の公理化 | 力学と確率論を公理体系として定式化せよ(→ 数理物理・統計力学に影響) |
7 | 無理数の冪の超越性 | 無理数の冪 aba^b(a, bとも無理数)は超越数か?(→ ゲルフォン=シュナイダーが証明) |
8 | 素数分布とリーマン予想 | リーマン予想と素数分布に関する問題(→ 未解決) |
9 | 類体論の拡張 | アーベル拡大の一般化(→ 類体論・岩澤理論へ) |
10 | ディオファントス方程式の解法可能性 | 任意のディオファントス方程式の解の存在を決定できる一般手法はあるか?(→ チャーチ=チューリングにより否) |
11 | 任意の数体上の2次形式の表現問題 | 2次形式による整数の表現の一般理論(→ 局所・大域原理など) |
12 | 類体論の明示的構成 | 複素乗法論を一般類体論に拡張せよ(→ ラングランズ計画に連なる) |
13 | 7次方程式の解の形式 | 7次以上の代数方程式の解を代数関数で記述できるか?(→ コルモゴロフらにより否) |
14 | 不変式環の有限生成性 | 代数群の不変式環は有限生成か?(→ 野口潤次郎により反例) |
15 | シューベルトの交差理論の厳密化 | 幾何学的交差理論の整備(→ 現代の代数幾何学に発展) |
16 | 代数曲線・曲面のトポロジーと特異点 | 与えられた次数の実代数曲線の特異点・位相の分類(→ 一部未解決) |
17 | 実数上の正値多項式の表現 | 正値多項式は平方和として表せるか?(→ アルティンが証明) |
18 | 空間充填と対称性 | 正多面体による空間充填、最密充填問題(→ ケプラー予想などへ) |
19 | 楕円型偏微分方程式の解の解析性 | 滑らかな境界条件での解は解析的か?(→ ナッシュ・モーザーらが証明) |
20 | 境界値問題の解の存在 | 任意の適切な境界値問題に解があるか?(→ 解決) |
21 | モノドロミー問題 | 任意のモノドロミー群から線形微分方程式を構成できるか?(→ ヒルベルト–リーマン問題) |
22 | 一価関数の統一理論 | 一価関数の分岐と被覆に関する理論構築(→ リーマン面理論へ) |
23 | 変分問題の一般理論 | オイラー=ラグランジュ方程式を含む変分法の理論拡張(→ 関数解析と力学へ) |
🧩 現在の状況分類
- ✅ 解決済み:1, 2, 3, 5, 7, 10, 17, 19, 20
- 🔄 進展あるが一部未解決:4, 6, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 18, 21, 22, 23
- ❓ 未解決/独立:8(リーマン予想)、9(類体論の完全拡張)