Yang-Mills Theory|ヤン=ミルズ理論、ゲージ理論
定理:ヤン=ミルズ理論(Yang-Mills Theory、ゲージ理論)
標準模型(Standard Model)の原点は本質的にヤン=ミルズ理論(Yang–Mills theory)にあります。厳密にいえば、標準模型はヤン=ミルズ理論に基づくゲージ理論であり、そこに**フェルミオン(物質粒子)とヒッグス場(質量生成機構)**が加わって構築されています。
🔧 標準模型の構成:すべてはヤン=ミルズから
✅ 1. ヤン=ミルズ理論(1954)
- C. N. YangとRobert Millsが発表。
- アーベル(U(1))である電磁気から、**非アーベル群(SU(N))**への拡張: ゲージ場:\[\text{ゲージ場}:A_\mu \in \mathfrak{su}(N), \quad F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu – \partial_\nu A_\mu + [A_\mu, A_\nu]\]
- **局所対称性(局所ゲージ不変性)**を保ちつつ、力の媒介粒子(ゲージボソン)を記述可能。
✅ 2. 標準模型のゲージ構造
- 標準模型のゲージ群:\[ YSU(3)_C \times SU(2)_L \times U(1)_Y\]
- SU(3)_C:量子色力学(QCD)→ グルーオン(gluons)
- SU(2)_L × U(1)_Y:電弱統一理論(Glashow–Weinberg–Salam)→ W, Z, 光子
- すべてヤン=ミルズ型ゲージ理論で書ける。
✅ 3. ヤン=ミルズの上に載るフェルミオンとヒッグス
- フェルミオン(電子・クォークなど):
- 群の表現に従ってゲージ場と結合
- ヒッグス場(スカラー場):
- 自発的対称性の破れ(SSB)を起こし、ゲージボソンに質量を与える
- SU(2) × U(1) 対称性が破れ、電磁気U(1)だけが残る
🧩 ヤン=ミルズの意味:標準模型を統一するトポロジカルな土台
- ヤン=ミルズ理論は、「力の場」の動的構造を幾何学的に記述する。
- 主束(principal bundle)と接続(connection)という微分幾何的枠組みにも接続:
- 場=接続、ゲージ変換=バンドルの構造変換
- 現代的には、ヤン=ミルズ理論はトポロジー、微分幾何、表現論、ホモロジーなどの数学と密接に関係。
✴️ まとめ:標準模型の起源はヤン=ミルズにある
構成要素 | 内容 | ヤン=ミルズとの関係 |
---|---|---|
ゲージ対称性 | SU(3), SU(2), U(1) | すべて非アーベルヤン=ミルズ理論 |
力の媒介粒子 | グルーオン、W, Z, 光子 | ゲージ場(Aμ) |
物質粒子 | クォーク、レプトン | フェルミオン場 |
質量生成 | ヒッグス機構 | 対称性の自発的破れ |
歴史的重要性:
ヤン=ミルズ理論は1954年に楊振寧(Chen Ning Yang)とロバート・ミルズ(Robert Mills)が提唱したゲージ対称性に基づく場の理論である。元々は強い相互作用を説明する目的で導入されたが、後に素粒子物理学の標準模型(Standard Model)の基礎理論として定着し、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用を統一的に記述する枠組みとなった。現代物理学における理論的基盤を形成し、物理学全般に多大な影響を及ぼした。
発表者:
- 楊振寧(Chen Ning Yang)
- ロバート・ミルズ(Robert Mills)
生年月日:
- 楊振寧:1922年10月1日
- ミルズ:1927年4月15日
出生地:
- 楊振寧:中国・安徽省合肥
- ミルズ:アメリカ合衆国・ニュージャージー州エングルウッド
主な論文(業績):
『アイソトピック・スピンの保存と一般化されたゲージ不変性』
(Conservation of Isotopic Spin and Isotopic Gauge Invariance, 1954年)
発表年:
1954年
発表場所(主な所属機関):
アメリカ合衆国・ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory)
受賞:
ヤン=ミルズ理論自体はその後の多くのノーベル賞受賞業績の理論基盤となっているが、ミルズ自身はノーベル賞を受賞していない。
楊振寧はヤン=ミルズ理論ではなく、1957年に別の業績(パリティ非保存)でノーベル物理学賞を受賞している。
代表的な公式(ヤン=ミルズの場の方程式):
\[{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}^a F^{\mu\nu a}\]ここで、
\[F_{\mu\nu}^a = \partial_\mu A_\nu^a – \partial_\nu A_\mu^a + g f^{abc} A_\mu^b A_\nu^c\]公式の説明:
- L\mathcal:ラグランジアン密度
- Aμa A_\mu^a:ゲージ場(ゲージポテンシャル)
- Fμνa F_{\mu\nu}^a:ヤン=ミルズの場の強度(強度テンソル)
- g:ゲージ結合定数
- fabc:ゲージ群の構造定数(リー群の構造を表す)
- この理論は非可換なゲージ対称性(ゲージ群)を持ち、粒子間の相互作用をゲージ場の交換として記述する。標準模型においては、SU(2)×U(1)ゲージ群(電弱統一理論)やSU(3)ゲージ群(量子色力学)として現れる。
親交の深かった科学者(関連研究者):
- リチャード・ファインマン(Richard Feynman、場の量子論の研究)
- ジュリアン・シュウィンガー(Julian Schwinger、場の量子論)
- シェルドン・グラショウ(Sheldon Glashow、電弱理論の完成者)
- スティーヴン・ワインバーグ(Steven Weinberg、電弱理論の完成者)
- アブドゥス・サラム(Abdus Salam、電弱理論の完成者)
ヤン=ミルズ理論は、20世紀後半以降の素粒子物理学と場の理論の基礎を築いた、現代物理学における最も重要な理論の一つである。