製造原価の3倍、営業CF51%のプライシングは魔法の数字である|Holorogy

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製造原価の3倍、営業CF51%のプライシングは魔法の数字である|Holorogy

Patek Philippe, Audemars Piguet, Rolex, Richard MilleなどのハイエンドウォッチやCartierなどのハイエンドジュエリーは1000万円〜数億単位と、1点の値段が高いので、粗利益率もさぞや高いだろうと想像する人は多いかもしれない。確かに、ハイエンドの2軍のブランドは、製造原価の5~7倍の販売価格にしつつ、店舗費用や広告費をかけるというファッションメゾンのような戦略をとっているところがある。しかし、三大時計、頂点メーカーは意外と良心的な価格設定をしているのである。

通常、時計のバリューチェーンはジュネーブ等で製造される生産会社と、日本などの流通を扱う販売会社の2つに区分される。

製造会社は30%の営業利益を得て税引後20%の純利益を得る。

販売会社は40%の粗利に対して、10%の販管費をかけ、税引後20%の純利益を得る。

RMはセカンダリーの中古市場も扱っているが、日本においては粗利10%、営業利益5%税引後純利益3%しかとっていない。

セカンダリーで価格崩壊しない1億円の時計の製造コスト

製造側

6000万円の下代。70%が製造原価(30%内製30%外注10%設備)、1800万円が営業利益

販売側

1億円の上代のうち40%、4000万円の粗利益。うち1本あたり1000万円の販管費で3000万円が営業利益。1本平均5000万円を30名で年間400本販売すると200億円の売上、50億円の純利益になる。

代理店

もし代理店を使う場合は代理店は10-15%の粗利で5%の純利益が残る。(1本販売で1000万円の営業利益)ファッションメゾンだとしても下代は70%で小売店のマージンは30%はあるが、高級時計の最上位カテゴリーは10%の粗利でも500万円の営業利益で十分成り立つ。

バリューチェーン全体で製造原価の3倍の価格、営業CFマージン51%

製造原価の3倍、営業CFマージン51%以上という構造は、意外とバリューチェーンの各プレイヤーが大きなマージンをとっているわけではない。1億円の時計の製造コストは4200万円強ある一方で、営業利益は全体に5300万円(53%)も残る。製造小売の直売で広告宣伝費や店舗費用、物流費を最低限まで下げたバリューチェーンは大きな利益を残す構造を持っている。百貨店やテレビCMに支払うコストはゼロである。

1本1億円の時計の輸送費や在庫コストはほぼ無視して良いくらい少ない。つまり、タイムピース市場というのはHolorogyの頂点であり、実は規模の経済が働いたローコストオペレーション市場なのである。

正規店で購入直後に1.5倍以上に値段が上がる理由

製造原価の3倍という価格設定を守るメゾンの製品は消費者が購入した直後に30%-100%価格が上がる。18K金無垢のロイヤルオークは1000万円で購入したものが購入直後に1500万円〜2000万円で売れるのである。

1000万円の売価だとすると製造原価が333万円。ファッションメゾンが5-7倍の製造原価倍率で価格設定しているとすると、333万円の原価のものは、1665万円〜2331万円の価格設定でも売れるものである。しかし、Rolex, Patek Philippe, Audemars Piguet, Richard Milleなどの頂点ブランドはあえて製造原価を増やすことなく、消費者がセカンダリーでも利益を確定できるセーフティマージンを残している。セーフティマージンを残すというゴール設定の違いは全組織、エコシステムに正しいフィードバックと学習効果を促す。一方で三大時計の一角や成長ブランドであっても、価格設定や流通構造を間違えていることによりジリ貧に陥っているメーカーもある。ファストファッションは製造原価2-2.5倍で売るかわりに在庫回転率をあげて営業CF15%、FCFマージン10%、ラグジュアリーファッションは製造原価3倍にも関わらず、営業CF25%、販管費や在庫コストでFCFマージンは15%しかない。

Holorogyの歴史的トップ集団には時代とともに新たなプレイヤーが追加されてきている。

1.VC(1755)→2.PP(1839)→3.AP(1875)→4.Rolex(1905)→5.RM(2001)→?

AIプレイヤーへの比喩:時計ブランドの“勝者モデル”はAI市場でも通用する

この“勝者モデル”は、どのAI企業がトップに立つかを予測するうえでも有効である。

  • Google と NVIDIA は、パートナー・ディストリビューターが健全な利益を得られる価格設計によって勝っている
  • AWS や Azure は先行者ではあるが、長期的リーダーを維持するには財務モデルが弱い

プライマリー価格はあくまで「希望」小売価格、セカンダリー価格が財やサービスの真の価格である。

時計市場は高度に発達したセカンダリーマーケットにより、メーカー価格は「希望」小売価格であり、真の価格はリセール価格になっている。プライマリープライシングはあくまでメーカーの希望であり、真の価格を決めるのはグローバルの需要なのである。時計産業は成熟した市場と言える。他の市場も徐々に金額が成熟するにつれて、セカンダリープライシングが真の価格になる。例えば、M&Aもそうである。売り手が多くなってくると、プレミアムは消え、10年後にセカンダリーで売る前提で、10年後に2倍というインフレ耐性があるかどうかが企業価値の原則である。財やサービスの価格設定は、金融商品が気軽に手に入るようになった現代においては、10年後に2倍になるものを販売しているか、プライマリーだけでなくセカンダリーまで神経が伸びているかが重要になる。

金を稼いだ富裕層だからといって、1億円で買ったものが翌日に5分の1になるような支出はしない。他人よりも富を増やす習慣で大きくなったのが富裕層である。富裕層であればあるほど、セカンダリープライスが気になるものである。

バリューチェーンを垂直統合し、地球全体で最適な流通価格を設計することで、次の6番目のプレイヤーが出てくるに違いない。